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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ナイトメア

(ヒルまも一家)


+ + + + + + + + + +
はじき飛ばされる衝撃。
今まで喰らったサックのどれよりも強烈で、そうして甚大な被害をもたらしたもの。
峨王に折られた瞬間、身体は宙に浮き、そして叩きつけられる。
脳裏を走馬燈のように駆け抜けた過去の記憶と、突きつけられる現実。
熱望して渇望して、幽かな可能性を縒ってようやく織り上げた夢の形を、無惨に引き裂かれた。
右腕から全身に響く激痛に目の前が暗くなる。
そして全てが闇になる。
闇、に。


その闇が不意にぶれた。誰かに揺さぶられている。
「・・・あ?」
「おとーさん」
顔を覗き込むのは、見慣れた青い目とストレートの黒い髪の毛。
その毛先が触れるか触れないか、のところでゆらゆらと揺れている。
周囲はまだ暗い。
夜目が利く、というのとは少し違うが、暗闇でも人を見るのは問題ないヒル魔はぱちりと瞬き一つする間に、現状を整理する。
ここは自室で、子供たちは姉崎と共に隣の部屋に寝ていたはずだが、一人だけ起き出してここまで来たらしい。
「どうした、アヤ」
尋ねる声は低く掠れている。夢見が悪かったせいか、呼吸が荒い。
それを黙殺して、ヒル魔は身体を起こす。
自分にのし掛かるように覗き込んでいた娘はまだ十歳にも満たない。
「お父さんが、うなされてたから」
その目が心配そうに瞬いたのをヒル魔は不思議に思う。
「・・・聞こえたか?」
「ううん、そんな気がしただけ」
この娘はとにかく勘がいい。なんとなくそんな気がした、というのをかぎつけてはさりげなく相手を労る。
気配り、ということにしたらそれは姉崎似だろう。
「そうか。もう大丈夫だから、向こうで寝ろ」
「いや」
間髪入れず、アヤはそれを拒否して一瞬止まったヒル魔の隣に潜り込んだ。
アヤは長女らしく聞き分けがよい子で、親の言うことに意味なく逆らうようなことは今までなかった。
「こら、出ろ」
「だめ」
布団の隙間から姉崎と同じ青い目が眠気も見せず瞬いた。
その色は心配に満ちている。
高校の時から何度も見せられた、見るたびになんとなく痒いような、もどかしいような気持ちにさせられる色だった。
その色に弱い自覚はある。それが愛娘であるから尚更。
「・・・ちょっと詰めろ」
「うん」
ついでに汗に濡れたシャツを放り投げ、着替えて枕元に常備されている水を飲み、布団に潜り込む。
隣に子供特有の暖かい体温を感じて、先ほどまでの悪夢にささくれた神経が宥められていく。
急激に戻ってくる眠気に、小さなあくびを一つしたところで、アヤが呟いた。
「きょうはもう」
「ア?」
ほとんど寝声だった。
「あくむは、みないよ」
古傷がある右腕に縋りつく暖かなもの。
「・・・やすみなさい」
すとんと張りつめていた神経が解けたように、アヤの息が深くなる。
それをまじまじと見て、ヒル魔はその頭をそっと撫でてやる。
そういえば姉崎の腹の中にいるときから、アヤはあり得ないと思うようなことを引き起こした存在だった。
もしかしたら羊水に浮かんでいるときから、自分たちの過去を説明できないような力で垣間見ていたのかも知れない。
そんな非現実的なことですら信じたくなるような、奇跡のような暖かさがもたらした眠りの誘いに逆らうことなく、ヒル魔は眸を閉じる。 

今度の闇は、安らかなものだった。


―――――――・・・おやすみ、良い夢を。

***
アヤが不思議ちゃんみたいな扱いになってきましたが、本当の不思議ちゃんは妖介の方です。アヤは単純に勘がいいのと頭がいいので視界が広い子なのです。小さい頃はそれなりに喋ったアヤがいつの間にあんなに無口になったのかが自分で作っておいて疑問です。
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