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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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信念の温度(上)

(阿含・まもり・ヒル魔)


+ + + + + + + + + +
阿含は皆に遅れてアメリカに到着し、全日本代表メンバーと合流した。

あからさまに苦々しい視線を向けてくる奴もいるが(主に番場)、大概は気にせず受け流すか(主に進)、ビビって声も掛けられないか(主にセナ)に別れる。
こういうときに真っ先に飛んできて苦言を呈す雲水も不在の今、この場に進んで彼を諫めるような正義漢(という名の苦労性)は存在しない。
そのかわり。
「ケケケ、やっと来やがったか糞ドレッド」
彼に近づいたのは足音のしない悪魔こと蛭魔妖一。
その実態はどこにでもいるただの糞カスだ、と阿含は思う。
ただ、ほんの少しばかり頭の回転が他とは違う、それだけだ。
それだけの奴に散々コケにされて腹立たしいことこの上ない。
ふん、と鼻を鳴らすのを奴は挨拶代わりだと踏んだようだ。
「テメェの部屋はここだ」
投げられた鍵を受け取る。
ルームメイトなんて面倒な奴寄越したら殺すと彼が言うまでもなく、一人部屋だと告げられた。
飄々とした悪魔の後ろから、ひょこりと茶色い頭が覗く。
「阿含くんの荷物は先に部屋へ置いておいたわ。何か足りないものがあったら言ってね」
泥門のマネージャー、姉崎まもり。
この周囲の険悪な空気もものともせず、阿含に臆せず接してくる。
そこにすかさず悪魔が割って入った。
「テメェはあっちで糞ガキどもの面倒見てろ」
「んもう! またセナたちのこと、そういう呼び方する!」
「糞ガキは糞ガキだ。テメェ含めな」
「な・・・! ひっどーい!」
ヒル魔くんのバーカ、と舌を出すまもりにヒル魔は糞ブッサイクなツラ、とにべもない。
ぷりぷりと立ち去る彼女をおかしそうに見送るヒル魔。
それが他の女とあからさまに違う接し方なのは阿含もすぐ判った。
全員が苦笑混じりの視線でもって見守っているのも察し、ああ、アイツらデキてんのか、と単純に思う。
ならば都合がいい、と阿含はこっそりと質の悪い笑みを浮かべた。


「やあ、姉崎さん。ちょっといいかい?」
泥門一的確なツッコミをする戸叶からして『きれいな阿含』と言わしめた笑顔で彼はまもりに近づいた。
皆のサポートを終え、あとは眠るばかりという状況からか僅かに緩んだ空気の彼女は、阿含の声にふわりと笑って止まる。
「あら。何かしら?」
小首を傾げる仕草も可愛らしい。
「ちょっと気になったんだ。単刀直入に聞くけど」
阿含はまもりとの間合いを僅かに詰める。
常人なら危険を察したら踵を返し、逃げおおせられるほどゆったりした距離だが、阿含であれば一瞬で獲物を捕らえられる距離。
「ヒル魔と付き合ってるの?」
「・・・っ」
それにまもりはかああ、と頬を染めた。
言うまでもなくそういう関係なのだ、と確定して阿含はなんとなく面白くなかった。
彼女は彼がこれまで接してきた中でも上物の部類に入る美人だ。
それに加えて気だても良くて家庭的でよく働く。
まさに彼女として傍らに置くには最高の人材と言えよう。
「なんでヒル魔なの?」
「え」
「あんな悪魔みたいなのはやめて、俺にしない?」
まもりが動くよりも早く、阿含は間合いを詰める。
あっという間に目の前に立ちふさがる阿含に、まもりは僅かにたたらを踏んだ。
「楽しませてやるよ」
これで落ちなかった女はいない、という声音で囁く。
けれど。
まもりは赤面も動揺もせず、静かな表情のまま真っ直ぐに阿含を見上げた。
「お断りするわ」
それに阿含は眸を眇める。
たとえば狙った女に彼氏という存在がいても、阿含が声を掛ければ誰もが全て彼に靡いた。
稀に虚勢を張る女もいたにはいたが、それでも多少なりとも揺らぎを見せるのが当たり前。
ここまで真っ直ぐに阿含を見上げた女は初めてだった。

<続>
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