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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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深淵と小箱(9)

+ + + + + + + + + +
「糞冷え性は大変ですね」
「冷え性じゃありません!」
ヒル魔がまもりの手を引く。日の差し込む一角が少し先にあった。
「貴方はあたたかいですね」
「心が冷たいもので」
「それで言ったら私の方があたたかくないとおかしいですよ」
まもりは根っからの軍人で、ヒル魔よりももっとずっと情のない、冷たい人間だと自覚している。
どこか自嘲気味に聞こえたその言葉に、ヒル魔は相槌も打たず、日の下に彼女を座らせる。
暖められた岩肌が心地いい。
「少しここで暖まってろ」
「はい」
身体が冷えていたのは事実だったので、まもりはおとなしくそこに落ち着く。
そうして再び水の中に戻るヒル魔を見た。
彼は寒くないのだろうか。あんなにあたたかいのに、冷たい水の中でも熱を失わないのか。
彼の心が冷たいなんて嘘だ。
彼は、身体の中に消えない炎を持っていて、それが常に彼に熱を与えているに違いない。
まもりは膝を抱えて時折彼の頭が現れるのをぼうっと見つめる。
そんな炎が自分の中にもあればいいのに。
水になど、寒さになど阻まれることはない。
そうしたら―――
(隣にいられる、のに)
ふと浮かんだ言葉に、まもりは自らが一番驚く。
今、自分は、何を?
ぱしゃんと水音が響く。
それは滝とは違う震えで水面を波立たせ、まもりの心中にまで長く響いた。

その夜。
宿に戻る道すがら、ヒル魔が口を開いた。
「明日、帰るぞ」
まもりはそれにそうですか、と応じた。
「こんなに本を読まない時間があるのは初めてです」
「テメェ行軍中も本持ってってるからなァ」
「本を読まなくても生活できることに驚きました」
やればできるもんなんですね、という言葉にヒル魔は肩をすくめる。
「新たな自分を発見できただろ」
「ええ。貴方のおかげです」
まもりはふ、と表情をゆるめた。柔らかい、微笑み。
ヒル魔は一瞬面食らった顔をしたが、すぐにいつものふてぶてしい笑みを浮かべてまもりの髪をかき乱した。
宿に入ると、この宿を仕切る女主人が出迎えた。短い滞在だったが、過不足なく温かくもてなしてくれている。
「おかえりなさい! そうだ、昨日の芒果はおいしかったですか?」
甘いモノが好きなら名物ですし旬ですよ、と勧めてくれたのが彼女だった。
まもりは目元を和ませて応じる。
「ええ。すごく美味しかったです。お土産に持って帰りたいですね」
「テメェまだ食うのか」
「職場へのお土産ですよ。貴方も全然買ってないでしょう」
「別にあいつらに土産なんざ必要ねぇよ」
「そうはいかないでしょう」
二人の会話を聞いていた女主人はふふふ、と笑み声を漏らす。
「仲の良いことで」
「はあ」
まもりは気の抜けた返事をした。ヒル魔と仲が良いなんて初めて言われたような気がする。
喧嘩ばっかりですね、とは部下によく言われたが。
「お似合いのご夫婦ですし、仲良く旅行だなんて羨ましいですよ」
「・・・はい?」
まもりは耳を疑った。夫婦? 誰と誰が?
「あら、まだ結婚はされてなかったのかしら」
「え、いや、・・・」
それ以前の問題で、と言おうとしたまもりの口を、ヒル魔の手のひらが覆った。
「おら部屋に行くぞ」
「明日の朝食はどうされます?」
「外で適当に食うからいい。明日出立する」
「左様ですか。ではごゆっくりお休み下さい」
まったりと笑って頭を下げる女主人の笑み声と視線が照れなくてもいいんですよ、と声もなく言っているようだ。
まもりは恨めしげにヒル魔を見上げたが、彼は飄々としたまままもりを半ば引きずるように部屋へと連れ戻った。

<続>
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同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
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