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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ストレイシープ

(ヒルまも)
※『イヤーロブ』の前後です。

+ + + + + + + + + +
それにまもりが気づいたのは、本当に偶然だった。
「・・・っ」
低い、呻くような声。
一瞬空耳かと思ったが、もう一度聞こえてはそうではあるまい。
たまたま書いていたレポートが後少しで終わりそうだったので、いつもの就寝時間を回ってもペンが置けなかったのだ。やっと書き終え、安堵の吐息を零しながら就寝前に水を一杯飲もうと思ってキッチンに来て。
そうして、ヒル魔の眠る部屋から聞こえてきたそれに気づいたのだ。
「?」
うなされているのだろうか。
まもりは彼がうなされているところを見た事がない。
ヒル魔は寝付きも寝覚めも良い。当初は睡眠時間がやたら短くないかと訝しんだが、当人はどうやら五時間眠れば充分という体質らしい。共に生活し始めてから知った彼の生活リズムは、かつて部活を共にしていたためかあまり違和感なくまもりにも馴染んだ。
アメフトを辞めたとはいえ朝には必ずランニングに出てしまうし、生活リズムは外見に反してかなり規則正しい。
眠りが深く、一度寝入ると基本的に朝まで起きないと言っていたのは嘘ではない。
そんな彼が夢にうなされるというのが想像しがたかった。
まもりは恐る恐る彼の寝室の扉を開ける。
互いに寝室には一応鍵がついているが、どちらもろくに掛けられた事はない。
抵抗なく開いた扉の向こうで、闇の中にヒル魔が横たわっている。
彼は酷くうなされていた。
呼気も荒く、青ざめて汗を掻いている。
「ヒル魔、くん?」
噛みしめられた歯が苦痛を表すようで、まもりはそっとその肩に触れ、揺さぶる。
「―――――ッ」
それを切っ掛けに、びく、と身体を震わせてヒル魔が目を覚ました。
目を見開き、勢いでほんの少し頭が浮いたが、身体が起きあがる程ではない。
滴る程浮かんだ汗に悪夢のひどさを感じさせられ、まもりは自らがその悪夢を見たかのように青い顔で彼を覗き込み、その頬に触れた。
「大丈夫? うなされてたわよ」
「・・・ア?」
緩く瞬きし、それからおもむろにヒル魔は身体を起こした。
視線は敷布を漂い、その身体が小刻みに震えている。
「・・・・・・起こした、か?」
「ううん、まだ寝てなかったの」
まもりは汗だくの彼の姿に、そのままでは服が張り付いて気分が悪いだろうとタオルを取りに行こうとする。
「どこに行く」
「え? ヒル魔くん、凄い汗だもの。そのままじゃ―――」
風邪引くわ、と言いたかったのに。
ヒル魔の腕はまもりを巻き込んできつく抱き寄せた。
その胸に触れた耳から、煩い程彼の心臓が脈打っているのが判る。
「ヒル魔くん?」
「煩ェ」
焦るまもりにヒル魔はたった一言そう呟いて黙りこくってしまった。
眠っていない事は腕に込められた力の強さで知れる。
そして、なにより。
強引にまもりを抱き込んでおきながら、その様子はまるで、縋る子供のようだった。
まだ身体の震えも激しい心拍も収まっていない。
しがみつくという表現がぴったりの腕から抜け出せず、どうにか引き抜いた左腕を彼の背に、右腕を彼の頭に伸ばす。
「悪い夢、見たの?」
それに答えがないことに焦らず、まもりは伸ばした右手でそっとヒル魔の髪を梳いた。
「大丈夫よ。大丈夫」
幼子に言い聞かせるようにまもりはゆったりと声を掛ける。
ゆるゆると力が弱くなった腕に身体を預けたまま、まもりは彼の顔を覗き込む。
「大丈夫・・・」
まもりの視線を受け止めて、ヒル魔は大きく息をついた。まもりは背を伸ばし、そっと額に唇を寄せる。
「寝られそう?」
悪夢に遠ざけられていた眠気が舞い戻ってきたのか、ヒル魔は緩慢に瞬きした。眠いのだろう、とまもりは身体を離そうとするが、ヒル魔の腕は離れない。
「眠いなら横になって」
寝かしつけようとするまもりを離さず、ヒル魔はくあ、とあくびをする。
「ほら、眠いんでしょ?」
「そうだな」
「じゃあ離して。このままじゃ眠れない―――」
ぐい、とまもりは強引にベッドに引きずり込まれた。
疑問を口にする間もなく、抱き人形よろしく抱きしめられたまま。
「ちょ、ちょっと?! ヒル魔くん、寝ぼけてるんでしょ?!」
「正気だ」
「なら離して、ほら」
このままじゃ眠りづらいだろう、と諭すまもりに絡んだ腕は離れそうにもない。
強引に身体を引けば、脚まで絡んできた。
「ちょっと!」
よもやまさか、と青くなるまもりの心を読んだのか、ヒル魔はぽつんと言った。
「ヤりゃしねぇから、このまま抱かれてろ」
「―――――・・・」
それが意外な程弱々しく聞こえて、まもりは押し黙る。
ヒル魔は彼女を抱き直すと、そのまま眸を閉じてしまった。
すぐに規則正しい寝息が耳に届く。
まもりは今度こそ腕から抜け出そうとするが、がっちりと抱えられていては無理だ。
これではまさしく抱き枕状態。
けれど、目の前に見えるのは先ほどまでの苦痛が滲んだ寝顔ではなく、どこか安らいだ顔だから。
まもりは小さく苦笑した。
幸いな事にレポートは終わっているし、後は眠るだけだったから支障はないだろう。
まもりは抜け出す事を諦め、身体から力を抜いて眸を閉じる。
髪を擽る寝息、身体に絡む熱、先ほどとは違い、ゆったりと刻む心臓の音。
穏やかなそれは次第にまもりの意識も眠りへと引き込んでいった。



「・・・っ?」
翌朝、目を覚ましたヒル魔は間近にいたまもりの姿に驚き息を詰めた。
なんで昨日は別に寝たはずのまもりが隣に、と思って、すぐに真夜中の一時を思い出す。
同時に見た悪夢も。彼女の枕にした右腕が少ししびれている。
それまもりがヒル魔から離れる夢。
追っていける物理的な距離ではなく、永遠の黄泉路に足を踏み入れ、追う事さえできない悪夢。
どんな手を使っても、声を限りに叫んでも、彼女を失う事を止められなかった。
自分がこんなにも深く想う相手を得た事に喜ぶ反面、知ってしまった喪失への強い恐怖。
それが現実になりかけた去年の夏、あの時にヒル魔は絶望の一端を見た。
以来、時折あの悪夢を見る。
けれどいつもそんな悪夢を振り払うのは、まもりの声であり体温だった。
『大丈夫』
思わず抱き寄せて確かめた暖かさが離しがたくて抱きしめたまま眠ったのだった、と思い出した己の行動に気まずさを覚える。けれどそれ以上に満たされたような感覚に自然と口角が上がった。
おもむろに柔らかい茶髪を梳く。昨夜、まもりが彼にそうしたように。
するとまもりの顔が眠りながらも嬉しそうに綻んだ。
「・・・」
ヒル魔は彼女を起こさないようにそっと腕を引き抜くと、いつものようにランニングに行くべく身支度を調えて外に出た。

風を切って朝日を横目に眺めながら冴え冴えとした空気に満ちる街中を駆け抜けていく。
しびれがまだ残っているような感覚の右腕に無意識に触れながら、ヒル魔は僥倖に巡り会うという意味を今更のように噛みしめた。


***
話としてはヒルまも一家『愛おしきトランキライザー』の過去編といったところでしょうか。同棲するあたりから弱いところを見せていくようになればいいんじゃないかな、と。ウチのヒル魔さん、隙あらばまもりちゃんを抱えたがる傾向がありそうな気がします。狐にしても軍人にしても何にしても。バカップルだ・・・!
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