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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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深淵と小箱(4)

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ほどなくまもりが着替え終えて出てくるなり、ヒル魔は彼女を抱えて馬に乗せた。
青毛の、立派な馬だ。普段にはない視点の上昇に、まもりの声は裏返った。
「た、高い! 高いですっ!」
ヒル魔の前に座らされ、背をヒル魔が覆うような格好に落ち着く。
「テメェ馬くらい乗ったことあんだろ」
「昔、授業でちょっと乗っただけ・・・っ! や、ちょっと、怖い!」
座っただけで悲鳴を上げるまもりに、ヒル魔はばさっと旅装束の上着を着せ、その腰を抱く。
「下向いてるんじゃねぇ。もっと前見てろ」
ぐい、と胸元に寄りかかるように背中を彼に持たれかけさせられる。
器用に片手で手綱を引き、ヒル魔は馬の横腹を蹴った。
合図に馬は軽快な蹄の音を立てて走り出し、ほどなく街の外れへとたどり着く。
街を囲っている城壁の合間、門番に声を掛けて外へ出る。
上下に揺れる馬の背ではさすがのまもりも読書は出来ない。仕方なく視線を周囲の景色に向ける。
まだ夜が完全に明けてないため、世界全体に青く紗が掛かっているようだ。
街から離れると、地面は徐々に荒涼としていく。
「見ろ」
ヒル魔が指さした先を見ると、日が昇り始めるところだった。
荒れ地に光がさあっと広がる。月が残した青い闇を、白い光が染め変える。
文字通り一日の幕開けだ、とまもりは考えてから、ふと背後を伺う。
「ところで、どこに行くんですか」
今更のように目的地を聞いていないことに気がついた。
まもりは文字通り着の身着のままで、遠出するような格好ではない。
「向こうだ」
ヒル魔が差したのは、広大な荒れ地。砂漠の一歩手前だ。
「あちらには・・・オアシスがありますね」
「そーだな」
貿易の中継点となるオアシス。観光資源は乏しく、旅人の休息所としての機能のみがあるはず。
彼がわざわざそこを選んだ理由が分からず、まもりは首を傾げた。
「下手な都市行けばテメェのことだ、本探ししかしねぇだろ」
「有効な時間の使い方でしょう」
「たまの長期休暇だ、普段しねぇことをした方が有意義だ」
そんなものかしら、と首を傾げながら、まもりはしばし馬の背に揺られる。
明け方の空気は夏場でもひんやりとしていて、上着がなければ寒さに震えるほどだ。
落ちないようにと気遣われたヒル魔の手があたたかく、まもりは風に髪を嬲られながら、意外なほどの心地よさに瞳を細めた。

昼過ぎにたどり着いたオアシスは、聞いていたよりも古びた都市が残る面白い場所だった。
入り口で馬を下り、厩舎に預けて中に入る。
山肌の緑の合間に石造りの建物が点在していて、朱色の屋根が連なっている。
じわりと汗が滲む。湿度が高いのは緑に覆われているせいもあるかもしれない。
異国の馬車が行き交うからだろう、街全体がまもり達の住む場所とは全く違った雰囲気である。
オアシスと言うからには湖とその周囲に街があるものと思い込んでいたが、この場所は山間の川と鉱山で発達したのだという。
「平地は魔物が時折現れるんだと。『境界』が近いんだろうな」
「水辺には獣も多いでしょうしね」
街灯がないかわりに、提灯が家々の軒先に下がっている。小さな間口の店には色々な商品が並んでいた。
食欲をそそるいい匂いが立ちこめている。
ぐう、とまもりの腹が鳴った。
「昼メシにすっか」
「何があるんでしょうね」
屋台を冷やかし、目に入った麺類の店へと入る。
食べたことがない料理です、というまもりを余所にヒル魔は慣れた様子でズルズルと音を立てて麺を啜る。
「食べたことあるんですか?」
「昔、別の部隊にいた頃にな」
「へえ」
そういえばヒル魔はデビルバット軍に来る前にいくつか部隊を転々としていたはずだった。
今の部隊が一番長くなっているが、色々な場所を経験したのだろう。
まもりもヒル魔をまねて麺を啜ってみる。
「美味しい!」
少し癖のある薬草が乗っているが、気になるほどではない。
「たい・・・貴方は、他にもこの町の美味しいものをよく知ってますか?」
大将と呼ぶのは不味かろうと、まもりは言い直す。
ヒル魔は片眉を僅かに撓らせたが、すぐ表情を戻した。
「テメェが好きな糞甘ェもんもあるぞ。それは夕飯の時に食わせてやる」
「本当ですか?」
ぱ、と顔を明るくしたまもりにヒル魔はケケケと笑って器を空にした。

<続>
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