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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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深淵と小箱(1)

(軍人シリーズ)
※『花霞』の次にあたります
※リクエスト作品

+ + + + + + + + + +
まもりは目の前に差し出された書類を見て目を瞬かせた。
神妙な顔をして束を差し出すのはセナ。その後ろに他の部下も揃っている。
執務机でいつものように作戦を練っていたまもりは、恐る恐る目の前に載せられた書類を、ペンを持つ手もそのままに、見た。
「・・・何ですかこれは」
「署名です」
「それは判ります」
ずらずらと数枚の紙に渡って書かれた署名。
一枚にある名前の数と、紙の数を見ればデビルバット軍の全員が署名しているものと思われた。
ただ。
「何に対しての署名ですか」
「夏休みですよ、元帥」
と。ひょいとその用紙の上に載せられたのは夏期休暇取得希望を嘆願するもの。
三秒その書面を見つめたまもりは、それを束の上に載せた男をじろりと見上げる。
下から睨まれても、飄々とガムを膨らませている男。
言わずと知れた大将、蛭魔妖一。
「私に断らなくても、各自で取ればいいでしょう」
夏期休暇は職名にもよるが、基本は五日間。一日単位からまとめてでも取得は可能。
もちろん有給休暇もあるので、それと併せて取得する者も多い。
地方から来ている者などは長期で休むと前々から言っていたりするし。
けれどヒル魔はとん、と書面のタイトルを指さした。
「『姉崎元帥の夏期休暇取得希望』・・・?」
よく見れば、単なる夏期休暇の希望ではなかった。
ざっと読むと、それはまもりにも夏休みを取って欲しいという願いだった。
たしかに、彼女は休みをほとんど取らない。
まもりは実家に帰っても特にやることがなく、せいぜい取っても年に一日二日、それを本の買い出しに使うくらいなのだ。
大体趣味が作戦を練ることと読書なのだし、実家に帰る必要性は全く感じていない。
実家と仲が悪いわけではないが、距離も近いので取り立てて帰ろうと思うほどでもない。
たまには帰ってきたら、なんていう母親の言葉はここ十年ほどお世辞にも聞いたことがないくらいだ。
「私が休む必要性はないでしょう」
「ありますよ!」
「休んで下さい!」
間髪入れずにかかった声に、まもりの眉間に皺が寄る。
休め休めと言われると、まるで自分が悪いようではないか、と。
不機嫌の理由を察し、雪光が慌てて声を上げた。
「普段から元帥はお仕事ばかりですし、たまには息抜き程度にでもお休みいただきたいんです」
「夏期休暇は全部取得するのが義務なんだぞ」
部下とはいえ、重みのある声で諭すのは彼女より年嵩のムサシ。
栗田も隣でこのときばかりは何を食べるでもなく神妙に頷いている。
「普通の企業ならともかく、軍隊で責任者がみだりに休むのは不味いでしょう」
渋るまもりに、隣で様子を見ていたヒル魔が口を開いた。
「軍隊でも適度な休みは必要だっつーのはテメェも知ってんだろ」
「それは普段肉体労働をしている皆についてです。私みたいな者には無用・・・」
「その理由だと文官連中が全員休めなくなるぞ」
まもりがますます眉間に皺を寄せる。不機嫌さが段々と増してくる様子に、部下達は固唾を呑んで見守っている。
「大体なァ、テメェみてぇな頭の糞固ェ奴が休まず来続けたら、下の連中の気が休まらねぇだろうが」
「・・・私が邪魔ということですか」
ひんやりとした声音がまもりから発せられる。
「べっ、別にそういうことはないです!」
「確かに元帥がいらっしゃる方が仕事も進むし、お聞きしたいこともすぐ判ります!」
「でも! 俺たちのせいで休めないのは申し訳ないッス!!」
「元帥がお休みの間、出来る限りの事は僕たちでやりますから!」
必死になって言いつのる部下達に、まもりの視線は冷たい。
邪魔なら邪魔だと言えばいいのに、という気持ちが視線に乗っている。
「休むのも仕事のうちだ」
にやにやとしたヒル魔の声がそれに拍車を掛ける。
「その理由なら貴方も休むべきでしょう」
尖った声がまもりから発せられる。ヒル魔はぴん、と片眉を上げた。
「俺は毎年全部夏期休暇取得してんぞ」
「そう・・・でしたっけ」
まもりはヒル魔の行動を思い返そうとしたが、生憎と記憶にない。
けれど他の面々が頷いているのを見ると、間違いないのだろう。
「来月になればまた会議で忙しくなりますし、今月中に取得するのがよろしいかと」
年間予定表を見ながら訴える雪光の声に、まもりは押し黙る。

<続>
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