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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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影色艶噺

(狐の嫁入りシリーズ)

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まもりがたすきがけをして食事の支度をしようと立ち上がったとき、雪光が顔を出した。
「まもりさん、お客様ですよ」
「はい?」
客? まもりは思い当たる節もないままに玄関へと顔を出した。雪光が言うなら知らない人ではないのだろうけど。
「お待たせしました・・・」
そこに待っていた面々に、まもりは目を丸くした。

「で?」
ヒル魔は眉間に皺を寄せてずらりと並んだ女性陣を眺めた。
前回の闘いに参加した渋谷・浦島・メグ・鈴音に加え、若菜と乙姫まで来ている。
これで相内が来ていればめぼしいところが勢揃いだが、生憎と宿を空けられないらしい。
「前に言ったでしょ~。一緒に人里に遊びに行きたいのよ」
間延びした声で渋谷が口火を切る。まもりはこんなに沢山の女の子に囲まれた事がないので、華やかで賑やかな雰囲気にすっかり飲まれている。
「こないだのアタシたちの働きに免じて、いいだろ?」
メグの声に皆うんうんと頷く。ヒル魔はまもりにひたりと視線を据えた。
「テメェはどうなんだ?」
「え? ・・・うん、遊びに行って、みたい、んだけど・・・」
ヒル魔の機嫌が良くないような雰囲気にまもりはおずおずと上目遣いで彼を見上げる。
躊躇いがちな口調とは裏腹に、表情は遊びに行きたい、とありありと出ている。
何しろ今までの経歴から言えば、こないだやっと人混みに出ただけで相変わらず人里とは縁遠いまもり。
しかもこないだは変な代物を連れてきてしまったために後半は記憶がないし。
ヒル魔は深々とため息をつくと、おもむろにまもりにふっと息を吹きかけた。
「きゃ!」
「相変わらず慣れねぇな、まもり」
ヒル魔の術によってまもりの姿が変化する。
前回の姿と同様に髪は黒く後ろで結い上げた形になり、着物もついでとばかり変化していた。
「テメェらは必要ねぇだろ」
ヒル魔がぐるりと見渡すと、皆次々と姿を変化していく。
あっという間に華やいだ娘達の姿に変化した面々にヒル魔の顔は晴れない。
「街中じゃケルベロスは出せねぇから、変なのに絡まれたら適当にあしらえよ」
「うん!」
笑顔で頷いたまもりにヒル魔はますます渋い顔をした。
「・・・無理だな。おい糞雪女、テメェ責任持ってちゃんと面倒見ろよ」
ヒル魔は財布をメグに手渡す。それを心得たように彼女は受け取った。
「なんで!?」
「テメェ、どうせ男あしらいなんて出来ねえだろうが」
「そう思ってるなら言わないでよ!」
「自分を知ってるかどうかの確認だ。やっぱり駄目だな糞嫁」
「その呼び方やめて!」
きゃんきゃんと騒ぐ二人の間に、鈴音が割って入る。
「やー、二人とも喧嘩やめてよー」
「アタシがちゃんと見るからさ。さあさ、扉を開けておくれよ」
まもり以外は自力で移動できるが、さすがに彼女一人別行動は望ましくない。
ヒル魔は雪光に顎で指示した。
ご機嫌斜めのヒル魔に雪光は苦笑しながら全員を引きつれて件の扉の前までやってくる。
「さあどうぞ。履き物は出た先の三和土に出しておきましたから」
「ありがとうございます。行ってきます!」
各自わいわいと雪光に声を掛けて扉をくぐっていく。まもりが申し訳なさそうに雪光を見上げた。
「どうしました?」
「うん、あのね。・・・ヒル魔くんの事、よろしくね?」
それに雪光は顔をほころばせる。
「承りました。さ、皆さんお待ちですよ。行ってらっしゃいませ」
まもりは後ろ髪を引かれるような仕草を見せつつも扉をくぐって皆の後に続いた。

抜け出した先の町は前回来たときと同じくらいの人出だった。
華やいだ集団はそれだけで人目を引くが、全員それに気取られずきゃいきゃいと騒ぎながら店先を冷やかしていく。
「あ、あんみつだって!」
「えー、食べたい!」
「あんみつ? なにそれ?」
「えー、まもりさん食べたことないんですか?!」
「じゃあ食べようかね」
わいわいと騒ぎながら茶屋の暖簾をくぐる。
そこにあるお品書きに色々迷いながら、まもりは看板メニューのあんみつを注文した。
「あんみつってこういうのなんだ」
「黒蜜が美味しいのよ」
とろりと掛けられる黒蜜に瞳を輝かせるまもりに、皆がにこにこと笑いながら見守る。
何もかもが初めてずくしのまもりの様子を眺めれば、それだけで微笑ましい気分になるのだ。
そこであの天使を半殺しにしたヒル魔の姿をうっかり思い出してしまったメグだけは微妙な顔をしたけれど。
「若菜さんのは何ですか?」
「私のですか? これは白玉ぜんざいです」
それも美味しそうですね、とまもりはじっと見つめる。
若菜は笑顔で一口食べます? と差し出す。
まもりは瞳をキラキラさせて一口頬張り、そのおいしさに目を細めた。
「女は甘い物が好きだよねえ」
「メグさんも女性なのに」
「アタシはこっちがいいね」
メグはところてんをつついて甘い物に騒ぐ面々を眺めている。
全員が甘味で小腹を満たして、次の店へと繰り出していった。

小間物屋で可愛らしい髪飾りに見とれたり、半襟を買ってみたりと騒々しい面子は古着屋へとやって来た。
「あ、ここ・・・」
「ここ? まも姐、来たことあるの?」
「うん、前回ここで変な打掛に捕まっちゃって」
「へえ? ってことは、ここでちゃんとした買い物はしたことないってこと?」
浦島の言葉にまもりはぱちぱちと瞬いた。そう言われればそうだ。
「前回は着物買いに行くって言ってたもんね。やー、せっかくだから前回の分まで買おうよ!」
「え、そんなにお金、あるの!?」
「ヒル魔は結構寄越したよ」
メグが財布を覗き込む。資金は潤沢だ。でも、あの、と躊躇うまもりを皆で押し進める。
前回変な打掛にヒル魔に無駄な金を使わせたという自覚があるまもりはあんまり無駄遣いしては、と尻込みするけれど。
「大丈夫さ。ヒル魔の土地には金鉱もある。金には困らないんだよ」
「え?! そ、そうなんですか・・・」
そういえば色々買って来たり、まもりが来る前には人里にも遊びに行ったりしていたと聞いていた。
その金はどこから出てるのかそういえば気にした事はなかった。
新たに知った事実にまもりは目を丸くして感心していた。
「さ、心配もなくなったでしょ? 買いましょ!」
「そうよぉ! いろんな着物見た方がいいわよ~」
浦島と渋谷に両脇を固められ、まもりは店内へと連れ込まれた。
「あ、この模様カワイイ!」
「こっちの絣もいいよ」
「あ~、まも姐はこれもいいんじゃない!?」
皆が目についた着物をまもりに押しつけるものだから、まもりの腕はあっという間に着物で一杯になる。
くすくすと笑う店員に促され、座敷に上げて貰って顔の前に持ってきては皆がこれはアリだ、ナシだと口々に言う。厳選されても結構な枚数の着物を前に、まもりは真剣に悩んでいた。
「全部買っちゃえばいいじゃない」
「う~ん・・・。でも私の身体は一つだし、そんなに必要ないと思うの」
真面目ねぇ、と乙姫に苦笑されてもまもりは真剣に悩む。
「それならアタシらがどれか選んでおくから、その間にヒル魔の着物でも選んだらどうだい?」
メグの提案に、まもりは目を見開いた。
「そっか、ヒル魔くんの着物選ぶっていうのもいいわね! お願いします」
「ヤー、ヒル兄の着物の大きさは判る?」
「ええと・・・結構大柄よね」
「じゃあこっちだね!」
男物の着物の列にまもりと鈴音が消えた途端、メグは店員を呼んだ。
「はい! どうなさいますか?」
「これ全部包んで貰えるかい?」
「は? ・・・これ、全てですか?」
瞳を瞬かせる店員に、メグはにっと口角をあげて金をざらっとその手のひらに載せた。
「足りるだろ?」
「は、はい! 今ご用意します、お待ち下さい!」
飛び上がって着物を包むべく下がった店員に急がなくていいよ、と声を掛けながら、メグはそっと店先から顔を出す。
「・・・なんだって俺がこんなとこに・・・」
店先でブツブツ言っている男を指先一つで招き寄せる。
「来な」
「カッ! 俺はテメェの使い魔じゃねぇんだぞ!」
「文句があるならいいよ。他の男を呼ぶからさ」
「・・・っ」
顔を顰めながらも口を閉ざし、男はのれんをくぐる。
「あー、ルイさん!」
「お久しぶりです、こんにちは」
「・・・おう」
化蛇のルイはこの場の全員と知り合いだ。
若菜や乙姫と挨拶しつつ、ルイはメグに渡された荷物を抱える。
「ヒル魔の屋敷でいいんだろ?」
「ああ。頼むね」
「カッ」
結局は運んでくれるらしいルイの後をメグがついていく。
「ちょっといいかい」
「なんだ?」
振り返ったルイの頬に、触れる温かい唇。メグが雪女であるかぎりあり得ないはずの感触。
「なっ!?」
「礼にしちゃ少ないかね」
に、とメグは妖艶に笑う。
「後で纏めて払うから、これは手付けさね」
それにガラでもなく真っ赤になったルイに、メグはひらひらと手を振る。
「・・・その言葉、忘れんじゃねぇぞ!」
「はいよ」
ルイが角を曲がるまで見送って、メグは店に戻る。
「あ、メグさん。着物決まりましたか?」
「ああ、これなんてどうだい?」
先ほどの荷物とは別に一枚包んで貰った着物を見せると、まもりは笑顔になる。
「そっちは選べたかい?」
「ええ、これ、いいと思いませんか?」
「ホントね、いい色」
「素敵だと思います」
わいわいと口々にまもりが選んだ着物を褒め、それもまた包んで貰う。
そして店から出て次の場所へと移動する途中で、不意に雲行きが怪しくなった。
「え?」
「まずいね、夕立だ」
「やー?! 雷鳴るの!? ヤー! ヤー!!」
鈴音が真っ青になってオロオロしだす。いきなり暗くなった中で、ぴかりと稲光が走った。
「ヤー!!!」
その激しい音と光に絶叫して鈴音が駆け出す。
もしかしたら耳と尻尾が出てやしないか、そう思う程の慌てっぷりにまもりも驚く。
「ちょ、ちょっと、鈴音ちゃん!?」
人々が夕立に慌ただしく行き来する中一目散に走っていく鈴音の後をまもりは思わず追った。
「ちょいと嬢ちゃん!」
慌てて引き留めようとしたメグの手も届かない。
あっという間に人混みに紛れてしまったまもりを探そうとする面々を、一気に降り出した雨が足止めした。

<続>
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