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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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Placebo(上)

(ヒルまも)

 


+ + + + + + + + + +
とん、と置かれたそれにまもりは瞳を瞬かせた。
「鈴音ちゃん、これ何?」
「やー」
にま、と笑う鈴音は目の前に置いた小瓶を突く。
その中には綺麗な水色の液体が入っていた。
香水だろうか。
小首を傾げるまもりに鈴音は勿体ぶって口を開く。
「なーんと! これは、『惚れ薬』なのです!」
「え?!」
「友達がこっそり手に入れて使ってみたら効果抜群だからってくれたんだ。一回一滴だからほとんど残っちゃって、勿体ないからって」
「・・・へぇ」
まもりは小瓶をしげしげと眺めた。綺麗な細工の小瓶はそれだけで充分かわいい。
「飲み物とか食べ物に一滴混ぜて相手に服用するだけでいいんだって!」
いかにもな乙女心を擽る外見と、綺麗な水色の液体。
満面の笑みを浮かべる鈴音には悪いが、これは絶対偽物だろう。
真偽のほどは使えばすぐ知れるはず。
「鈴音ちゃんがこれをもらった、ってことは、もう狙った相手に使ったの?」
まもりとて愚鈍ではない。彼女の想い人がセナであることは百も承知だ。
「え、・・・あの・・・」
鈴音はあからさまに戸惑った声を上げた。
ということはまもりを実験台にしたいということだろうか。
正確にはこのところずっと関係を疑われてるヒル魔を。
「きょ、興味はあるんだけど・・・やっぱり・・・その・・・いざとなったら使えなくて・・・」
「そっか」
「妖兄は好きになった相手に『好きだ』とか『惚れてる』とか言いそうにないし、薬が効いたら言うかな、って」
まもりは思案する。
何も知らないセナが鈴音にこれを飲まされてなにか副作用が出ては二人とも可哀想だ。
だがもしヒル魔が仮にこれを服用し、調子が悪くなってもまもり自身は痛くもかゆくもない。
むしろ日頃の扱いの悪さに対するささやかな仕返しと言ってもいいだろう。
付き合うという問題の前に、二人は好きとか嫌いとかではなく天敵同士なのだから。
「・・・判ったわ。じゃあまず私が使ってみるわね」
「ホント?!」
ぱっと鈴音の顔が輝く。でも、とまもりは続けた。
「私とヒル魔くんはただのキャプテンとマネージャーってだけで、何でもないんだからね!」
そう釘を刺すまもりに、鈴音は神妙な顔をして頷いた。
・・・もっとも、その髪の毛がぴんとアンテナの如く立っていたので内心はモロ判りだったのだけれど。



「おい、コーヒー」
「はーい」
いつもの通り残って作業しているヒル魔に指示され、まもりはいつもと同じように立ち上がる。
いつもの通りカップを用意して、サーバーに用意しておいたコーヒーを注ぐ。
そうして、ポケットからあの小瓶を取り出して一滴垂らした。
匂いを嗅いでも何も感じない。味はどうだか知らないが、極甘でもないかぎりは微量だし、気づかないだろう。
平然とカップを運ぶと、ヒル魔の手元にカップを下ろす。
「はい、どうぞ」
「おー」
それに応じてカップを持ち上げ、躊躇いもなく口を付ける。
その様子を見ながら、まもりはふと気づいた。
彼はまもりの用意した物は躊躇いなくいつも口にしていた。
何に対してもそうなのかと思えば、例えば下駄箱に入っていたり、机に入っていたりする物や、時折物好きな他校の女生徒から手渡される物などは一瞥もせず何でもゴミ箱に投げ入れていた。
あまりの成しように怒ったこともあったが、どこの誰とも知れない連中から寄越された物を口にすることは出来ない、と言っていた。
ということはそれなりにまもりは信用されているのだろう。
「・・・オイ、テメェ何糞気色悪い顔してやがる」
「え?」
「さっさと作業しろ」
考え事をしていたらそれで手が止まっていたらしい。
慌ててまもりは途中になっていた作業を再開した。
計算などではなく、洗濯物を畳んでいくだけの単純作業だったので、自然と頭の中は思考に沈んでいく。

<続>
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