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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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恋蝉

(ヒルまも)

+ + + + + + + + + +
蝉の鳴く声を聞いて、ああ夏だな、と思う。
去年の夏休みは、この声を耳にしなかった。その間ずっとアメリカにいたから。
今は違う。大学への進学を決めて、毎日図書館だったり隣の男が住むホテルで勉強したりしている。
今日は登校日。示し合わせたわけではないのだが、まもりが朝改札を出るとそこにヒル魔がいた。
そして特に別に行く必要もないので、二人並んで歩いている。
「ヒル魔くん、勉強しなくていいの?」
「ア? テメェ誰に向かって口きいてんだ」
この真夏の日差しの下であっても黒ずくめの服ばかり着たがる、その神経からしておかしい男である。
今更か、と思っても腹立たしい。
「んもう! ヒル魔くんがいくら頭良くったって勉強しなきゃ駄目でしょ!」
「テメェや糞ハゲみてぇに山程参考書解けばいいってもんでもねぇだろうが」
要はやり方だ、と軽く言うヒル魔に今までテストで勝てた試しがないまもりはむっと眉を寄せた。
「・・・もう!」
「ケケケ」
全く神様は不公平だわ、と内心文句を言いながらまもりはにやにやと笑うヒル魔を見上げる。
彼は彼なりに欲しくても手に入らなかった物も人並みにはあるのだろうけれど、傍目にはそう見せないから余計に腹立たしい。
何もかも自分だけ負けているみたいで。
・・・自分だけ余計に彼の事が好きみたいで。
これでは、改札前で待っていたヒル魔を見たときに嬉しかった気持ちも素直に口に出せないではないか。
「ねえ」
「ア?」
「手、繋いで」
ぱ、と手を出す。ヒル魔はピン、と片眉を上げた。
「ホー? いつもなら『人前でそんな恥ずかしい事は出来ません』とか言うくせにナァ?」
「いっ、いいでしょ、たまには!」
まもりはしどろもどろになりながらも手を伸ばした。
いつもなら容易く捕らえられるその手が、目の前から不意に消える。
「え?」
「ヤダネ」
「なっ」
べ、と舌を出したヒル魔にまもりはかっと頬を赤くする。
「なんでよ!」
「こう暑くちゃ互いの為になんねぇだろ」
「えー!? 何よ、それ!」
「俺はこんな糞暑い中で手ェなんて繋げねぇよ」
「真夏だって黒い服ばっかり着るくせにー!」
「関係ねぇよ」
むくれるまもりに構わず、ヒル魔はさっさと行ってしまう。
まもりは不意に滲みそうになった視界を汗を拭く事で誤魔化しながら、その後を追った。


部活は引退して、部室へもそう容易く足を向けられなくなってしまった。
けれど図書館からは彼らの活躍を見る事が出来る。
勉強の手を止めて立ち上がり、まもりは窓から下をのぞき込んでいた。
炎天下であまり激しい運動は推奨できないが、秋大会へのカウントダウンは既に始まっていて、もう一刻の猶予もない。その必死な様子に、後で冷たい飲み物でも差し入れようかしら、とまもりは思案する。
「糞風紀委員が覗きデスカ」
「っ!!」
ここが図書館だ、ということを思い出してかろうじて声は抑えたが、まもりはそのままの姿勢で飛び上がる程驚いた。振り返ればそこには相変わらずにやにやと笑うヒル魔の姿。
この男、足音がしないので本当に質が悪い。
気配も殺しているのか余計に驚かされる。
全く、派手な外見の割に行動は静かな男は質が悪い。
「覗きって! 窓から見てただけじゃない!」
辺りを憚って小声で怒るまもりにヒル魔はフン、と鼻を鳴らした。
「未練たらしく見てるんじゃねぇよ。テメェの領分はもうこっちだろ」
「・・・そう、だけど」
でも、たまにはいいじゃない? と振り返るまもりの左手をヒル魔が引いた。
窓から引きはがされ、荷物のある席まで連れ戻される。
朝には拒絶したはずのまもりの手を握って。
「いい加減子離れしろよ」
どれだけ時間が経ってると思ってるんだ、と言われ、まもりは眉を寄せる。
「してるわよ」
「どうだか」
ため息混じりに手を捕らえたまま、ヒル魔はまもりの横にどっかりと座る。
「早くその参考書終わらせろ。その後ウチに行くぞ」
「え?!」
「何か問題でも?」
「・・・ううん、別にないけど・・・」
歯切れ悪くまもりは言葉を濁す。
左手は相変わらず彼の手の中にあり、離して貰えそうにない。
片手では作業効率が悪いのだけれど。
「あの、手、離して?」
「ア? 片手で充分だろうが」
「いやいや、その、効率がね! ほら辞書引くのでもなんでも・・・」
それに周囲の視線が痛い、とまもりはちらりと視線を巡らせる。
夏休み中の図書館はそれなりに人もいて、ヒル魔がいるということで大概は逃げてしまっているが、ギャラリーは皆無ではない。そしてその面々は恐怖半分興味半分でまもりたちを見ているのだ。
「朝は手ェ繋ぎたがってたじゃねぇか」
「んもう! そうよ、朝の時はヒル魔くんも手を繋ぐのは互いのためにならないって言ったじゃない!」
「ケ、記憶力ねぇな姉崎」
ヒル魔はにやりと口角を上げた。
「俺は糞暑い中で手ェなんて繋げねぇって言っただろ。今はクーラーの効いた室内だしナァ?」
「~~~!」
「テメェがさっさとソレ解けばいいだけの話だ」
「っ!!」
それまでこの手は人質だ、とヒル魔がその甲に唇を落とす。
ガリ、と軽く歯を立てられてまもりは真っ赤になって肩を震わせた。
そして慌ててペンを取り、ノートを開いた。
ここでヒル魔と言い合っていても埒が明かない。
早く解いてこの場所から逃げ出す方が得策だ。
ヒル魔はまもりの左手を捕らえたままにやにやと笑い、机にだらしなく身体を預けている。
まもりはなるべくそちらを見ないようにして、散漫になる気持ちを無理矢理集中させ、参考書と格闘を開始した。


***
彼女が勉強で忙しくて構ってくれないし暑いからと言って不機嫌なのが気に入らないからちょっとイジワルしたくなったヒル魔さんでした。・・・年相応?
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