旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
それは麗らかな春の一日だった。
雪光が縁側の襖を開き、思案する。
手を翳すと、庭の景色が変わった。
普段、屋敷には干渉するが生態系を考えてか庭には滅多に手出ししない彼にしては珍しい。
ヒル魔がその様子を見てピンと片眉を上げた。
「ホー?」
「いつものもいいんですが、せっかくですしね」
白い砂利が波のように押し寄せ、庭を埋める。
大きな岩がいくつか点在する、見事な石庭が出現していく。
ざあっと音を立てて変化するその様子を見ていたヒル魔は、不意に頭を振った。
その髪が長く伸びる。狐の耳が頭上に現れ天を突き、顔に隈取りが表れる。
その変化を見て、雪光は首を傾げた。
何故わざわざ? と。
ヒル魔はにやりと笑う。
「せっかくだからなァ。この方が『アイツら』も判りやすいだろ」
それに雪光は笑みを浮かべる。
確かに、見分けを付けるためには一番良いだろうし、『来客』もすぐ理解してくれるだろう。
そして来客をもてなすためのお茶を淹れるべく、台所へ向かった。
軍服を着たヒル魔は、いつものように散歩と称した見回りをしていた。
ぶらぶらと歩き、ふと見慣れない色彩に目を留めた。
小さく、黄色の丸いもの。
近寄ってみると、ふかふかのひよこのぬいぐるみだった。
一体何でこんなものが、と首を傾げる。
ここは軍人だけが集う官舎、子供がいるはずがない。
何かの罠なのだろうか、と思いつつあまりに間抜けなそのフォルムに近寄る。
途端に、立っていた床が抜けた。
「!?」
いつものように山のような本に囲まれ、黙々と作業する。
さきほどまもりが文句を言いながらもコーヒーを持ってきてくれた。
どうにか一角だけ本の積まれていない箇所に置いたそれに手を伸ばす。
だが、手に触れたのは、硬質なカップの持ち手ではない。
ふかふかとした、あたたかいモノだ。
「・・・?」
視線を向けると、そこには黄色いひよこのぬいぐるみ。
何故、と知覚すると同時に。
「!!」
ヒル魔の身体は突然現れた黒い穴に引き込まれてしまった。
がらりと勢いよく開いた扉。
いつも通りの部室、いつも通りの時刻。
外では相変わらず午前二時からの朝練で栗田と小結がマシンに向かっていた。
いつも通りの黒の上下に着替え、パソコンを起動させる。
そして椅子に座ろうとして。
視界に入った何か黄色い物にヒル魔は視線を向けた。
「ア?」
黄色いひよこのぬいぐるみがカジノテーブルの上にちょこんと置いてあった。
先ほどまでは確かになかったハズのそれ。
何故だと思いつつ椅子に座ろうとしたが、いつの間にか椅子が失せ。
「!?」
ヒル魔はその代わりに現れた黒い穴の中に倒れ込んだ。
車の鍵と荷物を手にヒル魔は階下へと降りるため、エレベーターの呼び出しボタンを押した。
まもりは出掛けに何か忘れ物を思い出したらしい。
先に行っていて、と言っていたがすぐ来るだろう。練習には充分間に合う時刻だ。
ふと、視線を感じた気がして振り返る。
そこにはまもりの姿はなく、代わりに黄色いひよこのぬいぐるみが落ちていた。
子供の忘れ物だろう、とさして気にもしないでやって来たエレベーターに乗り込む。
が、その足が踏むべきエレベーターの床はなく。
「?!」
ヒル魔は一直線に黒い穴の中を落ちていった。
ヒル魔はまもりがまだ寝ている隣からそっと抜け出す。
走りに行くには少々起きる時間が遅かった。
早々に考えを切り替え、出勤のために身支度を調えることにする。
彼女は多分起きられないだろう。
靴を履き、今日の仕事の予定を考えながら鞄を手に扉を開けると。
そこには見慣れない光景が広がっていた。
「・・・?!」
黒い。そして、その中になにかぽつんと小さな黄色いもの。
それに気を取られた瞬間、その黒い穴がヒル魔の事を強引に吸い込んだ。
卒業式の前日。
もうこのセーラー服も、ヒル魔くんの学ランも着納めだね、なんてしんみりするまもりのことを、高校でも同じ事言うんだろ、とヒル魔はからかう。
まったく感慨に乏しいんだから、と文句を言って膨れるまもりにヒル魔は笑った。
過去を惜しむなんて彼の辞書にはない言葉だ。
過ぎたことを思い返して惜しむなんて意味のないことをするなら、惜しまないように努力するべきだろう、と。
まもりの玄関先で別れて、自宅の玄関を開くと。
上がり框に小さな黄色いぬいぐるみがあった。
「?」
まもりの忘れ物だろうか、などと考えるくらいファンシーな存在。
小首を傾げたヒル魔が玄関に足を踏み入れた途端。
足下に黒い穴が空き、真っ逆さまに落下した。
夜会を終え、外に出る。
まもりはもう眠っただろうか。それともまた寝ないで起きて待っているのだろうか。
思考を巡らせるヒル魔に、執事のセナが声を掛ける。
「ご主人様、ただいま車を呼んで参りますのでその場でお待ち下さい」
「ああ」
セナが小走りに去るのを眺める。
と、唐突に上から何かが落ちて来た。
「!?」
ぽす、と頭に落ちてきた柔らかい感触。
「何だ?!」
掴んでみれば、それは黄色いひよこのぬいぐるみで。
一体誰が、どうやって、と首を巡らせるが、この位置に真上からぬいぐるみを落とせるような場所はない。
投げるにしても今夜の会場からは結構隔たっている。
首を傾げてまじまじとぬいぐるみを見ていたら。
「?!」
唐突に頭上で開いた黒い穴に、強引に引き込まれた。
マシンガンを置き、上着を脱ぐ。
「お父さん、夕飯出来てるよ」
「おー」
年を追うごとに若い頃のまもりに似ていくあかりがひょこりと顔を出した。
彼女も今年で十六。こないだ泥門高校に入学した。
顔を出すその隙間から、僅かに聞こえる話し声。
同居してる長男一家の声だ。
まもりの声もそこに混ざり、暖かな賑やかさに溢れている。
上三人がそれぞれ社会に出ても、この家の中が静かになることは当面ないようだ。
着替えて階下に続く階段に向かう。
と。
廊下の真ん中に小さなひよこのぬいぐるみがちょこんとあった。
長男の子―――まあつまりはヒル魔の孫にあたるわけだが、その子が持つような玩具でもない。
一体なんだろうと思いつつ、無視してそれをまたぐ。
が。
「?!」
その瞬間、景色が変わる。
踏み出した足は板張りの廊下に同じように着地したが、階段がない。
目を見開くヒル魔の前に現れた人物に、更に目を丸くする。
「いらっしゃいませ。蛭魔妖一さんですね。僕は雪光と申します」
落ち着いた声、秀でた額、細い身体。
書生姿の雪光にヒル魔は眉を寄せた。
雪光本人にしては若すぎるし、子供にしては大きすぎる。
そして何より、『色』がおかしい。
あからさまに彼の知る雪光ではない。
不審そうに眸を眇めたヒル魔に、彼はゆったりと笑った。
<続>
雪光が縁側の襖を開き、思案する。
手を翳すと、庭の景色が変わった。
普段、屋敷には干渉するが生態系を考えてか庭には滅多に手出ししない彼にしては珍しい。
ヒル魔がその様子を見てピンと片眉を上げた。
「ホー?」
「いつものもいいんですが、せっかくですしね」
白い砂利が波のように押し寄せ、庭を埋める。
大きな岩がいくつか点在する、見事な石庭が出現していく。
ざあっと音を立てて変化するその様子を見ていたヒル魔は、不意に頭を振った。
その髪が長く伸びる。狐の耳が頭上に現れ天を突き、顔に隈取りが表れる。
その変化を見て、雪光は首を傾げた。
何故わざわざ? と。
ヒル魔はにやりと笑う。
「せっかくだからなァ。この方が『アイツら』も判りやすいだろ」
それに雪光は笑みを浮かべる。
確かに、見分けを付けるためには一番良いだろうし、『来客』もすぐ理解してくれるだろう。
そして来客をもてなすためのお茶を淹れるべく、台所へ向かった。
軍服を着たヒル魔は、いつものように散歩と称した見回りをしていた。
ぶらぶらと歩き、ふと見慣れない色彩に目を留めた。
小さく、黄色の丸いもの。
近寄ってみると、ふかふかのひよこのぬいぐるみだった。
一体何でこんなものが、と首を傾げる。
ここは軍人だけが集う官舎、子供がいるはずがない。
何かの罠なのだろうか、と思いつつあまりに間抜けなそのフォルムに近寄る。
途端に、立っていた床が抜けた。
「!?」
いつものように山のような本に囲まれ、黙々と作業する。
さきほどまもりが文句を言いながらもコーヒーを持ってきてくれた。
どうにか一角だけ本の積まれていない箇所に置いたそれに手を伸ばす。
だが、手に触れたのは、硬質なカップの持ち手ではない。
ふかふかとした、あたたかいモノだ。
「・・・?」
視線を向けると、そこには黄色いひよこのぬいぐるみ。
何故、と知覚すると同時に。
「!!」
ヒル魔の身体は突然現れた黒い穴に引き込まれてしまった。
がらりと勢いよく開いた扉。
いつも通りの部室、いつも通りの時刻。
外では相変わらず午前二時からの朝練で栗田と小結がマシンに向かっていた。
いつも通りの黒の上下に着替え、パソコンを起動させる。
そして椅子に座ろうとして。
視界に入った何か黄色い物にヒル魔は視線を向けた。
「ア?」
黄色いひよこのぬいぐるみがカジノテーブルの上にちょこんと置いてあった。
先ほどまでは確かになかったハズのそれ。
何故だと思いつつ椅子に座ろうとしたが、いつの間にか椅子が失せ。
「!?」
ヒル魔はその代わりに現れた黒い穴の中に倒れ込んだ。
車の鍵と荷物を手にヒル魔は階下へと降りるため、エレベーターの呼び出しボタンを押した。
まもりは出掛けに何か忘れ物を思い出したらしい。
先に行っていて、と言っていたがすぐ来るだろう。練習には充分間に合う時刻だ。
ふと、視線を感じた気がして振り返る。
そこにはまもりの姿はなく、代わりに黄色いひよこのぬいぐるみが落ちていた。
子供の忘れ物だろう、とさして気にもしないでやって来たエレベーターに乗り込む。
が、その足が踏むべきエレベーターの床はなく。
「?!」
ヒル魔は一直線に黒い穴の中を落ちていった。
ヒル魔はまもりがまだ寝ている隣からそっと抜け出す。
走りに行くには少々起きる時間が遅かった。
早々に考えを切り替え、出勤のために身支度を調えることにする。
彼女は多分起きられないだろう。
靴を履き、今日の仕事の予定を考えながら鞄を手に扉を開けると。
そこには見慣れない光景が広がっていた。
「・・・?!」
黒い。そして、その中になにかぽつんと小さな黄色いもの。
それに気を取られた瞬間、その黒い穴がヒル魔の事を強引に吸い込んだ。
卒業式の前日。
もうこのセーラー服も、ヒル魔くんの学ランも着納めだね、なんてしんみりするまもりのことを、高校でも同じ事言うんだろ、とヒル魔はからかう。
まったく感慨に乏しいんだから、と文句を言って膨れるまもりにヒル魔は笑った。
過去を惜しむなんて彼の辞書にはない言葉だ。
過ぎたことを思い返して惜しむなんて意味のないことをするなら、惜しまないように努力するべきだろう、と。
まもりの玄関先で別れて、自宅の玄関を開くと。
上がり框に小さな黄色いぬいぐるみがあった。
「?」
まもりの忘れ物だろうか、などと考えるくらいファンシーな存在。
小首を傾げたヒル魔が玄関に足を踏み入れた途端。
足下に黒い穴が空き、真っ逆さまに落下した。
夜会を終え、外に出る。
まもりはもう眠っただろうか。それともまた寝ないで起きて待っているのだろうか。
思考を巡らせるヒル魔に、執事のセナが声を掛ける。
「ご主人様、ただいま車を呼んで参りますのでその場でお待ち下さい」
「ああ」
セナが小走りに去るのを眺める。
と、唐突に上から何かが落ちて来た。
「!?」
ぽす、と頭に落ちてきた柔らかい感触。
「何だ?!」
掴んでみれば、それは黄色いひよこのぬいぐるみで。
一体誰が、どうやって、と首を巡らせるが、この位置に真上からぬいぐるみを落とせるような場所はない。
投げるにしても今夜の会場からは結構隔たっている。
首を傾げてまじまじとぬいぐるみを見ていたら。
「?!」
唐突に頭上で開いた黒い穴に、強引に引き込まれた。
マシンガンを置き、上着を脱ぐ。
「お父さん、夕飯出来てるよ」
「おー」
年を追うごとに若い頃のまもりに似ていくあかりがひょこりと顔を出した。
彼女も今年で十六。こないだ泥門高校に入学した。
顔を出すその隙間から、僅かに聞こえる話し声。
同居してる長男一家の声だ。
まもりの声もそこに混ざり、暖かな賑やかさに溢れている。
上三人がそれぞれ社会に出ても、この家の中が静かになることは当面ないようだ。
着替えて階下に続く階段に向かう。
と。
廊下の真ん中に小さなひよこのぬいぐるみがちょこんとあった。
長男の子―――まあつまりはヒル魔の孫にあたるわけだが、その子が持つような玩具でもない。
一体なんだろうと思いつつ、無視してそれをまたぐ。
が。
「?!」
その瞬間、景色が変わる。
踏み出した足は板張りの廊下に同じように着地したが、階段がない。
目を見開くヒル魔の前に現れた人物に、更に目を丸くする。
「いらっしゃいませ。蛭魔妖一さんですね。僕は雪光と申します」
落ち着いた声、秀でた額、細い身体。
書生姿の雪光にヒル魔は眉を寄せた。
雪光本人にしては若すぎるし、子供にしては大きすぎる。
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鳥(とり)
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性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
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閉鎖しました。
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