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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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薔薇の下にて

(まもママ視点)
※『全身が震える程の(2)』の前あたり。
 


+ + + + + + + + + +
まもりが卒業を間近に控えたとある冬の日。
不意の来客に私は目を丸くした。

我が家にはコーヒーがないので、と紅茶を淹れると彼は文句も言わず口を付けた。
蛭魔妖一。娘のまもりがお世話になったアメフト部の元キャプテンだ。
部活は引退したと聞いたけれど、金髪ピアスは相変わらずの姿。
「それにしても、一人でここに来るとは思わなかったわ」
玄関先で鮮やかな金髪を目にしたとき、私は思わずその隣に見慣れた姿がないかと伺ったけれど、娘はつい先ほど友人の家に勉強に行ったばかり。
勉強相手が彼ではない、ということだけがはっきりしただけだった。
「彼女が一緒でも良かったんですが、話がややこしくなりそうだったので」
穏やかな話し方に私は目を細める。
娘から聞く彼は口やかましく怒鳴るかからかうかだけの印象だったが、こうやって一対一で話すとそのような粗野な雰囲気がない。見た目には派手だけれど、随分と落ち着いた目をしていた。
「そう。それで今日の用向きはどのようなことかしら?」
「はい。実は、彼女と一緒に住む許可を頂きたいんです」
・・・さすがに私も一瞬固まった。
目の前の彼はじっとこちらを伺っているが、からかっているとか冗談とかいう顔ではない。
「ええと、あなたとまもりは付き合ってる、の?」
「いえ、まだです」
あっさりとそう言い、けれど時間の問題ですけどね、と彼は続けた。
「冗談はよしてちょうだい」
私は頭痛を覚えて思わず額を抑えてしまった。
「本気です」
「世間一般であなたのことをどう言うか判るかしら? それはよくて思いこみ、悪くてストーカーって言うのよ?」
「それは相手が嫌っていればの話ですよね」
紅茶に口を付けながら彼は平然としている。なんでこの子、こんなに堂々としてるのかしら。
「私がはいって言うと思う? あなた、脅迫手帳っていうものを持っているようだけれど、私にも使うのかしら?」
「まさか。将来義理の両親になる人にそんなことはしません」
「・・・・・・」
義理の両親。なるかも、じゃなくて、なる、って言い切った。
私は彼の顔を再度見た。彼はやっぱりごく普通の顔をしている。
いや、彼はものすごく心理戦に長けているから、内心はどうだか知らないけれど。
それにしても、今、なんて言ったの? 彼は何を考えているの?
「俺は彼女を手放すつもりは毛頭無いんです」
「手放すも何も、手に入れてないでしょう」
そう。彼とまもりは付き合ってない。それはまもりも言っていたし、彼もついさっき、そう言った。
「時間の問題です。今、彼女は受験の最中でしょう」
「あなたもでしょう?」
「俺は受かるからいいんです。彼女も問題ないはずですが、コレが原因で勉強が手に着かなかったとは言わせたくない」
「あなたはどこを受けるつもり?」
「同じ大学を。位置的に彼女も一人で生活するようになりますから、コレを機に、と思ったまでです」
それに私は頭を抱えた。まもりの志望校はここより西、ここからは通えないのは明白だった。
一人暮らしさせるのもちょっと不安だわ、とは思っていたけれど、だからといって彼と生活させるわけにもいかないだろう。
「すぐには答えられないわ」
「そうですね。ではまたお伺いします」
案外あっさりと彼は引き下がった。不審に思ったのが顔に出たのか、彼はうすく笑みを浮かべる。
「元より早々簡単に許可を頂けるとは思っていません」
す、と彼は身軽に立ち上がって一礼し、その場を去る。
慌てて見送ってみたものの、私は彼が居た事が白昼夢ではないだろうかとまで思った。
何しろ彼は足音も立てず、紅茶を口に付けてもカップを下ろしても、どの場面でも一切物音を立てなかった。
ただただ静かに響いた彼の声、思った以上に穏やかな存在、人を脅かさない仕草。
飲み干されたカップを手にしても、なんだか現実味のない存在に私はただ頭を悩ませた。

「ただいまー」
「おかえりなさい」
帰ってきたまもりは頬と鼻の頭を真っ赤にしている。笑ってつついてあげると、照れたように笑った。
外ではしっかり者で通っているらしい娘も、私から見ればまだまだ幼い。やはり男と二人暮らしなんて、という気持ちが膨らむ。
「そういえば、まもり。今もアメフト部の人たちとは遊んだりするの?」
「え?! なんで突然?!」
「なんとなく。最近、まもりの口からアメフト部の事聞かないなって思って」
正直に言えば蛭魔妖一、彼の事をどう思っているのか聞きたいのだけれど。嫌いな相手には誰であっても立ち向かう性質の子だから、下手に刺激して揚げ足を取られた結果逃げられない、なんて結果もありそうで。
「・・・そうね。最近はさすがに受験一色じゃない? 私もそうだけど、みんなも余裕がなさそうで・・・」
ああでも、とまもりは笑う。
「ヒル魔くんは全然平気みたいだけどね」
「ヒル魔くんって、部長だった子よね? 勉強できるの?」
あの外見で不遜な態度、たしかに試合では相手の裏の裏を読んで動く巧みな心理戦を繰り広げていたし、頭は悪くはないのだろうけれど、勉強はまた別だろうし。
「うん。すごく頭が良いの。部活も一生懸命だったし、あれで悪巧みばっかりしなければいいんだけどね」
その時のまもりの顔に、私は言葉を失った。
ほんの少し憂いを交え、けれど愛おしそうな瞳で、穏やかに笑っていて。
「そういえばヒル魔くんはどこ受けるのかなあ・・・」
日本じゃないかも、という言葉に、私は瞬きするしかない。
「え? まもり、聞いてないの?」
「うん。すっごい秘密主義なんだもの。聞いても教えてくれないの」
それにやや消沈するまもりに、私は思わず笑いそうになってしまって、慌ててキッチンに向かう。
「お母さん?」
「お腹空いたでしょ? 今用意するから、着替えてらっしゃい」
デザートにシュークリームもあるわよ、と告げればまもりは先ほどの憂いもなにもかもを消し去ってぱっと笑顔になった。
「うん!」
軽やかな足音を響かせて去っていくまもりを背中で見送って、私は堪えきれず口角を上げる。
「なるほど、時間の問題、ね」
これほどに判りやすくては彼も疑いようがないのだろう。あの自信たっぷりな態度を思い浮かべ、一人頷く。
それでもまだまだ曖昧な事が多そうだし、もう少し様子見した方がよさそうね。
着替えてきたまもりに、私は上機嫌で夕飯を並べた。


「いらっしゃい」
「こんにちは。お邪魔します」
二度目の来訪はそれからすぐだった。手に私が好きなケーキ屋の箱を持っている。
どこで知られたのかしら、と思っても好物を渡されて嫌なはずもない。
「今度はちゃんとコーヒーよ」
「お気遣いありがとうございます」
差し出されたそれに口を付けて、彼はピンと片眉を上げた。
「気づいた? それ、まもりがあなたの為に買ってた豆と同じ物よ」
「そうですか」
いくつか買ってみて、これが一番好きみたいなのよ、とまもりが言っていたのを私は何となく覚えていて、それで今回用意してみたのだ。
「それで、どうしてうちの娘なのかしら」
「理由が必要ですか?」
「ええ。あなたみたいな人には、まもりは扱いづらくないかしら」
彼は破天荒で常識はずれで喧しくて所業は悪魔、実際はそればかりではないだろうけれど、そうと見せかけている。それにはまもりの存在は枷になりそうな気がするのだ。
真っ直ぐで融通が利かず、甘え下手で天然過ぎて。親の欲目を差し引いても、彼とはそぐわない気がする。
「愛してるから、じゃ理由にはなりませんかね?」
衒いもなく言い切って、にっと彼は口角を上げる。それが自信に満ちていて、私は苦笑するしかない。
「まもりもあなたの事は憎からず思ってるみたいだけど、やっぱり本人の同意がないと許可は出せないわね」
「させますよ」
彼は懐から何か書類を取り出した。それはアパートの契約書。
「あの大学の近辺で一番いい物件です」
「確かに間取りも二部屋あるし、条件は良いわね」
「ルームシェア用の部屋なのでどちらにも鍵はついてます」
「・・・だから安心しろって? ふふ、あなたはピッキングの名人だって聞いてるわ」
ここで許可を出したら羊を狼に差し出すようなものだ。
「なんなら結婚まで手出ししないという誓約書でも書きましょうか?」
「我慢できるの?」
それに彼はにやりと笑って見せた。
「たかだか二年ぐらいでその先を全て棒に振る気はありません」
二年。
またしても早い年数に私はまた言葉を失った。
ということは、彼の人生設計では二十歳で結婚するつもりなのか。早すぎる。
けれど。
私はふっと気がついた。
彼がそれほどまでにまもりを渇望するのなら、それこそ卒業と同時に浚いそうなものを。
「でも、どうしてすぐに結婚するって言わないの? 親の同意はいるけど結婚できる年でしょ?」
そこで初めて彼の表情が曇った。
「自分で言うのもなんですが、うちの両親は得体が知れないんです。法的に手順を踏んで結婚するのならあの両親の同意を得ないとならない」
「得体が知れないって、そんな」
「生まれてこの方、俺は両親の仕事を聞かされた事がないんです」
笑い飛ばそうとしたのに、真剣に返答されてしまった。
「二年待てば同意がなくてもいい。それならそちらを選びます」
「そ、そう」
「その気になれば偽装でもなんでも容易い。けれどそんなことで彼女との間にしこりを残したくない。そしてあなたたちとも」
す、とこちらに向けられた視線は苛烈でいてひどく真剣だった。
そういえばちゃんと視線が合ったのは初めてかも知れない。
その強さに私は息を呑んだ。
あまりに淡々としているから、実は臆したり怯んだりという感情を見せないように虚勢を張っているだけだと思っていた。彼は違う。そんな生半可な感情じゃない。
そんなマイナスの気持ちなどではなく、もっと強く、深い激情をその皮膚の下に押し込めている。
それをなおのこと外に出さないように、彼はこんなにも静かなのだ。
彼がすっと視線を逸らしたので、私は無意識に詰めていた息をゆるゆると解いた。
「本当は一分一秒でも惜しいのね」
「ご理解頂けましたか」
「ええ。あなたがまもりに告げないのも頷けるわ。こんな激情をまともにぶつけられたら、あの子は参っちゃうかもしれない」
「それが、そうとも言えないんですよ」
くすり、と彼は楽しそうに小さく笑った。
「え?」
「何しろ彼女は天然ですからね。俺の感情もそれと知らず受け流しそうな気がします」
そう言われて私はまもりがどれほどに天然で無防備な反面、ありとあらゆる誘いを一蹴してきたことを思い出した。しかもほとんどその誘いだったということさえ気づいてなかった事も。
「あなたにはぴったり、ってこと?」
「これ以上なく」
そこまで言い切られて、私は肩をすくめた。
この先両親の助けがすぐに届かない土地でまもりは生活する事になる。
その傍らに彼が在ればこれ以上なく頼もしく感じる。
外見や噂ではなく、真っ向から見た『蛭魔妖一』という人を信じてみよう、そう思えた。
「手出しをしないっていうのはあなたが守れても、共に生活する以上まもりの方が守れないでしょうね」
「それは」
目を軽く見開き、カップを下ろした彼に、私は静かに笑いかけた。
「まもりがあなたを選んだなら、そのときに私の許可も出たのだと思っていいわ」
ただし、と釘を刺すのも忘れてはならない。
「あなたが私にだけ会いに来たのなら承知でしょうが、夫にはしばらく黙っててね」
真っ直ぐで融通が利かないところがまったくもってよく似た父娘なのだ。
まだ付き合ってもいない状態で同居なんて許すわけがない。
内面はともかく、彼は外見も一般的とは言い難いし。
「何ならそれなりに装ってご挨拶でも、と思ったんですけど」
「おやめなさい。後々の事も考えてあなたはその格好のままここに来たのでしょ?」
もし装うのなら最初からそうやって見せかけただろう。
その方が心証も良くなると彼程に頭が回るのなら想像できそうなのに、あえてそうしなかった。
「あなたがまもりとちゃんと生活を共にして、これからもやっていけると思ったら挨拶に来ればいいわ」
「・・・それは随分と買いかぶられましたね」
僅かに苦く笑って見せた彼に、私はいたずらっぽく笑う。
「うちの娘を選ぶならこれくらい当然よ。期待を裏切らないでね、妖一くん」
それに彼は静かに頭を下げた。


「おばーちゃーん!!」
「いらっしゃい、妖介」
「こんにちは、おじいちゃん」
「おお、よく来たね、アヤ」
軽い足音を立てて走ってきた妖介を抱き上げれば、隣で夫がアヤを抱き上げていた。
よっこいしょ、と小さな声が聞こえる。それを聞き逃さなかった妖一くんがニヤニヤと笑って言った。
「まだ若いつもりでいたら腰に来マスヨ」
「久々に会って第一声がそれか! 相変わらず失敬な!!」
怒る夫を尻目に、妖一くんは私にすっと目礼した。その腕には護が抱かれている。
「ごめんなさい、おじいちゃん」
「いやいや! アヤちゃんは悪くないよ」
父親の発言に謝るアヤにでれっと笑み崩れる様は、ただの孫馬鹿にしか見えない。
最初おじいちゃんと呼ばれるのを毛嫌いしていたのが嘘のようだ。私は苦笑を浮かべて肩をすくめる。
「ただいま」
妖一くんの隣でにっこりと笑うまもりは、ごく普通に幸せそうに見えた。
「おかえりなさい」
私は目を細めて目の前の娘夫婦が作り上げた家族の形を見つめる。
紆余曲折を経て、それぞれに大変な時期も乗り越えてこうやっていられるなんて、なんて幸せなんでしょう。
護をまもりに渡した妖一くんは、私の腕から妖介を受け取った。
「妖介も大分大きくなったわね」
「そうですね」
「長旅疲れたでしょう。さ、中に入って。コーヒー淹れるわね」
「ありがとうございます」
私たちの会話を後ろで聞いていた夫が、私にはそんな口を利かないのに、とブツブツ文句を言っている。
コーヒーを淹れているとまもりが手伝いに来た。
「いいのよ、座ってなさいな」
「ううん、手伝うわ。・・・お父さん、相変わらずね」
くすくすと笑うまもりの左手には今も変わらないとろけるような金色。
「そうね。あれが妖一くんの愛情表現だっていい加減気がつけばいいのに」
「どうかしら。私だって今でもむっとする事あるわよ?」
そう言いながらも楽しそうなまもりの様子に私もくすくすと笑みを零す。
リビングから響く孫達の楽しそうな声と、夫の声と、妖一くんのからかいが混ざってすごく賑やかだ。
私はこの日のために買っておいた豆で淹れたコーヒーを妖一くんに差し出す。
「ありがとうね」
前後の繋がりのない唐突な私の言葉に、孫達や娘、夫もきょとんとしていたけれど。
妖一くんはピン、と片眉を上げてそれから。
「こちらこそ」
カップを受け取り、心から楽しげな笑みを浮かべた。


***
そういえばまもママ視点は書いた事なかったな、と思って書いてみました。せっかくなのでヒル魔さんと二人で話をさせようと思ったらヒル魔さんが丁寧に喋りすぎて気持ちが悪いことに。
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こんばんわ
まもり母の視点面白かったです!!
ヒル魔がまもり母には丁寧語なのはこんな理由があったのか~とすごく納得しました!気持ち悪いというより、しっくりきました。
またまもり母視点のお話がみたいと思いました。
蒼 龍 2008/08/29(Fri)00:20 編集
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