忍者ブログ
旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

* admin *  * write *  * res *
[385]  [384]  [383]  [382]  [381]  [379]  [380]  [378]  [370]  [371]  [368
<<08 * 09/1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30  *  10>>
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

影色艶噺



+ + + + + + + + + +
「・・・まいったなあ」
雨が降り出したので、まもりはとりあえず手近な家の軒先に駆け込んだ。
程なく土砂降りになったので間一髪といえよう。
けれど身動きできず、ほとほと困りながらただ空を見上げていた。
ちゃんと雨が止んだらみんなを捜そう。でも、見つけられなかったらどうしよう。
不案内な街中で、はぐれてしまうと連絡手段は何もない。街中じゃケルベロスは呼べないし。
そんなまもりに傘を差して歩み寄る人影があった。
「もし? お嬢さん、お困りですか?」
「え?」
見上げればそこには綺麗な顔をした男が立っていた。
「見れば傘もない様子だし、どこかにお使いの途中かな?」
「え、ええ。急に降られてしまって・・・」
まもりは曖昧に笑う。そういえば妖怪集落以外の面々と二人きりで話した事はない。
緊張しながらもまもりは笑みを浮かべて男を見上げた。
「せっかくだし送ろうか?」
「え、え?!」
「遠慮しないでさ、ほら」
「え、ええと、でも、あの・・・」
まさか行き先が判りませんとは言えず、まもりはどうしたものかと困り果てる。
「・・・ならさ、ちょっと寄っていく? うち、お店やってるんだ」
「お店、ですか」
男は含みのない顔でにっこりと笑っている。
まもりは逡巡したが、まだ雨が当面止みそうにないので男の後に付いていく事にした。
差し出された傘に入るまもりに男は名乗る。
「俺の名前は令司。変わった名前だろ?」
「え? そう、でしょうか」
何しろ人間の名前の普通がどうかなど知らないまもりは答えられず、小首を傾げる。
そんな様子にちょっと目を見開き、そしてふっと目元を和ませて令司は笑った。

男が案内したところは、まもりが今まで見た事がない所だった。
まず町に入るのに橋を渡り、大きな門をくぐる。
門扉の傍らには大きな篝火があり、雨が掛からないように屋根が設けられている。
門扉を越えたところには桜が植わっていた。
不自然な季節に咲き誇る桜、それも雨で大分散ってしまっている。
「もう・・・夏、ですよね?」
「ああ、ここの桜は地方から取り寄せて夏まで咲くんだ」
見れば門扉の中にある建物はどれも見事な朱塗りの壁だ。
それらには漆黒の窓枠が嵌っている。
軒先に下がっている提灯は繊細な作りで、近くで見れば細かな透かし彫りが施されていた。
「きれい、ですね」
「・・・」
それに令司は答えず、肩をすくめただけだ。
中でも一際大きな店に彼は躊躇いもなく入った。
「え、ここ、ですか」
「そう」
玄関先からまもりが嗅いだ事がない匂いが感じられる。
躊躇いながらもまもりは彼に倣って店に足を踏み入れた。
嗅ぎ慣れない香り、どこからか聞こえてくる喧噪。
酒に浮かされたようなそれには聞き覚えがあるが、酷く曖昧な感じがする。
『雀のお宿』とはまた違った、けれどどこか似たような雰囲気にまもりは目の前に歩く彼に問いかける。
「ここは、旅館なんですか?」
それに彼は意味深な笑みを浮かべた。
「・・・君、どこから来たの?」
「え?! え、ええと、あっちの方の・・・」
やはり上手く答えられないまもりの背後ですっと障子が開く。
そこですかさず令司の手が彼女を押した。
「え」
とん、と押されて入った先は、真っ赤な壁の和室だった。
黒と赤の部屋が、小さな明かりに仄かに照らされている。
けれど薄暗い印象が拭えず、ゆったりとした闇がたゆたっているかのようだ。
「ここは・・・」
「何のお店かは言ってなかったね。ここは遊郭にある『白秋屋』だよ」
「ゆう・・・かく・・・」
「まさか普通の女の子が、この大門をくぐっても平然としてるとは思わなくてね」
にやり、と先ほどとは打って変わって暗い表情になった彼に、まもりはさっと青ざめる。
今更ながら、今まもりはかなり危ない状況だという事にやっと気がついたのだ。
ぱしん、と背後で障子が閉まる。途端にどこかからか聞こえてきていた喧噪は全て遮断された。
「これで音はどこにも漏れない。さて」
令司は立ちつくすまもりを見下ろす。
「君は、人間じゃないね?」
「な、なんでそんな・・・」
気丈に振る舞おうとするが、大股に間を詰められ、顎を捕らえられる。
「それに『術』の匂いがする。誰の手の者っちゅー話・・・」
そこまで言った彼の手が、咄嗟に引かれた。途端、そこを過ぎったのは鋭い爪。
「ケルベロス!」
ケーン、と声を上げて胸元からケルベロスが姿を現した。
まもりの正体を見抜いたのなら彼もただの人間ではない、と判断した賢い管狐は自ら飛び出してきたのだ。
「管狐か」
令司は突然現れた巨大な狐にも平然としている。
グルル、と唸るケルベロスはそれでもそれ以上動かない。
「よくしつけられてる。ここから逃げられないっちゅーのも判ってるみたいだね」
それにまもりはケルベロスにしがみつく。
ぴたりと寄り添うが、目の前の男から感じる威圧感に鳥肌が立つ。寒くもないのに震えが止まらない。
「あ、あなたこそ・・・何者、なの!?」
「俺? 俺は―――」
その時。
「人の女に手ェ出すんじゃねぇよ、糞マツゲ」
閉じられてどこにも抜け出せないと思っていた空間に、さっと走った金色の光。
「ヒル魔くん・・・!」
鮮やかに煌めく、この空間にはそぐわない男がそこに姿を現した。
ケルベロスは役目が終わったとばかり一声鳴いてまもりの胸元に戻る。
「やっぱりあんたの女か。最近こっちに姿を現さないと思ったら」
肩をすくめる男に、ヒル魔は構わずまもりの隣に立った。
「迷子になってたのを連れてきたんだから、感謝されこそすれ、怒られる筋合いはないっちゅー話だよ」
「その割には悪戯が過ぎるナァ」
軽口を叩きながらもその口調の端々に不機嫌さが満ちていて、まもりは後が怖いと思いつつヒル魔にしがみつく。その背に触れる大きな手のひらの暖かさにまもりはほっと息をついた。
「たまには息抜きに来なよ。女一人で満足するアンタじゃないだろ?」
その言葉にまもりはヒル魔を見上げる。
不安げなまもりの顔を胸に押しつけると、ヒル魔はにいっと笑った。
「テメェはよっぽど命が惜しくないらしい」
「ちょ、ちょっと待って! え?! なによこんな冗談くらいで・・・」
「生憎と俺はもうこんなところで遊ぶ気がないんでナァ」
ヒル魔の気配がざわざわと変わっていくのを、最も近くにいるまもりは文字通り肌で感じる。
「ヒル魔くん・・・」
途方に暮れたように名を呼ぶと、そっと背を撫でられる。
その感触にまもりは気づいて口をつぐんだ。
大丈夫。ヒル魔がここにいるのだから。
迸る気配に令司が悲鳴を上げる。
「ちょっと! うちの店が壊れる!!」
「景気よく更地にしてやろうか? そうなりゃ『不笑の傾城』(わらわずのけいじょう)も身売りだナァ」
その言葉を聞いた途端、どこか巫山戯た雰囲気を残していた令司の目つきが変わった。
「・・・彼女に手を出すな」
「おやァ? 冗談デスヨ」
「あんたの冗談はある意味冗談じゃないっちゅー話・・・」
ざわざわと令司の気配も妖しく蠢く。まもりが更にヒル魔にしがみついたその時。
「令司、やめなさい」
襖を開いて、美しい緑の着物に身を包んだ女性が現れた。
長い黒髪は複雑に結い上げられ、絢爛豪華な髪飾りに彩られている。
まもりはその艶姿に思わず息を呑んだ。
「丸子」
すっと令司の気配が収まった。同時にヒル魔も気配を収める。
「久しぶりね」
「息災か」
「御覧の通り。戯れはほどほどにして頂戴」
「冗談だ」
「どうだか」
冷たいとさえ思える物言いにも、ヒル魔は動じた様子がない。
どうやら令司同様、丸子と呼ばれる彼女とも顔見知りであるらしい。
す、と彼女はまもりの方を向いた。漆黒の瞳がひたりとまもりに向かう。
「妙な事に巻き込んで申し訳なかったわ。この人の戯れ事は気にしないで頂戴」
「あ、はい」
「戯れ事、って・・・そりゃないよ丸子」
口を尖らせる男の頭をさらりと撫でて、彼女はくるりと踵を返す。
「お客を待たせてるの。失礼するわ」
「丸子~」
すたすたと歩き去る彼女の後を、忠犬よろしくついていく令司の姿を見送って、ヒル魔は肩をすくめる。
「帰るか」
「うん」
すっかり毒気を抜かれたまもりは、こっくりと頷いた。
まもりを抱え、迷路のような店内を迷うことなく歩いたヒル魔は、廊下の片隅にひっそりと忘れられたように存在していた扉を開いた。
そこをくぐれば見慣れた屋敷の廊下。
「え?!」
「おや、懐かしいところからお帰りですね」
雪光が笑顔で二人を出迎える。
「先ほどまで皆さんご帰宅をお待ちになってましたが、既にお帰りになりました」
鈴音ちゃんも無事に帰ってきましたよ、という一言にまもりはほっと息をつく。
「あ、よかった」
そんな彼女にヒル魔はじろりと冷たい視線を向けた。
「人の事心配してる場合か。あいつらは妖怪なんだからその気になりゃ一足で帰ってこられるんだよ」
「・・・う。ごめんなさい」
小さくなるまもりを見て、雪光が苦笑しながら取りなす。
「まあまあ。ご無事で何よりです。今お茶を淹れますよ」
先ほどまで赤と黒で構成された空間にいたせいか、まだ落ち着かない。まもりは忙しなく瞬きする。
「どうした?」
「うん、目が・・・」
「見せろ」
覗き込むとどこか膜が張ったような気配。
ヒル魔は小さく舌打ちすると、その瞳をぺろりと舐め上げる。
「ひゃっ!? ・・・あ、治った」
「糞マツゲの術だな。相変わらず狡い奴だ」
ついでにふっとまもりに息を吹きかけると、彼女は見慣れた元の姿に戻った。
「なんの術だったの?」
「幻覚の一種だ。単なる目眩ましだな」
「ふうん。あの人、強いの?」
それにヒル魔は首を振った。
「糞マツゲは『獏』だ」
「ばく?」
そこにあたたかいお茶を持って戻ってきた雪光が口を開いた。
「人の夢を食べて生きる妖怪です。獏は市井で生活も出来ますが、遊郭の方が色々と目眩ましが効くんです」
獏は本来人の夢を食べて生きる。
だから妖怪たちが住まうこの集落ではエサがないので生きていられない。
人が多く、昼夜を問わず誰もが起き続ける遊郭は、裏を返せばいつでも誰かの眠りが傍らにある。
獏には居心地の良い場所だ。
それに獏はエサを得るのに特別な力を要しないため、一様に脆弱である。
ただ、彼は少しばかり獏の中でも勝手が違う。
「あの白秋屋の中は暗かっただろう」
「? ええ」
「今この屋敷を見て暗いと思うか?」
まもりはぐるりと屋敷を見渡した。
明かりは二人がいるところか雪光がいるところのどちらかに少しだけ灯るだけで、基本的に室内が常に照らされている訳ではない。なのに、そんなに暗いとは感じなかった。
「・・・暗くないわ。さっきのお店の方がずっと暗かった」
「あそこは闇を引き込むように出来てんだ」
「闇を?」
「ええ。そうやって闇を味方に付ける事で彼は色々な能力を持っています。本来力のない僕がこの屋敷内の警備が出来るのと同じように」
雪光が視線を向ければ、音もなく障子が開く。その先には煌々と輝く月が見えた。
「あいつ自身は大した力がねぇんだが、その代わりあの店内に限って色々な闇の妖怪を呼び寄せられる」
「そうなんだ・・・」
それがどんな妖怪かは判らないが、ヒル魔と対抗しようとする程の妖怪を呼び寄せるのだとしたら恐ろしい。
あの時あの女性が来てくれて助かった。
そういえば彼女はなんの妖怪なのだろう、そう思って尋ねると。
「『不笑の傾城』は影女。大した力はねぇ」
漆黒の瞳と髪を持つ美しい女性。怜悧な貌は冴え冴えと美しかった。そう、あの月のように。
影女にはこれといった能力はない。ただ、影女という名のとおり、彼女自身が影であるため、明るい日の下では影が出ないから外に出られない。
そうなのか、と考えつつお茶に口をつけるまもりとヒル魔に頭を下げ、雪光は姿を消す。
「・・・ねえ、ヒル魔くん。昔はあの人達の所によく行ってたの?」
「ああ」
あっさりと頷き、ヒル魔はまもりを抱き寄せる。
「じゃあ・・・令司さんが言った事は・・・」
女一人では足りないだろう、という言葉を思い出してまもりは顔を曇らせる。毎夜のように抱かれているが、やはりヒル魔には足りないのだろうか。
「何くだらないこと考えてやがる」
「だって・・・」
ぎゅっと抱きしめられ、まもりはヒル魔を見上げる。いつものように不敵な笑みを浮かべるヒル魔は楽しげで。
「その辺の女を適当に抱くより、惚れた女を抱く方がずっとイイんでなァ」
「で、でも、毎日私だとその、飽きたり、とか・・・」
しないの、と尋ねようとした唇はヒル魔に口づけで塞がれた。貪るように深く合わされて、まもりはようやく唇を離されたときには熱に浮かされ茫洋と宙を眺めていた。
「テメェは?」
「・・・ぇ?」
「毎日俺とヤッてて飽きるか?」
そう言われてまもりはヒル魔にしがみつき、緩慢に首を振る。
「そんな・・・こと、ない・・・。大体、まだ慣れない、よ・・・」
目元を赤く染めて舌っ足らずに喋るまもりに、ほらな、と笑ってヒル魔は再び口づけた。


翌朝、まもりがいつものように気怠い身体を引きずって起き出すと、それを待ちかねていたかのように鈴音が顔を出した。挨拶もそこそこに彼女はぴょこんと頭を下げる。
「ヤー! まも姐、昨日はごめんなさい!」
「鈴音ちゃんが無事で良かったわ」
にっこりと笑ったまもりに申し訳なさそうに鈴音が手に持った物を差し出す。
「あのね、丸子姐からこれ、まも姐にって」
「え?」
「昨日、まも姐『白秋屋』に行ったでしょ? あの時連絡くれたの丸子姐だったの」
それでヒル魔はまもりの位置を正確に把握できていたのだ。
「『昨日は令司が失礼な事を言ってごめんなさい。私は直接そちらに伺う事が出来ないので、鈴音ちゃんに託します』だって」
そうしてまもりの手に渡されたのは、昨日購入したヒル魔と自分の着物だった。
そういえばあの店に忘れていたんだと今更のように思い出す。
「まも姐、これに懲りないでまた私たちと遊んでくれる?」
おずおずと上目遣いで見つめてくる鈴音にまもりは勿論、と笑顔で請け負ったが。
「だがその時には俺も一緒に行くからな」
背後から現れてまもりを抱き寄せたヒル魔の出現に、鈴音は苦笑する。
「はーい」
「ア? テメェまだ何か買ってたのか?」
「まだ?」
まもりは首を傾げる。

その後、案内された先で目の前に積まれた見覚えのある着物の山に、まもりは仰天した。
程度を考えないその量が本人の意志を無視していたことに安堵する傍ら、やはり女だけで買い物に行かせるのは考え物だな、とヒル魔は唸った。

***
書いているうちに長くなって収拾がつかなくなったので無理矢理方向修正しました。本当はもっと短くくだらない話だったのに・・・! この話を書くときにはwikiがないともう書けません。妖怪一覧とにらめっこしながら白秋の二人を決めました。本当は如月も出る予定だったのに割愛してしまいました。ああ残念。
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

管理人のみ閲覧可能にする    
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
08 2024/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
カウンター
プロフィール
HN:
鳥(とり)
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。

【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
最新コメント
[01/05 鳥]
[01/05 NONAME]
[10/21 NONAME]
[10/11 坂上]
[10/02 坂上]
最新トラックバック
バーコード
ブログ内検索
アクセス解析
フリーエリア
powered by NINJA TOOLS // appeal: 忍者ブログ / [PR]

template by ゆきぱんだ  //  Copyright: hoboniti*kotori All Rights Reserved