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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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トッドスツール・黒(上)

(ヒルまも一家)
※『足音かくれんぼ』の後くらいです

 


+ + + + + + + + + +
アヤは絵がものすごく苦手だ。
割とそういった関係が得意な椿と美術はそこそこの成績の妖介はそつなく課題提出を終えた。
けれどアヤの方がどうしても間に合わないということで、泊まりがけで椿が手伝うためにヒル魔家にやってきたのだ。もっとも、手伝うと言っても椿がアヤのデッサンのモデルになるだけなのだけれど。
彼女達を出迎えたのは、食事の用意で手が空かない母の代わりの護だった。
笑顔で出迎えた彼に挨拶し、三人は連れ立って二階へと上がる。
アヤの部屋に案内された椿は着替えるアヤを見つめ、先ほどの少年の姿を反芻する。
蛭魔護という少年は、あの派手派手しい父親や美しい母、そして存在そのものが独特な姉兄と比較してみると。
「やっぱり随分と地味やな」
「え?」
「下の弟くん」
「ああ」
彼もそれなりに整った顔をしているのだけれど、瞳も髪も黒い。
家族の誰もその色合いではないので、逆に奇妙な気にさえなる。
室内着に着替えてやって来た妖介に、椿は尋ねた。
「あんさんらの弟なら髪染めるとかせんの?」
「だって中学生だよ?」
「そないなこと言ったって、あのコーチは中学から金髪やって言ってたやん」
実際威嚇のため、なんて理由で金髪にさせられた姉兄がいるのだし、家族が皆金髪なり茶髪なりであれば本人もその色合いになりたいとは言わないのだろうか、と椿は単純に疑問だったのだ。
「一度聞いたことがある」
課題の絵を描くためのスケッチブックを嫌そうに出しながら、アヤが口を開いた。
「似合わないからいいと言っていた」
「あ、そうなんだ。護は茶髪なら似合いそうだけどね」
椿は茶髪の彼を想像してみる。先ほど顔を合わせた少年にはあの黒い色が似合っていた。
「下手に染めたりせん方が似合ってる気がするけど」
正直に言えば、アヤも頷く。
と、そこに響くノックの音。
「どーぞ」
代表して妖介が声をかければ、コーヒーを淹れてきたらしい護が顔を出す。
「夕飯までもう少しかかるから、よければこれ食べて、って母さんから」
「わ、美味しそう」
コーヒーと共に出されたのは皿に盛られたクッキー。チョコやナッツの入ったアメリカンクッキーだ。
早速椿と妖介の手が伸びる。
アヤは嫌そうな顔をしたが何も言わずカップを手に取る。
部活後でそれなりに二人が空腹なのは理解できるので、自らはブラックコーヒーの匂いで誤魔化す。
「美味しい!」
思わず声を上げる椿に、護が嬉しそうに笑う。
「そう、よかった。それ、母さんが焼いたんだよ」
「へえー! 相変わらず料理上手なんやなあ」
感心する椿にごゆっくり、と言い置いて護は退室する。
「はー・・・」
椿は嘆息してその後ろ姿を見送り、室内に残った彼の姉兄に視線を向ける。
「何?」
「どうしたの?」
「・・・いや、ほんに似てない弟やなあ、と改めて思った」
色彩は勿論のこと、姉ほどに素っ気ないわけでも、兄ほどに親しげにしてくるわけでもない。
実に静かだ。そして常識的。いや姉兄が常識外というわけではないが、些か一般とは規格外だと思われる。
顔つきもアヤのような美人顔でもないし、妖介のようにキツイ顔立ちでもない。
年齢もあるだろうが、柔和に優しい外見なのだ。
「俺たちにはあんまり似てないかもしれないけど・・・」
アヤと妖介は顔を見合わせる。
「でも、父さんとは似てると思うよ」
「はい?!」
「ああ、そっくりだな」
「ね」
「お、お母さんじゃなしに?」
「母さんに似てるのは顔だけだね」
「ええ」
「そうなん?!」
どうにもあの悪魔コーチと護とが結びつかず、椿はしきりに首を傾げる。
あの落ち着いた佇まい、ごく一般的な少年と呼ぶにふさわしい雰囲気。
そのどこがあの賑々しいコーチと一緒なのだろうか、と思う。
「ま、普通の人はそう思わないのかもね」
「それも仕方ない」
うんうんと頷き合う姉兄の発言に疑問は増すばかりだったけれど。
「・・・それより、アヤの課題はええの?」
「あ!」
「・・・」
嫌そうにスケッチブックを開いたアヤに、椿は苦笑するしかない。
と、そこに再びノックの音。
スケッチブック片手の護がひょこりと顔を出した。
「ねえ、僕も一緒に描いていい?」
「ええ!?」
「いいんじゃない? 椿、護はすんごい絵が得意だから描いて貰うと良いよ」
驚く椿に構わずあっさりと応じる妖介は、黙ったままのアヤにちらりと視線を向ける。
「言っておくけど、それを出したら偽物だとすぐばれるからね」
なにしろとんでもなく上手すぎるのだ。アヤは忌々しげに舌打ちする。
「・・・チッ」
「舌打ちしちゃだめでしょ! 行儀の悪い」
「煩い」
わあわあと騒ぐ姉兄を余所に、護はにこにこと笑みを浮かべたまま椿の正面に腰を下ろす。
「あの」
「じゃ、お願いします」
ぺこり、と頭を下げられ、椿は断るタイミングを逸して結局二人のモデルになるはめになった。

<続>
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