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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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終焉の刃・3



+ + + + + + + + + +
「・・・どうしてお二人はいつも寂しそうなんだろ」
鈴音はぽつんと呟いた。
ここの使用人達は皆一様に気さくだが、同時にひどく口が堅かった。
どうしてあの二人は、と鈴音が零しても、誰も咎めない代わりに誰も教えてくれないのだ。
外の人に尋ねようにも、外に出る用事のない鈴音は使用人以外に接点がない。
日中はまもりの傍らにいるため、ふらりと外に出る事も出来ない。
どうしたものか、と思案しつつ何気なく廊下から外を眺めると、誰かがこちらを伺っているように見える。
「え?」
二階からだから距離もあり、相手の容姿まで見えないが、どうやらあれは男のようだ。
じっとこちらを眺めている。正確には、まもりが常にいる部屋のあたりを。
そしてふいと彼は姿を消した。
ただの通りすがりにしては熱心に見えた。
・・・一体誰なんだろうか。

そして鈴音はその後もたびたび彼を見かけるようになる。
人目を憚るように時刻はまちまちだが大体夕刻か夜に。
ある夜、鈴音は主にコーヒーを持っていった後、そっと抜け出してみた。
今日も彼がいるかどうかは確認していなかったが、きっといるような気がしたのだ。
「・・・いないかな」
きょろきょろと周囲を伺ってみたが、人気はない。
仕方ない、戻ろうと踵を返した途端、伸びてきた腕が鈴音を音もなく浚った。

意識がまだ朦朧としているが、鈴音はゆっくりと瞼を開く。
薄暗い室内に鈴音は横にさせられていたようだった。
「・・・気がついた?」
ひそりと掛けられた声に、鈴音ははっきりと意識を取り戻し、飛び起きた。
「ヤー!!」
つんざくような悲鳴に、目の前の男は思わず耳を押さえる。
鈴音は咄嗟に逃げ出そうとしたが、腕が縛られていてバランスが取れず、足が揺らいでしまった。
そこを難なく押さえ込まれる。
「やー?! 誰か・・・ッ」
その口を男に覆われ、難なく鈴音は再び男の前に引きずり戻された。
「騒いでも誰も来ないよ」
くす、と笑うのは鈴音とそう年の変わらない青年だった。
あの二階を伺っていた青年に違いない、と直感した。
けれどまさか鈴音を浚うとは予想外だった。
こんなことならこっそり出てくるんじゃなかった、どうしようどうやって逃げようか、と焦る鈴音に、彼は落ち着いて、と囁く。
「話がしたいだけなんだ。腕は一応保険で縛ったんだけど、僕の話を聞いてくれるなら解いてあげる」
そろそろと口を解放されて、鈴音はキッと青年を睨みつける。
「泥棒に入りたいから手引きしろとか奥様を浚いたいから手伝えとかご主人様を殺したいから手を貸せとか言われても無理!!」
一息に叫ばれた鈴音の言葉を聞いて、青年はきょとんとした後、にっこりと笑った。
「よかった」
「何が?!」
「ヒル魔様もまもり様もお元気なんだね。それに、ちゃんと慕われてるんだ」
「え・・・?」
ヒル魔? 聞き慣れない名に鈴音は首を傾げる。
「君は知らないかな。今のご当主の元のお名前だよ」
「元・・・?」
「そうだよ。自己紹介が遅れたね。僕はあの屋敷に勤めていた小早川瀬那っていうんだ」
動きを止めた鈴音の手を彼は慎重に解放した。鈴音はじっと彼の手元を見つめる。
「勤めていた? 今は違うの?」
「うん、ちょっと事情があってね」
彼はよく見れば左手が少し不自由なようだ。動きがどことなくぎこちない。
「お二人が元気なら・・・」
そう言いつつも、なにか言いたげな彼に、鈴音は口を開いた。
「お身体は元気なようだけど、心は違うわよ」
それにセナはばっと顔を上げた。
その表情が驚きというより、やはり、という確信に満ちているのを鈴音は見つめる。
「私はつい最近このお屋敷に勤め始めたばかりだから、その理由はわからないけど、でも・・・」
セナはじっと続きを待っている。鈴音はセナの瞳を見つめた。
彼は知っているのだ。あの寂しい当主夫婦のことを。
鈴音はずっと誰にも尋ねられなかったことを口にする。
「ねえ、お二人はなんでああなっちゃったの? 誰に聞いても教えてくれないし、まもり様も口を利かれないし」
「口を利かない?」
不審そうなセナに、鈴音は頷く。
「そうよ。なんでも、お心を病んでいらっしゃるから、って聞いているわ。前からじゃないの・・・?」
それにさっとセナが青くなる。
「そんな・・・まもり姉ちゃん・・・」
呟くそれが親しげで、鈴音はセナの襟首を掴んで詰め寄る。
「ねえ、あなたあのお二人にとって何なの? お二人はいったいどうして・・・」
「ま、待って」
「待てないわ! もう見ていられないの、お二人ともなんであんなに寂しそうなの?!」
堰を切ったように鈴音は洗いざらいぶちまける。あの屋敷にあっては誰にも聞けず、言えなかった言葉を。
「まもり様は奥様と呼ばれるのだって嫌だという素振りをされるのに、私がご主人様のお話をするときは穏やかだし、でも翌朝必ず辛そうだし、ご主人様は人づてに奥様の様子を伺うのにご自分では夜に訪れるだけだし、まもり様はお食事だってお散歩だってどんな些細なところでも絶対外には行かないし」
支離滅裂な言葉をセナは黙って聞いていた。鈴音は不意に言葉を途切れさせると、俯く。
セナはすすり泣く鈴音の頭をそっと撫でる。
「・・・話すと、長くなるんだけどね。聞いてくれる?」
それに鈴音は目元をぐい、と拭って黙って頷いた。

「おはようございます」
いつものように鈴音が顔を出すと、まもりは顔を見るなり眉を顰めた。
「どうされました?」
鈴音の手を引いて座らせると、額に手が触れる。
まもりのひんやりした手が心地よくて鈴音はほっと息をついた。
けれどまもりは青ざめてオロオロするばかり。
「まもり様?」
立ち上がろうとするのを押さえつけて、まもりは廊下へ歩いていってしまう。
外に行くのかしら、珍しい、とぼんやり眺めていると、どうやら廊下で捕まったらしい女中頭が慌ててやって来た。
「瀧さん!? ・・・本当、ひどい熱・・・」
ああ、熱が出たのか、と思った途端身体がだるくなる。
そういえば起きたときからだるかったけれど、昨日の話を聞きながら泣きすぎたせいかと思っていたのだ。
「どうかしたか」
そこに騒ぎを聞きつけたのか、主が顔を出した。
鈴音は熱に浮かされながら彼が夜でもなくここを訪れるなんて珍しい、とぼんやり思っていたが、鈴音の手を握るまもりの表情があからさまに強ばったのを見逃さなかった。
「ご主人様、申し訳ありません。瀧が熱を出したままこちらに伺ってしまったようです」
それに主はぴんと片眉を上げる。
「ア? ・・・離れろ、まもり」
近寄ってきて鈴音から離れさせようとした彼に、まもりは首を振って抵抗する。
その手が細かく震えているのを感じて、鈴音は掠れた声でまもりに話しかける。
「大丈夫ですよ、まもり様。私はどこにも行きませんから」
「・・・」
不安そうに鈴音の手を放さないまもりに、舌打ちして主はぐいっと彼女を押しのけた。
優しさの欠片もない仕草に鈴音は眉を寄せる。
「テメェがくっついてたら部屋に連れ戻せねぇだろうが」
まもりが泣きそうな顔をしているのを一瞥して、彼は鈴音を無造作に抱えて立ち上がった。
「あ、誰か人を・・・」
「いいから先に医者を呼べ。こいつを部屋に放り込んでくる」
女中頭が言うのに構わず、主はさっさと鈴音を抱えて歩き出す。
何事かと目を丸くする使用人達に仕事に戻るよう告げながら歩みは止まらない。
イライラしているのがよく判って鈴音は小さく謝罪した。
「申し訳ありません・・・」
「全くだ」
「奥様に、移らないと、いいんですが・・・」
それに彼はふん、と鼻を鳴らした。
「判ってるなら体調管理はちゃんとしやがれ」
「・・・ご主人様も、そう仰って差し上げればよろしいのに・・・」
ただまもりのことが心配だから、と一言だけでいい、言えば全然違うのに。
それを病人の譫言と断じて彼はとりあわない。
「どうせどう触れても言っても、同じだ」
ぽつりと落ちた、密やかに寂しい呟きは、鈴音の胸を軋ませるには充分だった。

<続>
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