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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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狐のまにまに

(狐の嫁入りシリーズ)


+ + + + + + + + + +
ある晩、ヒル魔が唐突に言った。
「オイ、明日から俺は籠もる。俺が出てくるまであそこには近寄るなよ」
「え?」
まもりは洗濯物を畳みながら、仁王立ちしているヒル魔を見上げる。
ヒル魔が指し示すのは、屋敷の最も奥。
そこは重々しい扉が取り付けられていて、まもりも開いたことはない。
「え? あそこ、なんなの」
「座敷牢」
「えぇっ!? ヒル魔くん、何か悪いコトしたの!?」
「お前なあ、自分の屋敷の座敷牢に入るのになんでそういう話になるんだよ」
呆れられて、まもりはだってとむくれる。
「だって家主が牢屋に入るなんて聞いたことがないわよ!」
「とにかくお前は絶対に近寄るな。俺が自分で出てくるまでは絶対に、だ」
「それってどれくらいの期間なの?」
「あー・・・多分一ヶ月くらい、か」
「一ヶ月も!? そんなところに入ってたら餓死しちゃうじゃない!」
「俺はそんくらい何も喰わなくても平気だ。あそこは水が引いてあるから、さして困らねぇよ」
詳しい理由を語られず、まもりは不安そうにヒル魔を見つめる。
ヒル魔はまもりの頭を優しく撫でると、噛んで含めるようにもう一度言った。
「いいか、お前は特に、絶対に近寄るんじゃねぇぞ」
それが優しい仕草や口調とは裏腹にものすごく威圧感があったので、まもりはこくりと頷くしかなかった。

「・・・というわけで、ヒル魔くんが籠もっちゃった」
「ああ・・・そうか、そんな時期でしたか」
すっかり相談役として定着した雪光が本から顔を上げてまもりを見る。
ヒル魔が座敷牢に籠もってから早一週間が経過していた。
「時期?」
「ええでも・・・」
雪光は一度言いかけて、その続きを飲み込む。
「あ、雪光さん今何か言いかけましたね!?」
「いやいや。久しぶりだな、って思っただけですよ」
「久しぶり?」
「ええ。何年かに一度、下手をすると十数年に一度くらいの周期なので、以前を考えると結構間が開いたな、と思ったんです」
にこにこと虫も殺さぬ笑顔が結構食えないのだとまもりはこの一年でしっかり学んでいた。
「ふーん?」
「それはそうと、高見さんのところに用事があると仰ってませんでしたか?」
「え?! ・・・あ、そうだった、届け物があったんだわ」
籠もる前にヒル魔の残した書類には大量の用事が書き付けられていて、まもりは気晴らしも兼ねてその用事をこなしていた。その中に高見の所に届けるように指定された品物があったのだ。何かは知らないが。
「ああそうだ、まもりさん、僕からも高見さんにお願いしたいことがあるんですが」
「私に出来ることならいいわよ」
「じゃあこれが欲しいとお伝え下さい。それで判るはずです」
ぺらりと渡された紙にはなにやら色々書いてあるが、まもりにはサッパリ判らない。
「よろしくお願いします」
頭を下げる雪光にまもりは手を振って書庫を後にする。
「我慢は良くないし、せっかくお嫁さんがいるんですから、ご協力頂きましょう」
ふ、と雪光の顔が楽しそうにほころぶ。
その内心を読む者がいたら、多分その表情との差に度肝を抜かれただろうけど。

「わざわざありがとう。いや、やっぱりヒル魔に頼むと違うね」
感心したように手にした袋を覗き込み、高見は嬉しそうに笑った。
「そうですか。お役に立てたなら何よりです」
若菜に頂いたお茶とお菓子に舌鼓を打ちつつ、まもりも笑う。
「あ、そうそう、思い出したわ。ウチの管理をしてくれてる雪光さんから預かったんですけど・・・」
「へえ、彼から? 珍しいね」
「これをお願いしたい、って」
雪光に託された紙を高見に渡すと、彼は一瞬停止する。
「・・・あの?」
「あ、ああ、ごめんね。そうか、今ヒル魔は籠もってるんだ?」
「? そうです。なんだか一ヶ月も出てこないらしくて」
心配です、と俯くまもりに高見は雪光の意図を察して苦笑いする。
ヒル魔の意志も判らなくはないが、確かにこれでは・・・。
高見はしばし考えたが、結局雪光の作戦に乗ることに決めた。
多分何かあったら彼は自分のことを守ってくれるだろう、という半ば楽観的なものだったが。
「ちょっと待っていて、今用意するから」
程なくして高見は杯を持ってきた。そこになにやら薬草やら丸薬やらを少しずつ足していき、最後に液体を一振り。そしてすぐにその上を油紙で覆った。
「はい、できあがり」
ぽん、とそれをまもりの手のひらに載せる。
「なんですか、これ?」
「これはヒル魔の籠もってる病状に効く薬だよ」
「え!」
まもりは目を見開いて手のひらの中の包みを見た。
「病気とは正確には違うんだけどね。それはヒル魔が服用するんじゃない。君が服用するんだ」
「私?」
「ああ。大丈夫、毒じゃないよ」
「高見さんが私に毒を飲ませるなんて思ってもいませんよ」
にっこりと笑うまもりに、高見も微笑む。
「じゃあ早速戻って試してみます!」
「あ、その薬を飲むときには、ヒル魔のいる扉の前で飲んでね」
「そうなんですか?」
「うん、あんまり離れたところで飲むと効力がないんだ」
「・・・? そうなんですか? わかりました」
まもりは一体何なんだろう、と包みを見つつも素直に頷いてケルベロスに跨って屋敷へと戻る。
「高見さん、今のって、まさか」
「うん、雪光くんから依頼されたんだ」
「・・・大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だよ、多分」
心配そうな若菜の言葉に、高見は苦笑するしかなかった。

まもりは雪光に戻ったことと、目当てのものを頂いたことを伝える。
雪光はがんばって下さいね、と微笑んでまもりを送り出して自らも書庫から出てきた。
珍しいこともあるものだ。彼は基本的にヒル魔が呼び出さない限りは書庫から早々出てこないのに。
「なんかね、高見さんがヒル魔くんのいる扉の前で飲め、って言ってたのよ」
「そうですね」
仰々しいとも思えるほどの扉の前で、まもりは何の躊躇いもなく高見が寄越した薬を一口で飲み込んだ。
「きゃっ! すっごく苦い、これ!!」
うえ、と舌を出すまもりに雪光は苦笑する。と、その姿が唐突に歪んだ。
「・・・あら?」
「効果覿面ですね」
にこにこ、と笑う雪光の前で、まもりの全身から力が抜ける。
かくりと膝が折れ、廊下に倒れる。
ぶわ、と音を立ててまもりの身体から立ち上るのは、淫靡な香。
ふわふわと漂うソレを避け、雪光はそれをそっと袖で扇ぎ扉へと向ける。
異変に気づいたのか、扉が僅かに開かれる。
そしてその隙間からでも容易に捕らえられる香、そして倒れた人影に内部から様子を伺ったヒル魔は驚きの声を上げた。
「まもり・・・ッ!?」
彼の視界に揺れるものがある。
見ればそこには笑みを浮かべた雪光が袖で香をこちらに送っているではないか。
「テメェ・・・」
「いいじゃないですか、お嫁さんがせっかくいるんですからご協力して頂くのが一番ですよ」
「俺が何のためにここに入ったと思ってるんだ?!」
ビリビリと大気を震わせる怒気も雪光はどこ吹く風で流す。
「ヒル魔さんが手出ししないなら、まもりさんは別の妖怪の餌食ですね。いやー、いくら妖怪とはいえ、性欲がある連中は沢山いますからね」
僕はしませんけど、と雪光は更にヒル魔に香を送る。
ギリギリと歯ぎしりして、けれど結局、ヒル魔の手がまもりの身体に伸ばされる。
片腕で彼女を易々と抱き上げ、ヒル魔はふと思い立ったようにまもりの身体から立ち上る香をふっと外に向かって吹き付けた。
「わ!」
「テメェの不始末はテメェで片づけろ!!」
怒りの声はすぐさま閉じられた扉によって末尾が聞き取れなかった。
周囲に散るまもりの香を雪光は避ける。
これを嗅いでしまうと、基本的に欲のない雪光でさえ女を欲するという質の悪いものなのだ。
とりあえずこのまま風を入れて霧散させればいいだろう、と空に続く部屋を開いた途端。
「やー! 楽しー!!」
タイミング悪く、鈴音がその部屋から飛び出してきてしまった。どうやら風鬼か天狗たちと遊んでいた様子。
「はれ? ゆっきー? なんで・・・」
「鈴音ちゃん、息を止めて!」
雪光が叫ぶも、一瞬遅かった。
「え・・・何この香り・・・・にゃぁあぁぁぁぁああん・・・」
しまった、と雪光は額を抑える。
突風のおかげでほとんど消えた香の被害者は、彼女だけということになるだろう。
「まあ、君で幸いというか、なんというか」
「・・・ゃー?」
床に身体を擦りつけるように甘く鳴く鈴音にため息をついて、雪光は彼女の恋人を呼んだ。
「セナくーん、セナくーん」
「はーい、どうしました雪光さん・・・ってどうしたの鈴音!」
すっと姿を現したセナは、足下に倒れる鈴音に駆け寄った。
「ごめんね、ちょっと面倒に巻き込まれちゃって。この子の面倒見て欲しいんだ」
「あ・・・ん、セナぁ・・・」
「え? ええ!?」
「じゃあ僕は書庫に戻るから、よろしくね」
すたすたと雪光は書庫へ戻ってしまう。
後には甘く啼いて身をくねらせる鈴音と、それを抱えて呆然と立ちつくすセナが残されたのだった。

□■□■□

身動き一つままならない程に疲弊したまもりは、布団の上でぐっすりと寝入っていた。
その枕元でヒル魔は飽くことなく彼女の寝顔を見ている。
彼の姿は座敷牢に籠もる前の姿に戻っていて、鋭利な爪も獣の耳も今はない。
そこにすっと雪光が姿を現した。
「やはり随分早くお戻りでしたね」
まもりが座敷牢に引きずり込まれてから十日ほどで彼はまもりを伴って姿を現した。
常の日数を考えれば半分程で戻った事になる。
「・・・テメェの思惑通りにな」
苦々しげに言いつつも手を出さない彼に、おや、と雪光は首を傾げる。
「私を殺さないのですか?」
「テメェに何かあったらまもりが悲しむ」
残念ながら今回は見送ってやる、とヒル魔は続けた。
まもりのことだ、彼女がヒル魔を案じて雪光に相談を持ちかけたのだから彼は悪くない、と言い出すに違いないのだ。
「ただし二度はねぇぞ」
「肝に銘じます」
でも私は肝を持ってませんがね、と内心で思いながら雪光はまもりをそっと伺う。
彼女は疲弊しているが、思った程やつれていない。
きっとヒル魔が力を分け与えるように抱いていたのだろう。
彼程の妖怪ならば、容易い所作だ。
そもそも彼は狐、情の深い妖怪である。
心許した彼女に本質的に酷い事は出来ないのだ。
そこでふと雪光は気づく。
「まもりさんを孕ませなかったのですか?」
「ああ」
妖怪は力が強ければ強い程自らの子を成す時を選ぶ事が出来る。
身体の周期に左右される人間とは違い、意志一つで可能なのだ。
発情期は獣の生存本能として残ってしまっているが、それだけ孕ませたい、という欲があるということだろうに、と雪光は訝るが。
「まだガキごときにコイツをやれねぇよ」
さらりとまもりの頭を撫でるヒル魔の顔はひどく楽しげで、彼女を当面独り占めしたいというのがありありと出ている。
「・・・それはまた、お熱い事で」
では私はこれで失礼致します、と惚気られた雪光は肩をすくめて書庫へと姿を消す。
室内には再び二人だけが残された。
「時間はまだ飽きる程あるんだ。しっかり付き合うんだな、まもり」
そっとまもりの唇に己のそれを重ね、ヒル魔は楽しげに喉を鳴らした。

***
久しぶりに狐の嫁入りシリーズです。私は狐のヒル魔さんには形態を四つ考えていて、1.人型 2.尻尾が出て耳が獣の形に近づく 3.髪が伸びて耳は完全に獣のようになって頭上について、顔には隈取りが出る 4.獣型 というのがあります。で、今回は3の姿です。髪が長いと動き辛いのであんまりこの姿にはならないんです。でもより獣に近いので、本能が勝る時期はかろうじて人型を保つため3になることが多いのです。
ずっと考えていたのですがやっと書けたのでお披露目です。
そういえばセナと鈴音はどうしたんでしょうね(他人事)。
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