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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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14.頭ではわかっているから

(ヒルまも未来設定)

+ + + + + + + + + +

リビングに広がる光景に、ヒル魔は思わず自らの目を疑った。
「あ、ヒル魔くんおかえりー」
「なんだ、そりゃ。糞シュークリームマニアを返上して糞レモンマニアにでもなったか」
テーブルに山のように積まれたレモンやグレープフルーツ、オレンジ。
どれもこれもヒル魔にとってシュークリームに比べればかなりマシな香りを放っているが、量が尋常じゃない。
「誰が喰うんだ」
「私」
平然と言い放ち、食べやすいように切り分けられた柑橘類盛り合わせを前に、まもりはまるでそれがシュークリームであるかのように大量に口に放り込んで咀嚼していく。
さすがにヒル魔の咥内に唾液が滲んでくる。酸っぱい物は嫌いではないが、それにしてもこの光景は異様だった。
銃火器を定位置に仕舞いに行く途中、ソファの上に毛布を見つけた。
「昼寝してたのか」
「うん、なんか妙に眠くって」
「調子が悪いのか」
「ううん。眠いだけ」
まもりもヒル魔も朝型で、生活リズムは世間一般と比較するととても良い部類に入る。まもりが体調不良でもないのに昼寝をするなんて珍しい。
「腹減ったな」
色々考えていたが、とりあえず空腹を思い出して口にしてみる。
「夕飯ならあっためたらすぐ食べられるよ」
「そーか」
着替えてリビングに戻ると、食卓には一人分の食事。
「お前の分は」
「んー、なんか果物食べ過ぎてお腹すかないの」
「アホか」
「でも急に食べたくなって」
どうしてだろうね、と首を傾げるまもりに、ヒル魔は先ほどから一つの可能性を疑っていたが、それは限りなく黒に近いグレーへとなっていく。
思わず脳裏でいつのだろうかと計算してしまったが、それが判ったところでしょうがない。
「姉崎、俺は明日仕事休む」
その言葉にまもりは目を丸くしてヒル魔を見つめた。
「え? 珍しい! あ、もしかしてどこか調子悪い!?」
「病院に行こうと思う」
「ええ!? そ、そんなに具合悪いの?! じゃあ今から救急病院に」
慌てるまもりをヒル魔は片手で制す。
「それほどじゃねぇ。とりあえず明日、病院に行く。お前も一緒にな」
「う、うん。ヒル魔くんがそんなに調子悪いなら付き添いが必要よね!」
なんか重大な病気かも知れないし、と保険証を用意するまもりを見送り、柑橘類の匂いにまみれながらヒル魔は食事を終えた。

翌日、向かったのはヒル魔には縁のないはずの病院。
訝しがるまもりを診察室に押し込み、ヒル魔はさっさと待合室へと戻った。
「三ヶ月ですね」
にこにことやさしい笑みを浮かべ、初老の女医がそう告げる。
「は」
まもりはぴしりと動きを止めた。

「ヒル魔さんのお連れ様、いらっしゃいますかー?」
まもりが診察室へ行ってから30分。予想通りの展開に、ヒル魔は舌打ちしながら立ち上がる。
「チッ、やっぱりな」
「あ、あの・・・ヒル魔さんの旦那様ですか?」
「ああ」
金髪にピアス、黒ずくめなどうみてもこの病院には異質な男が看護師に導かれて診察室に入っていくのを、周囲の患者たちは不安そうに見つめ、その後互いに目を見合わせた。

「すみません、先ほどから奥様があの状態で」
魂が抜けたように呆然としている。やっぱり気づいてなかったな、と病院に着いていくことに決めて良かったと安堵した。
こんなところに来るのはこっぱずかしいが、こんな状態で病院から職場に電話が掛かって呼び出される方がより恥ずかしい。
嘆息して近寄り、その手を取って立ち上がらせる。
ぼんやりしているが、手を引けば自力で歩けそうだ。
「奥様は妊娠三ヶ月です」
見下ろせば、小柄な看護師がこちらを見上げている。
「おめでとうございます!」
にっこりと笑われ、ヒル魔はどーも、と短く返して診察室を出る。
その顔が僅かに緩んだのを、呆然としていたまもりは残念なことに見逃したのだけれど。

帰り道の途中、惚けていたまもりはやっと覚醒した。手を引いて前を歩くヒル魔の隣に並ぶ。
「気が付いてたの?」
「気が付かねぇ方が驚きだ。あれだけ酸っぱいもん喰いたがって眠たがるっつったら理由は絞られるだろ」
呆れたように見下ろされ、まもりは少しむくれた。
「なによ、嬉しくないの?」
「嬉しいに決まってる」
あっさりと言われて、まもりは思わずヒル魔を注視する。
「なんだよ」
「いや、あっさり認めたなあって」
「ここで嘘言ってどうすんだ」
にやり、と嘲るように笑われても、それが本当に嬉しいのを隠してる顔だって頭ではわかっているから。
まもりはそっと下腹部に手をやって、まだ感覚もない小さな命の所在を探る。
「とうとうヒル魔くんも父親かあ」
「とうとう姉崎も母親かあ」
同じように返されて、まもりは笑ってヒル魔の手を握る力を強めた。
「ね。この呼び方、いつまで続けようか」
「さあな。なるようになるんじゃねぇの」
「なんで他人事なのよ、もう!」
二人は楽しげに会話をしながら手を繋いでゆっくりと家へと帰っていく。


とある夫婦の、とある幸福な一日。


***
というわけで夫婦な二人でした。うちの二人は子供が出来るまでは名字呼びなんです。
働いているらしいヒル魔さんの職業はなんでしょうね。
会社でも経営してそうですけど、まだアメフトはやってるのかしら。

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