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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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エンドゲーム・スタディ

(ヒルまも一家)
※『悪魔の囁き』の続きです。

+ + + + + + + + + +
妖介は時計を確認し、電話を手に取った。
さほどコールするまでもなく、繋がる。
「ねえ、父さん」
挨拶もなく切り出す。
「俺も駒の一つなの?」
その言葉に、通話口の向こうで低く笑み声が響いた。


小夏の妊娠が発覚し、結婚するという流れになった。
ヒル魔の口出しがあったとはいえ、小夏と一線を越えたからにはきちんと責任を取るつもりはあった。
妊娠はその日を早めたに過ぎない。
けれど、何もかもをヒル魔に取り決められたような流れに疑問を抱いたのも確かだった。
「どうして、俺を選んだの」
まもりの仕事を辞めさせるために子供を作るよう唆すのなら、アヤの方がよかったはずだ。
あちらは結婚しているし、子供が出来る順位としてはそちらが妥当だろうに。
勿論ヒル魔が言ったところで易々と子作りに走る二人ではないが。
「俺が母さんみたいに天然だから、扱いやすかった?」
淡々と発したはずの声が、沈む。
「俺の人生って、父さんにとって何なのさ」
便利に使われるだけの存在なのか。
様々な疑問が暗く渦を巻く中、ヒル魔の声がようやく聞こえてきた。
『テメェは医師免許を取ったら、研修のために地方に行くつもりだったな』
妖介は眉を寄せる。確かにそのつもりだった。
通常、新任の医師は大学病院に残るか、地方病院に行くかの二択になる。
医療機関は巷に溢れているが、そのほとんどは個人経営であり、そちらに出向くことはまずない。
『前にも言ったが、俺はしばらくそちらに戻れない』
「こないだ戻って来たじゃない」
『四六時中日本にいられねぇって意味だ』
「それが、何?」
『察しの悪い奴だなァ』
呆れたような声に嘆息する。呆れたいのはこちらだ、と妖介は歯がみした。
『今姉崎を守れるのは、テメェだけだ。テメェが地方に出向くのは危険すぎる』
総合病院で高い地位にいる高見の元に行くのなら、彼は実家から通うことが出来る。
そこまで考えたのか、と理解して妖介は嘆息する。
ヒル魔はそれに構わず更に続けた。
『あかりは護が中心になって守るだろう。アヤはムサシといればどうにかなる。だが、姉崎は』
「・・・だったら、母さんをそっちに連れて行けばよかったじゃない」
『雁屋のアルバイトを俺が無理矢理辞めさせて? そもそも俺が言って辞めるような状況だったか?』
「・・・・・・」
苦々しい声に、ヒル魔が色々と策を巡らせた結果が今なのだろうとは思う。
思うけれど、横暴すぎる。
腑に落ちない妖介の耳に、しばしの沈黙の後、ヒル魔が呟いた。
『―――俺が今頼れるのはテメェだけだ』
「!!」
それに妖介は目を見開く。
『今、姉崎を守れるだけの力があって、一番側にいられるのはテメェだからな』
頼る、という言葉をヒル魔から聞くことなんて初めてだった。
「・・・護、は」
『あいつは俺に似たから変なところで脆ェだろ』
けれど、とヒル魔は続ける。
『テメェは幸いにして姉崎に似た。守るってことならテメェは兄弟一強ェから心配ねぇしな』
笑みを含んだ声に、妖介は頭を抱える。
「・・・なんだか気分が悪くなってきたんだけど」
今まで聞いたことのない褒め言葉のオンパレードに食傷気味だ。
これはあれだ、褒め殺し。昔の人はうまいこと言うなあ、とまで思った。
げんなりした声に、ヒル魔は笑いながら告げた。
『姉崎を頼むぞ、妖介』
今まで一度も聞いたことがないくらい、真摯な声で。
そして通話が途切れる。
妖介はしばし電話を手に固まっていたけれど、ドアをノックする音で我に返った。
「あ、はい。何?」
「ようにぃ、ごはんだよ」
ひょこりと顔を出したあかりが妖介の顔を見る。そうして。
「ようにぃ、お顔が真っ赤!」
どうしたの、おねつあるの? と母譲りの顔と仕草でオロオロするのを見て、妖介は苦笑し彼女を抱き上げる。
「大丈夫だよ」
「でも、ほら、こんなにあついよ?」
ぺと、と小さな手でおでこを触られて妖介は少し言葉を探し、そうして。
「んー、いいことがあったんだよ」
「いいこと?」
小首を傾げるあかりに頷いてみせる。
「父さんに頼りにされるって、嬉しいもんだね」
そうして赤みの残る顔でにっこりと笑って見せた。

***
ヒル魔さんは妖介のことをちゃんと頼りにしてたんですよ、という後日談でした。
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