目の前の女に憐憫を覚えたのは初めてだった。
「・・・ッ」
精一杯の力で突き飛ばそうとしたらしい腕は、女の細腕と形容するにふさわしい。
抵抗しようと思っていたようだが、当然鍛えているこちらには微塵もダメージを喰らわせられない。
俺の右手は糞マネの頬に。左手は糞マネの右腕を掴んでいる。
「・・・なんでこんなことするの」
抗議の意味が籠もった視線が下から睨みつけてくる。
涙で滲んでいた声は明瞭ではなかったが、この女の言いそうなことなんてすぐ判る。
掴んでいる腕も手を添えている頬も、幽かな震えを帯びている。
言葉よりも明確な怯えに、俺はわざと意地悪く笑ってやった。
「無理矢理は趣味じゃねぇんだけどな」
「うそ」
口の中に広がるのは鉄の味。
今さっきまで俺の唇は、糞マネのそれに重ねられていた。
言葉も息も意識すら奪い取れればいいと思った、そう願ったキスで。
抵抗してでもしきれない中途半端さで舌に歯を立てられた。
「こんなんじゃ物足りねぇよ」
見せつけるように傷ついた舌をべろりと出してやる。外気に触れて、傷が痛みを思い出すが無視する。
わざとゆっくりと近づいて、糞マネを見つめると、こいつは視線を逸らさず顎を引いて抵抗してきた。
「嫌よ」
「聞こえねぇな」
糞マネ、それじゃ抵抗にもなりゃしねぇ。その気になって暴れ回れば、俺だって戦意喪失するかもしれねぇ。
可能性が0%じゃなきゃ試す価値はある。それくらい泥門デビルバッツならやる。
額を触れさせ、今にも泣きそうな顔をしている糞マネの顔を覗き込む。
触れた頬は青ざめ冷たく、その感触にわき上がった感情を押し殺すようにその唇を再び塞いだ。
どんな可能性だって0%じゃねぇ以上、俺は全てを考えて動くしかない。
俺は悪魔じゃねえ。残念ながら体格にも才能にも恵まれない一アメフト選手だ。
身体能力に負ける相手なら頭脳勝負、心理戦で挑む。
全員でクリスマスボウルに行くためなら、誰だって使ってやる。
お前だって例外じゃねぇ。
だからお前はそんなに泣きそうになって俺を見るな。
来るか来ないか―――可能性としては来る日が近い崩壊の瞬間に今から怯えてリズムを崩すな。
お前は泥門デビルバッツを迎え入れる腕だ。
お前がしっかりしてなきゃ、全員が崩れるんだよ。
糞デブも、糞ガキ共も。
―――――俺も、な。
***
うちのヒル魔さんは甘えっ子な気がしてきました。
本当は死にネタでもベタに書いてみようと思ったんですが、それは次の機会にでも。
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同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。