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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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メイド・イン・スウィート(5)/完結



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かちゃかちゃという音を遠くに聞き、ヒル魔は熱で涙の膜が張った眸を開いた。
「あ、起きました? 丁度夕飯ですよ」
食べられます? と差し出されたのは土鍋。
蓋を開くと、ふわりと出汁と三つ葉の良い香りがする、・・・のだろう。
今のヒル魔は嗅覚も味覚もほぼ麻痺していて、食欲がない。
「あんまり食べられないかもしれませんけど、少しは食べないと・・・お薬飲めませんからね」
まもりはクッションを重ね、ヒル魔の上体を起こさせ上着を肩に掛ける。
茶碗によそわれた雑炊にレンゲをつけ、彼に手渡そうとするが。
「てめぇがくわせろ」
「は?」
「じゃなきゃ、くわない」
ぷい、と顔を背けるその幼さに、まもりははぁ、と気の抜けた返事をした。
ホントにこの人、蛭魔妖一かしら。
もしかして蛭魔妖一のフリした幼児だったりしないかしら。
内心で何度葛藤しても、目の前の彼はヒル魔にしか見えない。
そうして、食べさせてくれなきゃ食べない、なんて甘えていて。
・・・普段なら巫山戯ないで、と言うところだが、相手は病人。
まもりは嘆息したいのをぐっと堪え、手にした茶碗の中身を零さないように気遣いつつベッドへと座った。
「こっち、向いて下さい」
「ん」
レンゲに一口分をすくい取り、ふーっと息を吹きかけて冷ます。
その一連をじーっと見られて居心地が悪い。
けれど、日頃のにやにやと質の悪い感じではない。
あるのはただ、期待するような視線だけ。
「はい」
差し出されたそれを大人しく口にする。
もぐもぐと口を動かし、嚥下する。
「どうですか?」
「味しねぇ」
「やっぱり」
でも食べないと、と同じようにレンゲを差し出せばヒル魔は大人しく口を開いた。
ひな鳥に親鳥がエサあげるのと一緒ですね、なんて考えながら動作を繰り返す。
ゆっくりではあったが、ヒル魔は結局四分の三くらいを平らげた。上々だ。
「じゃあ、お薬を飲みましょう」
白湯と共に渡された薬を見てもヒル魔は動かない。
「ヤダ」
「・・・ヤダ、じゃないでしょう。飲まないと熱下がりませんよ?」
「いい」
「よくないでしょう!」
「おれはかぜなんてひいてない」
ここに来て何を言うか、とまもりは呆れかえる。
いくら熱があって幼児返りしてるとはいえ、これは聞き届けられない。
「お薬飲まないなら、お鼻摘んで飲ませますよ?」
「ヤダ」
「・・・じゃあ仕方ないですね・・・」
まもりは嘆息する。気は進まないが、仕方ない。
ごそごそと何かを取り出すまもりを見ていたヒル魔は、まもりの手にある薬にぎょっと目を見開いた。
「な・・・」
「座薬です。普通のお薬を飲まないのなら仕方ないですよねえ?」
にーっこりと殊更意地悪く笑うまもりに、ヒル魔は唸る。
「普通のを普通にお薬を飲んで下さるならこれは使いませんよ?」
ね? と優しく諭す声に、ヒル魔は渋々飲み薬に手を出した。
白湯で流し込み、渋い顔になる。
「よく飲めました」
ちゅ、と額に触れるのは、まもりの唇。
「ご褒美です」
「・・・くちがいい」
「ダメです。さっき辛い思いしたでしょ?」
「・・・うー」
不満そうに唸るヒル魔に、まもりは柔らかく苦笑してその頭を撫でた。
「治ったらちゃんとキスしましょうね」
それに素直にヒル魔は頷いた。


そしてまもり自身も夕食を終え、片づけを済ませ、入浴して、と過ごすうちにあっという間に就寝時間となった。
いつもならヒル魔の隣で眠るのだが、風邪を引いているのだから別室で寝た方がいいだろう、とまもりは寝室に予備の毛布を取りに行く。
ヒル魔は眠っていた。ふうふうと苦しそうな彼の額にあるタオルを確認し、もう一度まもりが眠る前に変えた方がよさそうだと判断する。
毛布を持っていったら・・・と思っていたら、まもりはまたしても抱き寄せられた。
強引に背中から布団に引きずり込まれる。
「ちょ・・・っ」
「どこ、いく」
「どこって・・・ここで眠るわけにはいかないでしょ?」
「なんで」
「なんで、って」
背後から抱きしめられる格好に、まもりは首を捩る。
「いくな」
視界に入るヒル魔はどこか心細そうにさえ見えて、まもりはぐっと詰まる。
これで二人して風邪でも引いたら誰が二人分の面倒を見るのだ、と思う。
「風邪移るでしょう」
「ヤダ」
「ヤダ、じゃなくて」
聞き分けのないヒル魔を宥めようと身体を捩る。向かい合う格好になって、ヒル魔はまもりの身体を一層がっちりと抱きしめた。
心音を聞こうとでも言うのか、胸にぴったりと耳を付けて。
「ちょっと・・・もう」
更には足まで絡んで来て、これはもう絶対逃げられない。
まもりは深く嘆息した。
これは正気になったら散々文句を言わねばならないだろう。
唯一自由になる左手で、はだけた布団を強引に引き上げる。
二人をすっぽりと覆う布団にくるまれ、まもりは諦めて瞼を閉じる。
もし子供が産めたら母親ってこんな感じなのかなあ、という感想を抱きながら。


翌日は危惧していたようにまもりに風邪が移る事態もなく、ヒル魔の熱も徐々に下がってきていた。
雑炊を手に、寝室を訪れる。
ヒル魔は自ら身体を起こした。
「どう?」
「昨日よりマシだな」
自分でレンゲと茶碗を持って食事する彼は、もういつも通りに見える。
明日は休まなくてよさそうだ。
昨日とのギャップが大きすぎて、まもりは口を開いた。
「ねえ、妖一は昨日のこと覚えてるの?」
「ア? 昨日、なんかあったのか?」
不思議そうな声で問われ、まもりは小首を傾げる。
「わざとじゃなかったの?」
「何が?」
疑問を疑問で返され、まもりはならいいんだけど、と言葉を濁した。
記憶がないというのなら、あれは彼の本質の言葉なのだろう。
べったりと貼り付いて、甘えたがる彼。
普段からべたべたと抱きついてきていたけれど、ホントはもっと抱きついてたい、ってことかしら。
本当、自分なんかに、物好きな。
思案していたまもりにヒル魔が声を掛ける。
「おい、終わったぞ。薬」
「あ、はい」
薬を手渡すと、ヒル魔はさっさとそれを嚥下し、ベッドに潜り込んだ。
素直なその様子に、昨日の業務中の頑なな様子はない。
思わず笑みを浮かべる。
「・・・昨日は随分意地を張ってたのに、今日は素直ですね」
くすくすと笑いながら食器を片づけるまもりの背に。
「何しろ治らないと糞奥様がキスしてくれないものデスカラネェ」
「?!」
掛けられた楽しげな声に、まもりは焦って手の中の食器を落としてしまう。
割れはしなかったが、派手な音を立てて落ちたそれに、ヒル魔はキスじゃすませねぇけどな、と口角をつり上げた。

***
風邪を引いて駄々をこねるヒル魔さんを看病するまもりちゃんでした。絵茶のギャラリーにある鶉様の美麗イラストを見て「たまらん!!(*´Д`*) 」となった鳥が一気に書き上げたものです。他のどのシリーズと比べてもあからさまに甘えて強請ると言ったらやっぱり軍人だよねー、ということでこの話となりました。実際書いていたら前半部分も楽しくて、本題の風邪看病に入るまでえっらい時間が掛かりました(笑)
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