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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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禍福ベクトル

(ヒル魔とまもりと鈴音)

+ + + + + + + + + +
神龍寺戦。
セナがフィールドをねじ伏せる瞬間。
駆け抜けて襲いかかってきた阿含くんを振り払い、ボールをエンドゾーンに運び込む。
光速のRB。
そんなセナの姿を見て、思わず呟いてしまった。
「・・・かっこいい」
セナにこんな形容詞を使うなんて初めてだ。
無意識のそれを、隣にいた鈴音ちゃんが拾い上げた。
「やー? まも姐、知らなかったの?」
「え?」
「セナはかっこいいんだよ」
鈴音ちゃんはまるで自分のことのように嬉しげに、セナを見ている。
突然私の中に何か判らない感情が渦巻いた。
なんだろう、このモヤモヤ。

翌日、つかの間の安息日。
強豪神龍寺を破った、ということでアメフト部はみんな注目の的だ。
私自身は戦う訳じゃないけど、褒め称えられるのは純粋に嬉しい。
とはいえ、みんな筋肉痛でそれどころじゃないけれど。
ヘリからのフォーメーションチェックを終えて、皆が解散しても私は昨日の片づけをするために部室に残っていた。
昨日結構消耗したものが多かったから、私は不足分を買い足しすべくリスト作成する。
「おい、マスク買っておけ」
「マスク?」
「糞アル中が部員分用意しろっつってた」
「ふーん?」
昨日のデータの分析をしているのだろう、ヒル魔くんはパソコンから目を離さない。
ふと昨日のモヤモヤを思い出して、私はヒル魔くんなら判るかな、と思って聞いてみることにした。

「・・・くだらねぇ」
ヒル魔くんは私の話を聞くなり一蹴。
「なにが?」
「あほらしい、さっさと買い出しに行け、糞マネ」
「なにがよ、教えてよ」
「ア?」
嫌そうに、心底嫌そうにヒル魔くんはこちらを見た。
「自慢されてんだろ」
「自慢?」
よく判らない、と目線で補足を求めると、すごーく嫌そうにため息混じりで言われた。
「糞チビのノロケ聞かされてんだよ」
「はぁ!?」
ノロケ。惚気。『自分の配偶者や恋人などとの仲を人前で得意になって話す(大辞泉より)』
「えー?! あの二人、付き合ってるの?!」
「違うだろ」
あっさり否定されて、ほっとする。ヒル魔くんが言うなら間違いない。
「そ、そうよね、そうよね・・・」
衝撃に落ち着こうとする私に、ヒル魔くんは俺にそんな説明させるな、と文句を言った。
先ほどまでは平然としていたのに、随分と不機嫌そうになった。
身体が痛いのとはまた違うだろう。
なにか気に障ることをしただろうか。いや、言ったのは鈴音ちゃんの、セナの惚気らしい言葉だけだけれど。
「いつまで糞保護者気取りだ。いい加減にしろよ、糞マネ」
「あ、そこ?」
そこに苛ついたのか、と気が付いて思わず間抜けな合いの手を入れてしまった。
「ア?!」
ぎ、と睨まれて私は慌ててリストを手に立ち上がる。
「じゃあちょっと買い出ししてくる! 自転車使うね」
そそくさと部室を出る私の耳に、舌打ちが聞こえたけれど、気が付かないフリをした。


「・・・チッ」
俺はパソコンに昨日のデータを元に部員たちの問題点を列挙していく。
とりあえず部員全員、スタミナの増強が必要だが、残り日数を考えたら一朝一夕に身に付く物でもなし。
その辺は糞アル中がなにか策を講じるだろうから、戦術的なもの・・・巨大弓についても偵察しないとならない。
折良く王城高校の文化祭が近いから、そこに紛れて体育館の中を覗こう、という結論に達したところで俺は顔を上げた。
先ほどまで糞マネが座っていたところは、几帳面な彼女にしては珍しく乱れたままだ。
その事実を引き起こした自分の言動に、眉間に皺が寄るのを感じた。
まったく、くだらねぇ。
糞チビなんぞに妬いた、なんてみっともなくて口にも出せやしない。
とりあえず次の試合で進対策にこれといった有効手段がなかったら、また糞チビを酷使しよう、と心に誓った。

***
私がアイシに嵌るのが遅かったので、どの巻の話を書いてもすごく今更な感じがしますが、22巻の話です。
ベクトルの先にはセナがいますが、今回は不在で。バックヤードを書くみたいな感じがすごく面白かったです。
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