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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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血統証明

(ヒルまも一家)

※アヤ・妖介入学後一ヶ月目の出来事。

+ + + + + + + + + +
アヤの色が妙だ、ということに気づいたのは入学して一ヶ月ほどした頃だった。
「アヤ、調子悪い?」
「いや」
簡潔に返される。日課のランニングは欠かしていないし、入部兼ポジション選別テストを終えた後はアメフト部の練習に専念できているし、当初に煩かった害虫を一掃しておいたからかあんまりその後はアクションが起きていないし、両親は相変わらず仲が良く、姉弟げんかもなく、すべてが平穏なはずなのだけれど。
「何か嫌なことでもあったの?」
「別に」
どう見ても別に、という雰囲気ではないが、こうなったときのアヤの口を割らせるのは至難の業なので諦める。
今ムサシさんの現場どこだっけ、帰りに寄れるなら事務所とかに顔出させて貰おうかな、とアヤのご機嫌取りよろしく色々と考える。
黙々と歩くアヤに変化はない。
いや、なかった。
練習を終えて校舎に入り、靴箱を開けるまでは。
「・・・・・・」
ぶわ、と不機嫌なオーラが隣から舞い上がる。
「ど、どうした・・・の・・・」
見ればそこには大量のお菓子の数々。可愛らしくラッピングされているものから無造作に突っ込まれている板チョコまで。
一体何が起こったのだろう。
「なんでこんなにお菓子入ってるの!?」
「知るか!」
滅多に出ない怒りモードのアヤに俺は慌てて靴箱の中に入っていたお菓子を全部出した。大小様々に入っているが、アヤは俺の手がどいた途端に踏むつもりだ。目の前にいるのが父さんじゃなくてよかった。もし父さんだったら俺の手も構わずコレ全部燃やし尽くしただろう。
普段なら食べ物は大事に、甘い物は最も大事に、という母さんの教えを守って全部頂くところだけれど、どこの誰とも知れない人が入れたお菓子は怖くて食べられない。内心手を合わせながら全てゴミ箱にどばっと捨てた。
「もしかして、ここのところ調子悪そうなのってコレが原因?」
「ああ」
甘い匂いが移った上履きに顔を顰めながらアヤは廊下を歩く。
「なんだろうね。バレンタインじゃないし、誕生日は知られてないはずだし」
首を捻る俺の前でアヤはばんばん不機嫌なオーラを振りまいている。
美人が怒ると怖い。本当に怖い。
ましてやアヤは普段こんなに怒らない。怒る事が面倒だからだ。
一体誰の仕業なのだろうか、見当もつかない。
そして教室にはいると、不機嫌なのを隠しもしないままアヤは自席につき。机の中に手を入れて、ぴたりと動きを止めた。
「アヤ?」
「・・・・・・」
その手を引き出すと、そこにはまたしても大量のお菓子。
「うわ」
どさどさ、と落ちたそれに気づいたのんきなクラスメイトが差し入れでも貰ったの? と話しかけてきた。
落ちちゃったね、とそれを拾おうとして。
形容しようもない轟音を立てて、アヤの机が黒板まで飛び、ひしゃげて落ちた。黒板にもひびが入ってる。
アヤが投げたのだ。
呆然とするクラスメイトの前で、ゆらりとアヤが顔を上げた。
「・・・よっぽど命が惜しくねぇみたいだな」
あちゃー、と俺は顔を覆った。
アヤが本気で怒っちゃった。
「ひ、ひ・・・ヒル魔、さん・・?」
眦と口角がきりきりとつり上がり、ぴんぴんと前髪が一部逆立つ。
普段は隠れている耳がビン、と怒りを主張した。
「俺は糞甘ェモンが死ぬ程嫌いなんだよ!!」
ふざけんな!! と叫んで今度は椅子が飛んでいった。やっぱり轟音を立てて椅子はひしゃげて落ちた。・・・黒板が割れた。
「今後こんなモン俺に近づけてみろ・・・」
俺は手が出せない。こうなったアヤに手を出したら俺も机や椅子と同じく容赦なく投げ飛ばされるからだ。
アヤが女とはいえ、手加減なしで投げられたら俺も怪我しちゃうんだよ。
「テメェら纏めて地獄に送ってやる!!」
それはまさしくグラウンドで幅を利かせる悪魔コーチの生き写しで。
普段ホントに親子なのかと思われていると知っていたけれど、それは嘘ではないのだと証明した事になる。
あんまりに嬉しい証明の仕方じゃないけどね。
怒れるままに廊下に出たアヤに、誰も動けない。
俺はごほんと咳払いして周囲を見渡す。
「アー、壊れた物についてはとりあえず先生に事情説明しておいてくれる? なんだったらアメフト部の悪魔コーチに請求書回していいからって」
「そそそそんな!」
「出来ないよそんなヒル魔くん!」
「平気だって。俺が言ったって言っておいて。俺はアヤ迎えに行ってくるから」
丁度その時予鈴が鳴った。戸惑うクラスメイトを置いて、俺はアヤの後を追う。
多分あそこだ。
屋上。



「アヤぁ」
扉を開くと、髪を解いたアヤが風に吹かれていた。
さらさらと靡く髪がすごくきれい。耳の形と相俟って、やっぱり妖精に間違われるのも無理ないかな、と思う。
「久々に大爆発だったね」
「疲れた」
表情はもういつものままだ。最初あの怒りを見たときの俺の衝撃ったらなかったよ。いくら父娘って言ってもそりゃないだろうって思った。
「多分嫌がらせじゃないんだよ」
「どこが」
「女の子は甘い物が好き、っていうのが相場じゃない? 単なる差し入れじゃないかな」
だったら当人に好みを聞くべきだ、とアヤは嘆息する。ぺり、と無糖ガムを剥いて口に放り込んだ。
「結ってあげるよ」
「ん」
ガムを噛むアヤの後ろに回って、髪をすくい取る。アヤの髪は昔からいじっているから慣れたもんだ。
「どう?」
特に何も言わずアヤは渡した鏡を見た。嫌ならすぐ解くから、とりあえず気に入ったんだろう。
「落ち着いたら教室戻ろうよ。あ、でも黒板割っちゃったっけ」
別の教室で授業かな、そう思っていたら、出口の扉が開いた。
「・・・テメェら何やってやがんだ」
そこには呆れた顔の父さんが立ってた。手にはマシンガン、いつもの姿だ。
「アヤが怒ったんだよ」
「聞いた。さすが俺の娘」
ぽん、とアヤの頭に手が乗る。俺は本日二度目にあちゃー、と顔を覆った。
「だが、さすがにありゃやりすぎ、だ!」
「っ!!」
がっしりと頭を掴んでおもむろにアイアンクロー。
我が家では定番のオシオキだ。さすがのアヤも痛みにもがく。
「たかが糞菓子仕込まれたくらいで・・・」
「入学してから毎日! 毎日どこにいても仕込まれた!」
早口にまくし立てられたそれに、父さんの手から力が抜けた。
「毎日?」
「さすがに続きすぎてキレた」
痛む頭を抑えるアヤに、ヒル魔はピンと片眉を上げた。
「ホー・・・」
「そういう訳でアヤは黒板と机と椅子を壊しました」
俺はそう追加で報告しておくけれど。
「大した損害じゃねぇ。そんなもんは校長に出させる」
やっぱり、と俺は見るたびやつれていく校長を思い出す。
ああ、すみません校長。今回は父さんじゃなくてアヤのせいです。
「とりあえず今回の事は虫除けとしてこれ以上は免除してやる」
「はい」
アヤはほっと息をついた。

一限目が終わるまではまだもう少し時間がある。
俺はアヤが父さんからQBのテクニックについて受けているレクチャーをBGMにして、つかの間の休息に瞳を閉じた。

***
唐突にアヤを怒らせたらどうなるのかなー、と思って書きました。冷静に怒ったり笑顔でもよかったのですが、父親みたいに口もガラも悪い子が出てきました。何でも投げる癖がついてるんでしょうか。
この素地があって試合の時は魔女と呼ばれる程になるようです。
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