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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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落ち椿

(ヒルまも)
※高校三年の二人。


+ + + + + + + + + +
椿の花をぐしゃりと踏みつぶす黒い靴。
「季語なんだって」
「あ?」
すかさず飛んできた声に、ヒル魔は訝しげに振り返った。
そこには、いつも隣を歩いていた女の姿。
隣に寄り添うのではなく、ほんの数歩後ろに立って、ヒル魔の足下を見ている。
無惨に潰された、花。
「落ち椿」
「ホー」
生憎とそんな知識は持ち合わせていないヒル魔は、ただそう応じた。
赤い天鵞絨のような花びらが靴に貼り付く。
感じたことのない油の匂いが突き上げてくる錯覚に、ヒル魔は僅かに眉を寄せた。
「で?」
「え?」
「何か言いたいことがあるんだろ」
確信を持った言葉に、まもりは薄く笑みを浮かべる。
本当は。
この距離はもう必要ないはずだった。
部活も引退して、進路も決まって、あとは卒業までの日々を数えればいいだけの今。
アメフト部というくくりを失ってしまえば、まもりが風紀委員としての立場を終えてしまえば、もう。
クラスも進路も帰路も違う二人がこうやって道で偶然出会うことなんてあり得ない。
ましてや、こんな昼日中に。
「春だから」
「ア?」
「お別れを言いに来たの」
さよなら。
元気でね。
そんなありきたりな言葉を吐き出すためにここまで来たのだと、まもりは微笑む。
立ちつくす彼女に、ヒル魔は椿の花びらを纏い付かせたままつかつかと歩み寄った。
動かず彼を見上げるまもりへの距離を詰める。
「テメェは今、死ぬのか?」
「はい?」
唐突な言葉に、まもりは瞬いた。
からかう色もなく見下ろしてくる彼の眸を見つめ、その真意を探ろうとするが、よく判らない。
「今、死なねぇなら」
まもりの喉元に、ヒル魔の指が向かう。
後ずさる前に、その指がするりとまもりのリボンを奪った。
「ンな別れの言葉なんぞ必要ねぇな」
「・・・だって」
まもりは俯く。
高校を出てしまえば、進路は別々、もうこうやって彼の所在を簡単に知ることは出来なくなる。
中学校の友達とだってもう今はほとんど連絡を取れないのに、大学に行って社会に出たら、こんなに近くで無為に言葉を掛けることなんて出来ないだろう。
遠く離れてしまうのに。
「生きてて手段があるのに、わざわざンなコト言う気持ちが知れねぇなァ」
くだらない、とヒル魔は笑う。
「距離が時間が、っつー言い訳を自分に繰り返す暇があるなら、もっと前向きに考えろ」
「・・・って、ヒル魔くん何してるの?!」
きゅぽ、という音に気づいて顔を上げれば、ヒル魔がその手にあるまもりのリボンに油性マジックで何か書いている。
「キャー!? ちょっと、やめてよ!!」
「あの携帯は全部処分した」
「っ?!」
百台を越えた携帯電話。それを処分した、という言葉にまもりは目を見開く。
「当然卒業生名簿やらに俺の連絡先が載るはずがねぇし、トモダチのアルバムに名前書くなんてこともしねぇ」
「そうでしょうね」
「ムサシにも栗田にも新しい連絡先は教えてねぇ」
その徹底振りに、まもりは手を握りしめる。
「テメェが後になって、俺に連絡を取ろうとしてもその手段は何もないっつーことだ」
「・・・それが、何」
「おら」
手元に戻ってきたのはまもりのリボン。
「これ・・・!」
そこに羅列するのは、あからさまな電話番号と住所。
「・・・連絡して、いいの?」
リボンを握りしめてそう問えば、ヒル魔はにやりと笑う。
「前向きに考えろ、っつったろ」
そのリボンを再び抜き取り、ヒル魔は彼女の襟元にそれを結び直す。
文字列の滲むそれを撫で、まもりは口を開いた。


***
『落ち椿』という季語が気に入って書いてみました。ちょっと時期が遅かったな~。
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