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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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天然アルケミー(2)



+ + + + + + + + + +
実はまもりは注射が嫌いなのだ、とヒル魔は初めて知った。
幼子のように怯えてヒル魔にしがみつき、めいっぱい顔を採血されている腕から背ける様子がかわいらしい。
「・・・テメェにも怖いっつーモンがあったのか」
「怖くなんてないです」
淡々と文句を言っていても、ヒル魔にしがみつく手が震えていてはまったく説得力がない。
わずかにむくれるまもりの肩をかるく叩いてなだめる。
採血した血を検査技師に託すべく席をはずしているとはいえ、高見に緩んだ顔などをうっかり見られたら後々散々からかわれることだろう。
「すぐに結果を出してもらうよう言ってあります。その間にお茶をどうぞ」
お茶を淹れて戻ってきた彼は柔らかい笑みを浮かべている。
彼は軍のカウンセラーでもある。きっとやってくる軍人にこうやってお茶を出すことはめずらしくないのだろう。
柔らかいカモミールの香り。それにヒル魔は眉を寄せた。まもりだけがありがたくそれに口をつける。
おもむろに高見が切り出した。
「お二人が結婚されてどれくらいですかね」
「四年目ですね」
「そうですか。お子様は望まれないのですか?」
高見の言葉に、まもりは首を振る。
「私たちの仕事上、子供が出来ては支障が出ます」
それに高見はちらりとヒル魔の方を見た。平然としているが、長い付き合いの彼が内心落ち込んだろうとすぐ察する。
いくら二人とも軍人で元帥と大将という高い位置にいるのだとしても、好き合った者同士、互いの子供が欲しいというのはごく自然な気持ちだろう。
だが、まもりは常々感情より理論が先立つ傾向がある。そうしてそれゆえにヒル魔とは意識のずれがあるのだ。
当人がそれとわかっているかはわからないが、まもりの天然っぷりは時々無邪気にヒル魔を傷つける。
「そうでしょうか。元帥が就任してから女性の軍人も数を増してまいりましたし、男性側の意識も変わってきていると思いますよ」
「それでも軍人である以上、妊娠して仕事が出来ません、というわけにはいかないでしょう」
ましてや私は元帥なんですよ、とまもりは続ける。
「皆を統率する役目があるんですから、子供は無理です」
きっぱりと言い切るまもりを前に、高見は苦笑することしか出来ない。
正論すぎるくらい正論だ。
もはや落胆を通り越し完全にへそを曲げたヒル魔の視線を受けて高見は言葉ごとお茶を飲み干した。
折りよくドアがノックされる。
「失礼します」
そこに顔を出したのは、検査技師の雪光蛍だ。後方部隊の要として働く雪光学の姉である。
彼女は検査結果を手に、微妙な表情でやってきた。
「高見先生、これを・・・」
差し出された結果を見て、高見は目を瞠る。
そうして彼の視線は検査結果と蛍とヒル魔とまもりの顔とを何回も往復した。
まもりとヒル魔は眉を寄せて顔を見合わせる。もしやとんでもなく悪い結果が出たというのだろうか。
高見と蛍も同様に顔を見合せ二人は頷き、くるりとヒル魔とまもりに向き直った。
「・・・あの、ですね」
硬い声音に何を言われるのか、と身構えた二人に告げられた検査結果は、想像をはるかに超えていた。



妊娠三ヶ月目です、という言葉に、まもりは再び貧血を起こすところだった。
後ろで支えていたヒル魔がいなければ、本当に倒れただろう。
「本当か?」
ヒル魔が尋ねる。
「どうぞ、ご確認ください」
蛍が差し出した検査結果には、妊娠についての情報が書き込まれている。
値がどうこういうことはわからなかったが、妊娠自体に間違いはないようだった。
まもりはようやく我に返る。
「な、なんでですか!? 私、避妊薬を常飲しているんですよ!?」
通常なら絶対に妊娠しないはずだ。排卵自体が止まってるはずなんだから、と。
けれど今までの日数を逆算したヒル魔がぴん、と片眉を上げた。
「テメェ、行軍中に薬飲んでなかった時期があったろ」
「え」
まもりは記憶を巻き戻す。
今回の行軍は本当に長くて、途中で物資が尽きて現地調達も何度か行った。
その時に薬を切らしてしまったのだ。
けれど、ごく短い期間だった。だから、そんな。
行軍中はそういったコトもしないから、妊娠の可能性なんてない。

ない、はず。



・・・あ?



今回は、本当に長い行軍だった。
結婚してからは初めての長期間、その間は当然のように一人寝の日々が続いていたけれど。

その間で、一度だけ。

「・・・!!!」
まもりは唐突に思い出し、弾けたように赤面した。

<続>
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