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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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天然アルケミー(4)/完結



+ + + + + + + + + +
ヒル魔はノックの音に顔を上げた。
「なんだ」
「入ってもいいですか」
「ドーゾ」
おずおず、という様子で顔を出したまもりにヒル魔は椅子に腰掛けたまま振り返り、訝しげな視線を向けた。
かすかに頬が赤いのに、また調子が悪いのかとそちらに気を取られる。
「子供のことですけど」
ヒル魔はぴん、と片眉を上げる。
「私の好きにしていいんですよね?」
「ああ」
「本当に?」
「二言はねぇ」
「そうですか」
まもりは背に隠し持っていた書類の束をヒル魔に差し出す。
たった今書き上げたものだ。
「ア?」
「隊内規律改定と来年度の予定変更と決定済行軍日程調整と報告書と大まかな事務処理の流れを書き表したものです」
結構な厚さのそれを思わず受け取って、ヒル魔は眉を寄せた。
「なんだこりゃ」
意味がわからず首をかしげるヒル魔だが。
「私が不在の間に起こりうる事態を想定して作ってみました」
まもりの言葉に、目を見開く。
「な・・・」
不在、ということは。
その事実が信じられなくて固まるヒル魔に、さらにまもりは淡々と続ける。
「もちろんこれだけでは不十分ですし私が随行しない場合は急な作戦変更に即座に対応できない可能性が・・・」
「ちょ、ちょっと待て」
頭の中を整理したくてそう声を上げるのに、まもりは一つ頷く。
「そうですね、詳しくは明日から幹部隊員を交えて調整した方が」
「待て!」
「はい」
ヒル魔はようようまもりの言葉を遮り、書類の束を机に乱暴に置いてまもりの前に立つ。
何をどう言おうか、と何度か瞬きした後、ヒル魔は恐る恐る口にした。
「・・・産むのか?」
「ええ」
あっさりと頷いたまもりに、ヒル魔はきつく眉を寄せ、不審そうな声を上げる。
「・・・テメェあんだけ妊娠嫌がってたじゃねぇか・・・」
あの取り乱しようを目の当たりにして、やっぱり嫌だったかとかなり落ち込んだのに。
けれどまもりはそうじゃないと首を振った。
「単に恥ずかしかったんですよ。計算したらいつ妊娠したか、なんてすぐわかりますし」
行軍中になにやってんだ、という突込みが来たらなんて言えばいいのか、色々考えてしまったのだ。
ヒル魔はこめかみに指を当てた。
「それならそう言えばよかったじゃねぇか」
さっきまでの重苦しい気持ちをどうしてくれる、と恨み言を言えばまもりは軽く肩をすくめる。
「私が言う前に早合点したのは妖一でしょう」
「日ごろの行い振り返って言え!」
「それこそ妖一に言われたくないですよね」
ああ言えばこう言う。まったくかわいくない、とヒル魔は舌打ちしたがまもりは慣れたものだ。
「しちゃったものはしょうがないですよ」
あっさりとした言葉に負の感情は隠れていない。
「それに、せっかくなら妊娠出産を経験してみるのもいいかな、と」
まもりはヒル魔を見上げてにこりと笑う。
「女でしか出来ない体験ですし、幸い妖一の手助けも期待できそうですしね」
愛しそうにまもりは自らの腹を撫でる。
「産んでもいいですか?」
それが何の含みもなく幸せそうに見えたので、ヒル魔は返事の代わりにまもりをきつく抱きしめた。



数日後。
元帥懐妊の噂はあっという間に軍隊内に満ち、ヒル魔は冷やかし半分やっかみ少々、けれど大部分は純粋なる喜びの気持ちが篭った祝福を多々贈られた。
「何とかの一念、だな」
「言うじゃねぇか糞ジジィ」
剣呑なようでいて、心底喜んでいる雰囲気のヒル魔に旧知の友人たちも嬉しげだ。
今後色々と仕事の上で支障も出ようが、まもりの出産は他の女軍人たちの指針となるだろう。
出来るだけいい方向へ持っていこうという空気が自然と生まれている。
死線をさまよう男たちは、それだけ命への憧れが強いのだ。
「あ、ヒル魔大将。書類の件で少々お伺いしたいのですが、今お時間よろしいですか?」
そこに事務方の雪光がやってきた。
「おー」
「じゃあな」
ムサシは手を上げてその場を後にし、ヒル魔は渡された書類に目を通す。
その様子を見ていた雪光が不意に口を開く。
「おめでとうございます」
ヒル魔はちらりと視線を向け、口角を上げる。
「おー」
嬉しげな様子を隠しもしない彼に、雪光は幸せを分けてもらったような心地になって笑みを深める。
雪光の指摘箇所に口頭で説明を終えたヒル魔が書類を返却した。
それを受け取った雪光は廊下を進んでいって。
不意に、足を止めて反対方向へ歩いていたヒル魔の背に声をかけた。
「『軍人』のヒル魔さん」
「!?」
勢いよく振り返ったヒル魔の視線の先で、書類を手に雪光が微笑んでいる。
その笑みはいつもの彼のものとは、ほんのわずかに違うような---
どこかに含みを持つ、ような。
「ハリセンで叩かれた報いはあったようですね」
これからもお幸せに、そう笑みを含んだ声で呟いて歩いて廊下の角を曲がった彼を呆然と見つめ。
そうしてヒル魔は慌てて追いかけた。
「待て!」
「は、はい!? なにか書類に不備がありましたか!?」
勢いよく肩を掴まれた雪光は驚き声を上げる。
その様子は先ほどの人を食ったような笑みとは違う。いつもの見知った雪光、だ。
「・・・あの?」
不思議そうな雪光にいやなんでもない、と上の空で呟いてヒル魔は手を離して踵を返す。


廊下の窓から外を眺める。
あの不思議な白昼夢の続きがこの世界なのか、と些か混乱した彼は自らの頬をこっそり抓ってみたりして。
直後、まもりにばっちり目撃されて楽しげにからかわれることとなる。



***
あんまりにも報われない彼にいい目を、いい目を、と念じながら書いていたら前半またかわいそうな感じでしたね(大笑)他のシリーズと比較しても一番子供が好きらしいので、存分に猫っかわいがりして欲しいもんです。その分まもりちゃんが厳しそうですがw
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