旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
そうして、ぐりんとヒル魔を勢いよく振り返る。
見開いた瞳は涙の膜が張ったせいできらきらと光を反射した。
「た、大将・・・!!」
まもりの歪む視界でヒル魔が感心したように呟いた。
「スゲェ確率だなァ」
まもりは悲鳴じみた声を上げる。
「ど、うしろっていうんです、か?!」
焦りと混乱のせいで上手に息さえ出来なくなったまもりの言葉は切れ切れで端的だったが、いくつもの意味が込められていた。
仕事は。
部下は。
生活は。
まったく想定外の出来事に恐慌状態になるまもりの頭をヒル魔が撫でる。
まもりは完全に声を失った。
「とりあえずお二人で話し合った方がいいと思います。お大事にどうぞ」
高見も蛍も笑みを浮かべていたが、妊娠について軽々しく祝福はしなかった。
茫然自失の体で帰宅したまもりは、ソファに強引に座らされた。
その隣にヒル魔も座る。
しばらく沈黙が続いて、そうしてようやく口を開いたのはまもりの方だった。
「どうするんですか」
ヒル魔はちらりとまもりを見る。
「私・・・」
まもりはそっとまだ何の兆候もない腹を撫でている。
ここに命が宿ったという。
奇跡のような確率を潜り抜けた子供がいるのだという。
それでも実感は薄い。
ただ告げられた事実だけに踊らされている。
「やっぱり、産みたくねぇか」
静かなヒル魔の声に、まもりは弾かれたように顔を上げた。
視線の先で、彼はじっとまもりを見ていた。
正確には、まもりが撫でる腹を。
その声音に、視線に諦めが混じっているのを感じて、まもりは唇を引き結んだ。
知っていた。
彼がまもりとの間に子供を授かりたいと常々考えていたことを。
そんなあり得ない夢を見続けるくらいなら自分などと結婚したいといわなければよかったのに。
もっと優しくて若くて綺麗な女性を妻に娶って、好きなだけ子供を得ればよかったのに。
王の御前で妻にと願ったから、祭典のような結婚式まで挙げたから、まもりとはもう離婚したくてもよっぽどのことがないかぎり無理だ。
軍人という過酷な職業柄、子供を欲しがるということは、男性の本能だろうとまもりは考えている。
だから本気で彼がほかに女を囲えばいいとさえ思っていた。自分には決してしてあげられないことだから、と。
そう口にして彼を怒らせたことも一度や二度ではない。
だから今回の妊娠でも、堕胎など許さないだろうと思っていた。
「堕ろしていいんですか」
「言ったって聞きゃしねぇんだろ、テメェは」
ヒル魔は自嘲気味に唇を歪める。
妊娠を嫌がり、子供を欲しがらないまもりの姿を常々見ていたから。
そんな彼女に子供を産むことを強制させることは出来なかった。
無理強いして、まもりが離れてしまっては元も子もない。
子宝はどれだけ欲しがったとしても恵まれないことだってある。
子供がいないままで幸せに暮らす夫婦も数多い。
最初から妊娠なんてなかったことだと思えばまだ諦められる。
それでも。
ヒル魔はそっとまもりの手の上からその腹を撫でた。
その様子にまもりは見入ってしまう。
ほんの一瞬、嬉しいような、悲しいような、複雑な表情を浮かべたヒル魔は小さく呟く。
「・・・悪かったな」
密やかな謝罪は、どちらにあてたものか。
望まない妊娠をしたまもりにか。
せっかく宿ったのに姿すら見る前に消される子供にか。
その両方か。
・・・それとも、どうしても子供を、と望んでしまう自分の欲を自嘲して、か。
彼の手のひらは名残惜しそうに離れていく。
「テメェの好きにしろ」
ヒル魔はふいに立ち上がり、平素と変わらない様子で自室に下がる。
その影に潜んでいるだろう彼の本音を推し量ろうとして。
まもりはかける言葉が見つからず、ただその背中を見送ってしまった。
結局食事もそこそこに、まもりは早々にベッドへと潜り込んだ。
混乱しすぎて頭が痛い。
それでもまた、思い出してしまう。
ずっとまもりとの子供を望んでいた彼。それでも、まもりの気持ちのほうを優先させた。
ちらりと時計を見る。まだ日付も変わっていないが、ヒル魔はあれきり部屋から出てこなかった。
まもりはごろりと寝返りを打ったが、眠気は遠い。
その原因もわかっている。
まもりは数回諦め悪く寝返りを打ち、何かを思い決める。
そうしてようやく体を起こした。
<続>
見開いた瞳は涙の膜が張ったせいできらきらと光を反射した。
「た、大将・・・!!」
まもりの歪む視界でヒル魔が感心したように呟いた。
「スゲェ確率だなァ」
まもりは悲鳴じみた声を上げる。
「ど、うしろっていうんです、か?!」
焦りと混乱のせいで上手に息さえ出来なくなったまもりの言葉は切れ切れで端的だったが、いくつもの意味が込められていた。
仕事は。
部下は。
生活は。
まったく想定外の出来事に恐慌状態になるまもりの頭をヒル魔が撫でる。
まもりは完全に声を失った。
「とりあえずお二人で話し合った方がいいと思います。お大事にどうぞ」
高見も蛍も笑みを浮かべていたが、妊娠について軽々しく祝福はしなかった。
茫然自失の体で帰宅したまもりは、ソファに強引に座らされた。
その隣にヒル魔も座る。
しばらく沈黙が続いて、そうしてようやく口を開いたのはまもりの方だった。
「どうするんですか」
ヒル魔はちらりとまもりを見る。
「私・・・」
まもりはそっとまだ何の兆候もない腹を撫でている。
ここに命が宿ったという。
奇跡のような確率を潜り抜けた子供がいるのだという。
それでも実感は薄い。
ただ告げられた事実だけに踊らされている。
「やっぱり、産みたくねぇか」
静かなヒル魔の声に、まもりは弾かれたように顔を上げた。
視線の先で、彼はじっとまもりを見ていた。
正確には、まもりが撫でる腹を。
その声音に、視線に諦めが混じっているのを感じて、まもりは唇を引き結んだ。
知っていた。
彼がまもりとの間に子供を授かりたいと常々考えていたことを。
そんなあり得ない夢を見続けるくらいなら自分などと結婚したいといわなければよかったのに。
もっと優しくて若くて綺麗な女性を妻に娶って、好きなだけ子供を得ればよかったのに。
王の御前で妻にと願ったから、祭典のような結婚式まで挙げたから、まもりとはもう離婚したくてもよっぽどのことがないかぎり無理だ。
軍人という過酷な職業柄、子供を欲しがるということは、男性の本能だろうとまもりは考えている。
だから本気で彼がほかに女を囲えばいいとさえ思っていた。自分には決してしてあげられないことだから、と。
そう口にして彼を怒らせたことも一度や二度ではない。
だから今回の妊娠でも、堕胎など許さないだろうと思っていた。
「堕ろしていいんですか」
「言ったって聞きゃしねぇんだろ、テメェは」
ヒル魔は自嘲気味に唇を歪める。
妊娠を嫌がり、子供を欲しがらないまもりの姿を常々見ていたから。
そんな彼女に子供を産むことを強制させることは出来なかった。
無理強いして、まもりが離れてしまっては元も子もない。
子宝はどれだけ欲しがったとしても恵まれないことだってある。
子供がいないままで幸せに暮らす夫婦も数多い。
最初から妊娠なんてなかったことだと思えばまだ諦められる。
それでも。
ヒル魔はそっとまもりの手の上からその腹を撫でた。
その様子にまもりは見入ってしまう。
ほんの一瞬、嬉しいような、悲しいような、複雑な表情を浮かべたヒル魔は小さく呟く。
「・・・悪かったな」
密やかな謝罪は、どちらにあてたものか。
望まない妊娠をしたまもりにか。
せっかく宿ったのに姿すら見る前に消される子供にか。
その両方か。
・・・それとも、どうしても子供を、と望んでしまう自分の欲を自嘲して、か。
彼の手のひらは名残惜しそうに離れていく。
「テメェの好きにしろ」
ヒル魔はふいに立ち上がり、平素と変わらない様子で自室に下がる。
その影に潜んでいるだろう彼の本音を推し量ろうとして。
まもりはかける言葉が見つからず、ただその背中を見送ってしまった。
結局食事もそこそこに、まもりは早々にベッドへと潜り込んだ。
混乱しすぎて頭が痛い。
それでもまた、思い出してしまう。
ずっとまもりとの子供を望んでいた彼。それでも、まもりの気持ちのほうを優先させた。
ちらりと時計を見る。まだ日付も変わっていないが、ヒル魔はあれきり部屋から出てこなかった。
まもりはごろりと寝返りを打ったが、眠気は遠い。
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そうしてようやく体を起こした。
<続>
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女性
趣味:
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自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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