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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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猫の恋煩い(上)

(ヒルまも)

※7/18アップ『猫と恩返し』の続きです

+ + + + + + + + + +
まもりは買い物袋を手にすっかり慣れた道を歩いていた。
ふわりと鼻腔を擽るのは爽やかなオレンジの香り。
美味しそうなので二つ買ってみたのだ。彼は気に入るだろうか。
ヒル魔は甘い物以外はわりと好き嫌いもない。何を作ってもよほどの事がない限り完食する。
けれどやはり好みの味があるようで、最近はその細かい好みも判ってきた。
鼻歌交じりのまもりは、小さな公園の隣を通る。
「ねー、ママァー」
髪の毛を二つにくくり、鮮やかな赤のワンピースを着た少女が日陰に佇む母親の元に駆けていく。
「『赤い糸』って本当にあるのー?」
甲高い子供の声は聞こえるけれど、母親の声はまもりの耳まで届かない。
「じゃあパパとママには赤い糸が繋がってるのね!」
少女の嬉しげな声に母親は優しく笑ったのだろうと推測する。
「ねーねー、じゃあわたしの赤い糸も誰かに繋がってるんだよね?」
弾けるような笑顔なのは遠目にも知れた。
「楽しみだねー!」
公園の脇を通り過ぎるほんの僅かの時だったけれど、そのあたたかい会話にまもりはくすくすと笑いながらまもりはヒル魔の家に続く道の角を曲がった。
私も彼と赤い糸が繋がっているといいな、そんな風に考えながら。
見慣れたマンションにもうすぐ着く、そう思った時、視界によく見知った金色が過ぎった。
「え?」
一瞬錯覚かと思ったが、間違いない、ヒル魔だ。
かなり離れた場所で誰かと立ち話している。
そしてまもりは、彼の隣に立つ者の姿に声を失った。
ぽろりと買い物袋からオレンジが転がり落ちる。
長い金髪を結い上げ、穏やかに笑う女性。年の頃はヒル魔と同じくらいだろうか。
ダークグレーの落ち着いた色合いのスーツを身に纏っている。
その腕には重そうな鞄と紙袋が下がっていて、手には手帳。いかにも仕事の出来る女性という雰囲気。
それでも高いヒールを履いて、背筋をぴんと伸ばして彼女はヒル魔に話しかける。
そしてヒル魔は。
「・・・!」
まもりが見た事がないような顔で笑っていた。悪巧みというには随分と邪気なく楽しそうに。
そして二人はまもりに気づくことなくいずこかへと消えていった。
呆然とその場で立ちつくしていたまもりは、のろのろとオレンジを拾い上げると。
先ほどまでの上機嫌とは打って変わって悄然とした足取りで歩き出した。

正式にヒル魔からもらった合い鍵で室内に入る。
いつもこの空間に入るとヒル魔の香りがするから、まもりは嬉しい気持ちになるのだけれど、今日は少しも気分が浮かない。それでもいつものように料理を作るべく、置かせて貰っているエプロンを取り出す。
綺麗な人だったわ、とまもりは先ほどの光景を思い出しては鬱々とした気分のまま立った台所でしょりしょりとにんじんの皮を剥いていく。
仕事の付き合いかしら。同じ会社かしら、違うかしら。それとも、仕事とは関係ない話かしら。
まもりは考え事をしながら料理しつづける。先ほど剥いたにんじんは乱切りに、ゴボウとレンコンは酢水に晒して、里芋は上下を切り落とし六角に剥いて、こんにゃくはスプーンで千切って湯通しして、茹でた筍を切って、絹さやはさっと湯がいて。工程が多い筑前煮を選んで今日は正解だった。
黙々と作業するうちに衝撃から徐々に立ち直ってくる。
後は煮るだけ、という段階になってまもりはようやく大きく息をついた。
あの時、ヒル魔もスーツ姿だったし、たまたま知り合いと道で顔を合わせて立ち話していたのだろう。
そうだ、そうに違いない。
そう思い直し、まもりは残りの料理に没頭しだした。

けれど。
その夜、ヒル魔は帰ってこなかった。

まもりは早朝、ため息混じりにヒル魔の部屋を出た。寝不足で頭がぼんやりしている。
結局彼が帰ってこなくて、まもりは一人家主の居ない部屋で夜明かしした。
かつてこの部屋に住み着いていた時にこっそり持ち込んだ寝袋が再び役に立った。あまり褒められた使い方ではないけれど。
それにしても連絡の一つもないまま外泊するなんて今までの彼にはなかったことだ。
ああ見えて、出張などのときにはまもりが無駄足にならないようちゃんと連絡をくれるのだ。
どうしたのだろう、と不安を覚えても、どうしても居場所を問いただすような連絡は出来なかった。
だって、そんな立場にまもりはいないから。
未だキスも手を繋ぐ事もなく、ただまもりが彼が好きだと告げただけ。
一応恋人のようなポジションにはなれたのだと思っていたのだけれど、ふとした拍子にヒル魔との距離を感じる事がある。
まもりになるべく触れないようにしているかのような、指を伸ばしてくるときの幽かな躊躇い。
それは何気ない日常の中で、ほんの一瞬だけなのだけれど。
鍵を閉めた途端、背後から聞き慣れた声。
「・・・あ? 来てたのか」
「っ!」
振り返ると、そこには疲れた顔のヒル魔がいた。顔色も悪い。
「だ、大丈夫!?」
「おー。寝りゃ平気だ」
焦るまもりの頭をぽんと撫でて、ヒル魔は緩慢に扉を開く。
「だって、顔色悪いわ!」
「単なる飲み過ぎだ。・・・いいから」
まもりの声が響くのだろう、きつく眉を寄せるヒル魔に、まもりはぱっと口をつぐんだ。
そんなまもりにヒル魔は薄く笑うと、頭を一つ撫でて部屋に消える。
「悪ィな」
そんな言葉を残して。
そして。
強い酒の匂いに混じって香った、女物の香水にまもりはヒル魔に負けない程青ざめてふらふらと頼りなく廊下を歩み去った。


まもりはどことも知れぬところに一人座っていた。
見れば小指に赤いものが見える。
赤い糸。恋人同士を繋ぐ糸。
その糸は細く伸び、先は見えない。
まもりはその先を見ようと、立ち上がりその糸を辿っていく。
糸は長く長く、歩いても何も見えない。
と。
ヒル魔の姿が見えた。背をこちらに向けていて表情は見えないが、あの姿形はヒル魔に違いない。その小指からも糸が下がっている。
まもりは勢い込んでヒル魔の元に走り寄ろうとした。
けれど、走っても走っても見えない壁があるようでどうしても前に進めない。
焦るまもりの前で、ヒル魔の隣に寄り添う女性の影があった。
その小指の糸はヒル魔のそれと繋がっていて。
そして見ればまもりの糸はいつの間にか途切れてしまっている。
まもりの糸はヒル魔には繋がっていない。
彼女を嘲笑うかの如く、隣の女を愛おしげに抱えるヒル魔の姿に、まもりの瞳から涙が溢れる。
そして崩れる。
膝が。立っている場所が。
―――まもりが。


「まもり?」
「ッ!」
肩に触れる手に、まもりはびくりと震えた。見開いた目に飛び込んできたのは心配そうな母の顔。
「うなされてたわよ。大丈夫?」
「・・・ええ」
はあ、とため息をついて起きあがる。寝汗で湿気ったパジャマが張り付き、気持ちが悪い。
察した母に新しい替えを出して貰って、まもりはのろのろと着替えた。
あの後、まもりは帰宅して大学に行ったのだが、気分が悪くなって早退してきたのだ。
そしてベッドに潜り込んだのだが、妙な時間に眠ってしまったためか夢を見たらしい。
「熱は・・・まだあるわね」
グラスを渡され、冷えた水を喉に流し込む。妙に早鐘を打っていた心臓が落ち着いていくが、それは同時にまもりの思考も暗鬱とさせる。
「もう少し寝なさい。何か食べる?」
「・・・ううん、何も・・・」
「そう。じゃあ、何かあったら呼びなさいね」
柔らかい母の声に気怠く頷くと、まもりは再びベッドに横たわったが、眠りは遠く。
浅く意識が沈み込んでは赤い糸がちらつき、涙を零して起きあがるというのを、その夜まもりは幾度となく繰り返した。


<続>
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