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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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Je te veux(上)

(ヒルまもパロ)
※いばら姫シリーズ『夜が幸いであるために』の続きです。

 


+ + + + + + + + + +
まもりの声が失われて数日後。
当初こそ再び声が出ないまもりに周囲は動揺した。
けれど主との諍いや他の悪い要因があって失われたわけではないと理解したためか、使用人達の動揺はわりとすぐ収まった。
心の乱れが収まらなかったのは、主ただ一人。
当人は秘書であるセナにはそこそこの文句を言っていたが、それだけでは収まらず八つ当たりのように日頃の数倍の仕事を片づけ続けていた。
そうなれば当然頭も身体も酷使することになるわけで。
いくら化け物じみた体力と頭脳を持っている主であっても、疲労は蓄積する。
再三にわたってセナが休息するように言っても聞き届けないままに。
そうして、その危惧は現実となって主に現れた。

「過労による風邪です」
青ざめたまもりが人づてで呼び出した医者は、仕事中に倒れて寝台へと運び込まれた主を診断してそう告げた。
「朝早くから夜遅くまでろくに休憩も取らず働けばそうなりますよ」
呆れたようなセナの声に、医者も苦笑するばかり。
「そうですね・・・」
セナはこの一件に関してはかなり冷静に言い放つ。
主の身体を心配して再三休憩して欲しいと進言しても全く聞き入れず、結果寝込むハメになった彼に同情の余地はないと言いたげに。
まもりは高熱のためか静かに眠る主の手を取り、心配そうにその様子を見ていた。
「大丈夫ですよ、奥様。ゆっくり養生されて滋養のある食事を召し上がればすぐ治りますから」
医者の言葉にまもりはきゅ、と彼の手を握る。
「お仕事につきましては向こう一ヶ月何もされなくてもいいくらいの量を片づけてらっしゃいますから、心配無用です」
セナはその他の会合やら晩餐会やらの欠席を告げてきます、とその場を後にしようとして。
ふと気づいて傍らに控えていた鈴音を呼ぶ。
「鈴音」
「何?」
「ご主人様が起きられても大人しく寝ているようにして欲しいんだ」
それに鈴音は寝台の主とその傍らのまもりを振り返り、セナに視線を戻してにっこりと笑った。
「じゃあ私は退席させて頂く方がいいわね」
意地っ張りなあの主はまもり以外の前ではろくに休もうとしないだろう。
病人の看病は本来ならまもりがすべき仕事ではないが、主に対しては例外。
二人きりの方が落ち着くだろうと。
「うん、それがいい」
セナもにっこりと笑い、二人で退席する旨と、何かあったら呼び鈴を鳴らすようにと告げて寝室を後にした。


こんこんと主は眠り続ける。
まもりは彼の汗の浮かんだ額を拭い、氷を入れた氷嚢を当てる。
疲れから来た風邪で命に別状はないと言われても、多少の不調なら押し隠す彼が倒れたことでまもりは息が止まる程驚いた。
いつも隣で眠っているのにその不調を見抜けなかった自分が酷く腹立たしい。
朝、昼と無理矢理起こして重湯と薬を与えた。
眠っている間の顔は見ただけで呪われそうな程不機嫌そうで、それが体調不良から歪んでいるのだと知っていても不安になる程だ。
時刻は夕刻、そろそろまた起こして先ほど鈴音が持ってきてくれた重湯を与え、また薬を与えなければ。
『風邪にはよく眠るという薬が一番です』
医者はそれでも一応薬を出してくれた。滋養強壮の薬だという。
これ自体に治癒力はないが、疲労した身体には栄養が一番だから、と。
まもりはそっと主の身体を揺さぶる。
本来なら声を掛けて起こしたいところだが、声が出ないのではしょうがない。
なるべく優しく、根気よく揺さぶる。
そうして。
不意にぱちりと、主の眸が開いた。

<続>
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