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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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Placebo(下)



+ + + + + + + + + +
ヒル魔は、甘い物が苦手だと言いながらもまもりが作ったハチミツレモンもドリンクも普通に口にしていた。
どれもかなり甘いだろうに。
必要だから、という一言であっさりと摂取していたけれど、あれも彼の中で特別な行為なのだとしたら。
まもりは彼が口にするカップにちろりと視線を向ける。
信頼を裏切ってしまったのか、と罪悪感がむくりと頭をもたげる。
もし彼に悪い副作用などが出たら、まもりのことも警戒して用意する物を口にしてくれなくなるかもしれない。
そしてまもりと二人でこうやって作業することも、まもりの能力を最大限に利用することもなくなるのだろうか。
そうなればかれのからかいの言葉に苛立つことも、腹立たしくなることもなくなるのだろうか。
―――それはそれで、随分と、寂しい、な。

「糞マネ」
「っはい?!」
気づけばヒル魔が立ち上がり、まもりのすぐ隣に立っている。
「どうし、たの?」
あまりの近さに、まもりの声が強ばる。
「そりゃこっちの台詞だ。ぼけーっとしやがって」
ヒル魔の訝しげな声に、まもりは手にしていた洗濯物を見た。
折しもそれはヒル魔のユニフォーム。
間の悪さにまもりは眉を顰めた。
再びちらりと向けた視線の先、コーヒーのカップはもう空になっただろうか。

まもりは内心呟く。
ほら、やっぱり効かないわ鈴音ちゃん。
ヒル魔くんだから悪い影響も出ないのかも知れないけど、セナだったらお腹壊しちゃうかも。
だから、あの薬は偽物なのよ。

少し。
ほんの少し、残念なような気になったまもりの肩に、手が掛かった。
「言いたいことがあるならさっさと言え」
「そんなの、ないわ」
「ンな訳ねぇだろうが」
ヒル魔がぴん、と片眉を上げる。そしてにたりと口角を上げた。
「薬まで使っておいて、なァ?」
「?!」
びく、とまもりは震えた。
気づかれたのかと驚愕し見開かれるまもりの青い瞳を、顎を捕らえてのぞき込み更に追い打ちを掛ける。
「そんなに言わせたいのか? 姉崎」
「・・・っ」
滅多に呼ばない名を口にして間近で笑う彼に、まもりはひくりと喉を鳴らす。
「だが、物事はギブアンドテイクが基本だからタダで言う訳にはいかねぇなァ」
怜悧な視線が告げる。
そちらが言うのならこちらも応じてやろう、と。
まもりは肩に、顎に触れる手の熱さに瞬く。
注意深く観察すれば、普段とは僅かに違う熱が滲んでいるようにも見える。
薬が効いているのだろうか。
こうやって表面上は余裕があるフリをして、内面は全く余裕なんてなかったりするのだろうか。
薬が効いて、こんな風に見ているのだろうか。
「あ・・・」
じわり、とまもりの胸裏に滲むのは信用されていて嬉しい、なんていう言葉に隠した恋情。
今、言ったら。
彼も言ってくれるのだろうか。
ギブアンドテイクなんて言うくらいだ、言ってくれる、だろう。
「わ、たし・・・」
まもりの唇が幽かにわなないた。



翌日の放課後。
インラインスケートで軽やかにやって来た鈴音に、まもりは小瓶を差し出した。
「鈴音ちゃん、これ」
「やー、どうだった? まも姐」
瞳を輝かせてにじり寄る鈴音にまもりは幽かに頬を染める。
「・・・とてもよく効くから、セナにも試してみると良いわよ」
鈴音はそのまもりの表情よりも、後半部分に驚き飛び上がる。
「っ?! ヤー、セセセセナ、な、んかに・・・!!」
「照れない照れない」
「ヤー!!」
真っ赤になって照れる鈴音に笑うまもり。
「オイ、糞チビ」
その様子を遠目に見ていたヒル魔はグラウンドに向かおうとしていたセナを捕まえた。
「なんですか?」
きょとんと見上げてくるセナににやりと口角を上げる。
「今日の休憩時間の後買い出し行ってこい」
「え?」
買い出しに行くことに不満はないが、その時間指定がよく判らない。
休憩時間中に行けば練習時間を削らなくてもいいのに。
「糞チアと一緒にな」
にやにやと笑う彼の意図が読めないが、その笑みがいかにも悪巧みという種類のものではなく。
アメフトをしているときに見せる楽しげなそれに見えたので。
「・・・わかりました」
セナは疑問符を浮かべながらも頷いて練習に向かう。
それを見送ってヒル魔は声を上げた。
「おい、糞マネ!」
「? 何、ヒル魔くん?」
「今日のメニューはこれだ」
「はーい。ラダーは?」
小走りに近づいてくるまもりと部室に入り、二人で今日の練習メニューの打ち合わせをする。
そうして業務的な会話をして、不意に。
「姉崎」
「っ」
名を呼び、ぱっと見上げてくる視線にヒル魔はにやりと笑ってやる。
「悪魔に惚れ薬は効かねぇぞ」
「?!」
一瞬で色々なことが脳裏を過ぎったまもりに、更に笑みを深めて彼は続ける。
「ンな薬で作られた言葉だと思われるのは心外だ」
「え・・・」
ぐい、とヒル魔がまもりを抱き寄せ、その唇を塞ぐ。
「・・・じゃ、昨日・・・なんで・・・」
唇の合間から細く零れる声に喉の奥で笑いながら応じる。
「プラセボ効果だろ」
その言葉にまもりはよく判らない、という表情をしたが。
あの告白が薬などによるものではなく、真実なのだということだけを理解して。
そうして笑みを浮かべ、再び降りてきた唇にそっと瞳を閉じた。


***
Placeboはラテン語で、「私は喜ばせる」という意味。偽薬という以外にも広い意味があるそうで。
薬が仕込まれたことに気づいたヒル魔さんはまもりちゃんに鎌掛けただけでした。
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