忍者ブログ
旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

* admin *  * write *  * res *
[388]  [387]  [386]  [385]  [384]  [383]  [382]  [381]  [379]  [380]  [378
<<10 * 11/1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30  *  12>>
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

終焉の刃・1

(ヒルまもパロ)
※『いばら姫』・『血の呪縛』の続きです


+ + + + + + + + + +
貴族だけが集う社交界に、金色に輝く髪を持った男が一人。
ただでさえ金髪は人目を引くのに、それを天に刃向かうかのように逆立て、悪魔じみた顔をする男に少し前までなら近寄る者はいなかった。
彼は貴族ではないのになぜだかそこにいて、ひどく餓えたような視線で獲物を探していたから。
けれど一人の少女をその手に掛けてから、名実共に貴族の名を得て彼はそこに姿を現すようになった。
そうなれば彼を無視するわけにもいかず、声を掛ける者が出てきた。
だが、話しかけてみれば彼はかつて見せたあの餓えたような視線が嘘のように、実に穏やかに振る舞った。
さすがに度を超して砕けて話す者こそいなかったが、皆一様に彼への認識を改めることになった。
元より若くして才能ある実業家として充分名を馳せていたところに、後継者がない家に婿入りして仕事も請負い、そして資産は目減りするどころか倍増しているという。その屋敷の娘はとても美しいが、心を病んでいるのだとか。それでも構わず彼は彼女を妻にと望んだそうだ。
人前には心を病んでいるので出せないが、彼女の事をとても大事にしていると聞く。
そんな彼の人柄を褒め讃える人も多かった。見た目には悪魔のようだが、実際はかなりの人徳者だ、と。

その評価に歪む口元に含まれる感情が読み取れる人物は、幸いにもこの場にはいなかったけれども。


蛭魔の名を捨て、彼は姉崎妖一として社交界に姿を現している。
彼は屋敷に着くと、やってきた使用人にばさりと上着を渡し、階段を上る。
廊下を行き、ひとつの扉を叩いて彼はするりと室内に入り込む。
そこには青白い顔をしたまもりが一人椅子に座っていた。特に何をするわけでもなく、ただそこに。
「まもり」
名を呼ぶと視線を寄越すが、その口はぴったりと閉じて開かない。
深い青の瞳は重く淀んでいる。
「来い」
呼べば彼女は立ち上がって大人しく彼の腕に身体を委ねる。
だが、それだけだ。
彼女にとっては夜ごと訪れる苦痛の時なのだろう。伏せられた瞳は彼を見ない。
彼はくっと口角を上げた。蔑むような笑みを見ても、まもりは表情を変えない。
その唇に己のそれを落としながら、彼はきつくまもりを抱きしめた。

使用人の一人が結婚を理由に職を辞すことになった。そこで新たな使用人が雇われ、屋敷の主の元へ顔を出す。
「瀧鈴音と申します。よろしくお願いいたします」
すっと頭を下げた彼女を、屋敷の主は不躾に眺めた。
「顔を上げろ」
「はいっ」
しゃんと背筋を伸ばして立った彼女を、隣に立つ女中頭が心配そうに見ている。
どこか落ち着かない雰囲気なのを見て、なんでこの子が採用になったのかと不思議でしょうがないという表情も交えて。
「テメェの仕事は妻の話相手だ。身の回りの世話もな」
「奥様、の」
彼女はぱちぱちと瞬く。てっきり給仕や掃除等の仕事に回されるのだと思っていた彼女はその言葉に驚いた。
使用人風情が話相手、というのは幼い頃くらいで、基本的に庶民が貴族と口を利く事なんてそうそうない。
貴族の女性なら貴族の友人あたりと歓談しそうなものだが。
「行けば判る」
そう素っ気なく言って手を振る彼にもう一度頭を下げ、隣に立っていた女中頭と共に執務室を後にする。
「・・・ど、どきどきしました」
「そうね。私も緊張したわ」
苦笑する女中頭は鈴音の頭を撫でる。
「さあ、次は奥様にご挨拶しましょうか。あなたは奥様のお話は聞いた事がないのよね?」
「? はい」
鈴音は先日まで隣村の商家に奉公していたのだが、こちらの噂は全く耳にしなかった。
たまたま今回紹介があってこちらに来ただけで、詳しい事情など全く知らない。
「その方がいいかしら。・・・あのね、奥様はお心を病んでらっしゃるの」
「お心を・・・」
「だからお話しもされないし、私たちにお声を掛けてくださる事もないわ」
「え・・・」
主は話相手、と言ったではないか。疑問をそのまま顔に貼り付ける彼女に女中頭は痛ましそうな顔になる。
「けれどお声を掛ければ視線は向けてくださるし、ある程度時間が経てば何をご所望かとか、そういったことは判るようになるの」
「へえ、そうなんですか」
「あなたは若いし、奥様とは年もさほど変わらないでしょうから、よく話しかけて差し上げてね」
「どんなことでもいいんですか?」
「ええ。・・・あ、そうね・・・」
そこで佐川は言いよどむ。そして周囲を伺って、そっと鈴音に耳打ちした。
「あまりご主人様の事はお話ししない方がいいわ」
「え?」
どうして、と尋ねたかったけれど、彼女もそれ以上は話してくれなかった。
鈴音は不可思議な説明に首を傾げつつ、案内された先で先ほどと同じように挨拶をしようとしたが。
「・・・・!!」
そのあまりの美しさに言葉を失った。
抜けるように白い肌、神様が気合いを入れて作ったんじゃないかと思える程整った造作、すんなりと細い手、見えないが足もきっとそうなのだろう。
けれど虚弱というのではなく、服の上からでも判る豊かな胸と桃色の唇が色香を醸していて。貴族の血が青いというのは嘘じゃないのかも知れない。
同じ赤い血が流れているなんて思えないくらい白くて美しい。
愁いを帯びた表情を覆う髪は赤茶。瞳は今まで見た事がない碧。その瞳がこちらをじっと見ている。
「・・・」
無言で背を軽く叩かれ、鈴音ははっと我に返った。
「あ、あの! 私、ここに今日からお世話になります瀧鈴音です! 奥様のお話相手ということ、なんですが、その・・・!」
すっかり上がってしまった彼女をまもりは変わらず見つめている。
「よ、よろしくお願いします!!」
ぴょこんと頭を下げる様がまるでコメツキバッタのような飛び上がりようで。
ふいにまもりの口角が僅かに上がる。
それを見た女中頭は目を丸くし、鈴音はぽやんと見とれた。
「・・・凄く綺麗・・・」
その言葉には飛び上がって彼女を諫める。
「瀧さん!!」
「やっ!」
失礼な口の利き方をした、と鈴音も気づいて青くなるが。
まもりはすい、と手を挙げた。
ぎこちなく招くような仕草に二人は顔を見合わせたが、いち早く我に返った女中頭に背を押され、鈴音はまもりの近くに寄った。
「奥様?」
それに彼女はやや寂しそうな顔をした。女中頭にすっと視線を向ける。
「・・・あの、瀧さん。奥様の事はまもり様とお呼びして」
「まもり様?」
まもりは鈴音に手を伸ばす。触れたいのだろうか、としゃがみ込んだ鈴音の顔をまもりは撫でる。
「まもり様・・・」
まるで妹を慈しむような手つきに、鈴音は思わず頬をゆるめる。するとまもりも僅かにだが楽しそうに見えた。

使用人の食事時間に鈴音は他の使用人達とも顔を合わせ、挨拶をした。
皆気さくで鈴音はすぐ馴染む。元より人見知りをしない、明るい性質なのも幸いした。
「奥様はお綺麗だろ?」
「ええ! すごくお綺麗でびっくりしました」
それにお優しいんですね、と続けると隣で食事を摂っていた使用人が目を丸くする。
「え? でも奥様はお話されないでしょ?」
「うん」
でも判るの、と言えば使用人達は一様に顔を見合わせ、それから苦く笑った。それに鈴音は首を傾げる。
先ほどの女中頭といい、今の間といい、なんでみんなそんな表情なのだろうか。
「・・・お前みたいな子が来てくれてよかったよ」
「奥様の支えになってあげてね」
口々にまもりを気遣う言葉に、直接告げればいいのにと思うが。
奥様、と呼ばれただけであんなにも寂しそうだった彼女の姿、主人の話をしてはならないという暗黙の決まり事。
・・・もしかして夫婦生活はうまくいってないのだろうか、と鈴音は考える。
だがまだここに来たばかりだ。あまり先走って色々と聞いてはならないだろう、と彼女は好奇心を押しとどめる。
もっとまもりを知った後に誰かにこっそり聞こう、そう思った。

鈴音が仕事を終え、使用人達が生活する別棟に足を向けようとしたとき、その前に立つ人影に気づき、足を止めた。
「・・・ご主人様?!」
まさかこんなところに、という場所で遭遇した主に鈴音は驚く。
彼は足音も立てず鈴音の側に歩いてきた。
「あいつはテメェを気に入ったらしいな」
淡々とした声に表情。鈴音は注意深く彼を見つめたが、何を言いたいのかは読み取れなかった。
「仕事を追加だ。テメェは明日から最後に下がる前に、必ず俺にコーヒーを持ってこい」
「はっ?!」
聞こえなかったか、という彼の言葉に首を振って、鈴音は一体何を求めているのだこの人は、と混乱する。
よもやまさか身体を求められるのか、と青くなって自分の躯を抱きしめた鈴音を彼は鼻で笑う。
「ガキには興味ねぇ」
「ガキって!」
思わずかっとなってしまって、その後慌てて口を塞いだが、それでも彼はにやにやと笑うだけで、何も咎めず歩いていってしまった。
鈴音は足音を潜めてその後を追い、彼がどこに進むのか見ていた。
彼は躊躇いもなくまもりの室内に姿を消す。
少し見ていても出てくる気配はないので、そこで夜を過ごすつもりなのだろう。
考えてみればあれほどに綺麗な女性が妻なのだ。
自分で言いたくはないが未だ発育不良の鈴音に対して、そういう趣味でもなければ手出しする気持ちもないのだろう。
夫婦仲が悪い訳ではないのだな、と一人納得しながら鈴音は別棟へと歩き出した。

<続>
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

管理人のみ閲覧可能にする    
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
カウンター
プロフィール
HN:
鳥(とり)
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。

【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
最新コメント
[01/05 鳥]
[01/05 NONAME]
[10/21 NONAME]
[10/11 坂上]
[10/02 坂上]
最新トラックバック
バーコード
ブログ内検索
アクセス解析
フリーエリア
powered by NINJA TOOLS // appeal: 忍者ブログ / [PR]

template by ゆきぱんだ  //  Copyright: hoboniti*kotori All Rights Reserved