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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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Je te veux(下)

※本文途中の18禁部分は裏に掲載しました。



+ + + + + + + + + +
彼は重苦しい闇の中をたゆたっていた。
それはほんの一年前には日常だった日々。
まもりは未だ声を失い、手を伸ばし抱きしめても視線も交わらないという、寂しい夜の記憶。
冷たく強ばった顔は、無言のまま彼を苦しめ続ける。
それも仕方のない話だ。
誰のせいでもない、彼がまもりを酷く傷つけたから。
だからこの苦しみをあえて忘れようとは思わない。
思わないのだ、けれど―――。
揺さぶられて意識がぷかりと表面に浮き上がる。
唐突な覚醒に、二度、三度と瞬きをして。
薄く墨を流したかのような闇の中、まもりがこちらを見ている。
じっと、言葉もなく。
当然だ。
彼女は声が出ない。
誰のせいでもない、彼のせいで。
「・・・?!」
腕を伸ばし、強引に引き寄せる。
驚愕に見開かれた瞳に構わず、ベッドへと組み伏せた。


「・・・っ、・・・・!」
声で諫めることもできず、まもりは無言で首を振り、主の手をかわす。
どうにか彼の下から抜け出そうとしたまもりの身体に絡む腕。
「・・・」
縋るような腕、そして熱。
彼の体温はまだ高い。風邪が治っていないのだ。
まもりは思わず抵抗を忘れ、主を見つめる。
「逃げるか」
熱のせいか、端々が不明瞭な声。
動きを止めたまもりはそのままそっと手を伸ばす。
宥めるように抱きしめると、主の髪をそっと梳いた。
穏やかな仕草に主は瞬いて、そうしてまもりの唇に己のそれを重ねた。

□■□■□

まもりは気怠い身体を無理矢理起こし、落とされた洋服を身につけた。
彼の熱が移ったかのように足取りが覚束ない。
彼は文字通り泥のように眠っていた。その寝顔は随分と穏やかだ。
先ほど性急に求めてきた時のような、置いていかれた子供のような切なさは失せている。
きっと明日には熱が下がっているだろう、そんな確信がある。
ほっと安堵の吐息を零してまもりはその頭を撫でる。


私は少しも悔やまない
望みはたった一つだけ
あなたのすぐそばで すぐそばのそこにいて
ずっと生きること―――


まもりは知らず口ずさんでいた。
あれほどに言葉が紡げなかったのが嘘のように。
そして自らの声に驚き動きを止めた。
一体、何故唐突に声が復活したのだろうか。
まもりは眼下の主をもう一度見つめる。
どこか、自分でも判らない心の奥深く。
薄暗い何かを溜め込んでいたのだろうか。
彼や、今のこの生活に何一つ不満はないと頭では思っていたけれど、違ったのだろうか。
「・・・ん」
寝返りを打つ彼の腕が探るように伸びた。
それに触れ、まもりは笑みを浮かべる。
そして気づいた。

そうか。
きっと、自分は―――主の奥底に眠る後悔を、癒やしてあげたかったのだ。
こんな時でもなければ絶対に弱みを見せない彼だから。

己の失声の理由を理解し、まもりはどれだけ主を愛しているのかを再度認識し、苦笑する。
指を滑らせ、その間を通り抜ける金色に一つ、思いついた。
主が全快したら、一緒に外に散歩へ行こうと提案してみよう。
この金色の髪が輝く隣を歩くのだ。
子供も連れて、セナや鈴音と一緒に、みんなで。


再びまもりは口ずさむ。
幸福な想像に満ちたリズムは、ゆったりと穏やかに夜闇に溶けていった。

***
いばら姫の『夜が幸いであるために』の続きでした。声が出ないままなのもなんなんで、と。
随分前に『箱庭の隅で』の龍生さんが読みたい、って仰って頂いていたのを思い出してちまちま書いてました。
んでも裏がねー進まなくてねーと先延ばしにすること×ヶ月。やっと出せました!
色々詰め込もうとしてたら裏がすごく長くなりました。でもそう言うシーン的な長さはないし、正直ここに載せた方が流れ的にいいんじゃないかと悩みましたが、やっぱり教育上よろしくないのでやめました。
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