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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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記憶連鎖(下)



+ + + + + + + + + +
ぱちぱちと薪が音を立てる。時折はじけるような音は、虫の卵だろう。
それにさえまもりは瞳を眇める。
羽化せず燃える卵。
仕事とはいえ、あっさりと命を落とした上に遺体すら帰れなかった部下とを重ね合わせる。
炎の様子を見て薪を足すヒル魔はしばらく沈黙した後、口を開いた。
「責任はテメェ一人のもんじゃねぇ」
まもりは炎越しにヒル魔を見る。
彼の表情は静かで、穏やかだった。
普段の人を食ったような顔など想像もつかないほど静かで、さびしそうにも見えた。
「作戦を立てたのは私です」
「実行したのは俺だ」
「この中で一番位が高いのは私でしょう」
「テメェは俺の部下だろ」
「責任を取るべきは私です」
互いに譲らないまま、夜ばかりが更けていく。
声音が静かで激昂しない分、二人の言葉は平行線を辿り続けた。
「私に責任を取らせて、あなたが名実ともに上に上がればいいじゃないですか」
まもりの呟きに、ヒル魔はぴんと片眉を上げる。
「そうやって逃げるか」
「逃げてません。客観的に見てそうした方があなたのためになるのではと思ったのです」
「客観的に見て、テメェが逃げたいだけに見えるって言ってんだ」
ヒル魔の眸が剣呑に眇められる。
「ここでテメェが責任を取って、ってもっともらしく口にしてもあいつらは納得しねぇ。見捨てられたと思うだけだ」
「そんな」
「この隊に在籍している連中は全員、今回のことは自分のせいだと思ってやがるんだぞ」
炎に薪を投げ込み、彼はじっとまもりを見た。
「全員『あの時、ああしていれば』って考えてやがる」
あの時、彼を引き止めれば。
あの時、敵を先に倒せていれば。
あの時、『術』を発動させていれば。

あの時。

「・・・どんなに悔やんだって悲しんだって奴は戻ってこねぇ」
まもりは彼がゆったりと組んだ指を見る。
その表情は平素と同じだったけれど、指に篭る力は相当のものだろう。
だって。
血、が。
傷から滴る血を、どこか人事のようにまもりは見つめた。
「そんなんで士気が下がって、同じ轍を踏んでみろ。洒落にならねぇぞ」
「・・・そう、ですね」
まもりはおもむろに立ち上がる。
「どこに行く」
「少し」
はっきりと明言しない彼女に、ヒル魔も立ち上がりついていく。
まもりはそれを厭わなかった。
炎が見える距離で、まもりは不意にしゃがみこむ。
「あった」
「ア?」
まもりが掘り出したのは、ごくごく小さな花だった。
今は夜のためか閉じている花弁は、開いたとしてもずいぶん小さなもののように見受けられる。
「・・・『私を忘れないで』、という意味の花です」
「ホー」
まもりはそれを大事そうに抱えると、部下の埋葬された場所へ歩いていく。
「自己満足、ですけど」
そっとそれを植えなおす。
「ずっと、忘れません」
手のひらを湿った土で盛大に汚したまま、まもりは立ち上がる。
伏せた瞳はこの夜のように青く深い。
「苦痛のままに忘れられないっつーのは、奴にとってもありがたくねぇんじゃねぇか」
ヒル魔の声に、まもりは静かに向き直る。
「では、どうしろと」
「花言葉くらい前向きに、『私のことを覚えていて』っつー風に解釈しろよ」
後悔をし続けて暗鬱に過ごされるよりも。
笑って幸せに過ごして、そうして時折思い出されるくらいの存在でありたいのではないか、と。
「・・・それは勝手な解釈じゃありませんか?」
「いーんだよ」
そうとだけ口にして、ヒル魔は不意にまもりの頭を掴み、自らの肩口に押し当てた。
「な!?」
「泣け」
その言葉に、まもりは戸惑う。
悲しくて苦しくて辛くても涙を流すことなんてなかった。
泣き方なんてとうに失念している。
「結構です」
ましてや、軍部に在籍しているのなら、『女はすぐ泣いて使い物にならない』という陰口を叩かれるのが常だ。
陰口なんかに気鬱になるほど柔ではないが、気にしないほど豪胆でもない。
それを見抜いてか、さらにヒル魔は続ける。
「泣いておけ。じゃねぇと、後悔すんぞ」
頭の上から降りてくるヒル魔の声は静かだった。
そして、どこまでもやさしかった。
まもりは嘆息し、ヒル魔の肩口に額を押し当てたまま瞳を閉じる。
「部下を死なせて凹まない上司なんていねぇんだよ」
ではそれはあなたもですか、と内心でだけ尋ねて、まもりは目の縁にじわじわと滲み寄る涙の到来を待った。


愚問だ。


***
どうにも薄暗い話系統の波が来ているようなので逆らわず書いてます。
というか底抜けに明るい話を書けたためしがないんですがね!(アウチ)
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