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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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トッドスツール・黒(下)



+ + + + + + + + + +
モデルと言っても石像のように微動だにせずにいるのは無理だ。
そして退屈にもなる。
もうすぐテストも近いので、椿はテスト勉強がてら化学の教科書片手に座っていた。
「・・・っていうわけで、この化学式が成り立つんだよ」
苦手な化学を判りやすく教えて貰い、椿は大きく頷く。
「ああそうなんか! 相変わらずあんさんの説明は判りやすいわ」
「動くな」
途端に飛んでくる声に椿は妖介と目を合わせ、軽く肩をすくめる。
いたく真剣にアヤは描いているが、それはやはり小学生の落書きレベルだろう。
見せては貰えないけど、それくらいは想像できる。
「・・・できた!」
と、護の明るい声。椿は瞬く。
「え、もう?」
「うん。ほら」
くる、と紙面を向けられ、椿は瞳を見開いた。
「!」
鉛筆一本で描いていたはずだが、一瞬色が付いているのでは、と思う程に緻密な絵がそこにあった。
「・・・ホントに上手なんやなあ・・・すごいわ」
「ありがとう」
にこにこと笑う護はスケッチブックから躊躇いなくそれを切り離す。
「はい、あげる」
「え!? くれるん?!」
「うん。どうぞ」
「わー・・・これ自慢になるわー。えらい嬉しい!」
ぱっと顔をほころばせた椿に護も笑みを深める。
「・・・だから動くな」
「あ、すまん」
不機嫌そうなアヤの声に椿は謝るが、タイミング悪く階下から夕飯に呼ぶまもりの声が響いたのだった。



夕食後、課題はそれなりに完成したとアヤが言い張るので、それに付き合うつもりだった椿は徹夜で起きているはめにはならずに済むようだと安堵に嘆息した。そんな椿に、まもりは優しく風呂を勧める。
「ゆっくりしてね」
「ありがとうございます」
既に何度か厄介になってるので椿もこの家では気安い。
ゆっくり風呂を終え、着替えを借り、今夜の寝床となるアヤの部屋に向かう。
その途中の階段。
「・・・!」
びく、と椿は身体を揺らす。
その視線の先に立っているのは、護。
夜に同化してしまったかのように、静かに立っていたから咄嗟に判らなかった。
「あ・・・ああ、護くんか。どないしたん?」
「うん、ちょっと」
ごくありふれたパジャマに身を包んだ彼は、気を取り直して階段を上ってくる椿に、にこりと笑みを浮かべる。
「眠れないん?」
時刻はさほど遅くないが、アヤや妖介とは違って彼はごく普通の睡眠時間を欲するのだと聞いた。
そうであればもう眠っていないと明日起きられないのでは、と思ったのだ。
だが、椿の問いかけに答えず、護は椿に近づく。
足音がしない。
それは以前アヤたちに聞いていたからおかしな事ではないけれど。
けれど。
その気配がどこか怖いような気がして、僅かに椿は身動ぐ。
「何もしないよ」
静かな声が、よりそれを助長する。
「椿さんに手を出したら、姉ちゃん達に殺されちゃうし」
「そ、んなこと・・・」
完全に雰囲気に呑まれた椿は、言葉を詰まらせる。
護はそんな椿にくすくすと笑いながら、つと手を伸ばした。
「っ」
「無防備だよ」
す、とパジャマの胸元、暑いからと開けていたボタンを閉じられる。
その瞬間、椿は僅かに触れた彼の指先に総毛立った。
「・・・!?」
ば、とそこを押さえる椿に、護はにっこりと笑う。
天使のように柔らかく、優しく、そして―――悪魔じみた昏さで。
「一つ教えてあげる。色の綺麗な毒キノコってそう数はないんだってさ」
「・・・え?」
笑みを掃いた唇が吐き出した言葉を噛み砕く前に、護は踵を返した。
「おやすみなさい」
くすくすと幽かに笑み声を纏いながら、護は自室へと姿を消す。
呆然とそれを見ていた椿の肩に、手が掛かる。
「っ!!」
「何してる」
勢いよく振り返れば、不審そうな顔をしたアヤが立っていた。
どうやら戻りが遅いと心配したようだ。
「何かあったか?」
椿はごくりと喉を鳴らしたが、沈黙の後にようやく一言を絞り出した。
「・・・いや」
あからさまにおかしな様子にアヤの片眉が僅かに動いたが、椿はそれに気づかないふりで口を開く。
「なあ、課題終わったん?」
「ええ」
アヤは平然と頷くが、本当かどうか怪しいところだ。
「ほんに? 見して」
「嫌」
「モデルになったんは私なんやし、見してくれたってええやん」
「嫌」
「えー」
軽口を叩きながら二人はアヤの部屋に向かう。
扉をくぐる、その直前。
護の指の感触を思い出して椿は肩越しに廊下を振り返る。
そこにはもう彼はおらず、夜闇が廊下に蟠るだけ。

『派手に装って危険を知らせる親切なんて、僕は持ち合わせていないんだよ』

その唇から覗いた牙に。
笑みの形に細められながらも冷徹なその眸に。
何より、あの指先に。

悪魔、が。

「・・・ほんに、似てるわ」
ひそりと呟き、椿はぱたりと扉を閉じた。


***
色の綺麗な毒キノコはそう数がない、という一文を読んでそりゃあ護の事でしょう、といきなり思い立ちました。
段々と・・・段々と黒さを出し始めた護ですよ・・・ああ楽しいwあ、ヒル魔さん出し忘れた。
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