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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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しずかでつめたい

(セナと鈴音)

※悲観的な未来を捏造しました。
※4/25更新分『くらくてさびしい』の関連作品です。

+ + + + + + + + + +
戦いが終わった後、ただ僕たちは泣くしかなかった。
悔しさや悲しさが後から後からこみ上げてきて、ああ、今まで戦った相手もきっとこんな風に泣いたんだろう、と頭の一部で冷めた自分が呟いた。
それは栗田さんやムサシさんが言った、保険を掛けていた心、というものかもしれない。
誰もが泣き続けるそこで、まもり姉ちゃんはみんなを褒め称え、いつものように柔らかいタオルを与え、一人一人の肩を抱いて優しく出迎えた。
彼女の目に涙はない。あるのは、柔らかい笑みだけ。
そうして、悪魔と呼ばれた彼の口元も相変わらず笑みの形に歪んでいて、仕方ない奴らだと言わんばかりに僕たちを見守っていた。
途中から退場を余儀なくされた彼の手はサインを送ることさえ出来ないほど傷つき、その場にただ座っているだけでも苦痛だっただろうに、泣き濡れる皆の背を無言でゲシゲシと蹴りつけて立ち上がるよう指示し、一瞬だけ後ろを振り返った。
多分それを見たのは僕だけだ。
いつでも弱みを見せなかったヒル魔さんの眸に渦巻いた、もの。
 
 
 
通夜のようだ、とは。
誰もが思っていたけれど、誰も口に出来なかった。
部室に戻ってきて、片づけをし、病院に行っているヒル魔さんとまもり姉ちゃんを除いて全員がうつむき加減でそこにいた。
怪我人が多く冬休みは練習できないだろう、というどぶろく先生の判断で、年末年始が丸ごとオフになった。
それは普段休みらしい休みなんて、学生なのに全然存在しなかった僕たちには願ってもいない話だったはずなのに、喜べなかった。
「・・・まも姐は妖兄の診察が終わったら二人とも直帰するって」
携帯を見ていた鈴音がぽつんと呟く。
「じゃあ、解散だ。今は平気でも明日以降怪我が酷くなる可能性があるから、なにかあったらすぐ病院に行くように」
淡々とした声で、ムサシさんがまとめる。いつもなら解散を指示するのは銃声込みのヒル魔さんの声で。
それがないだけで随分と静かで、穏やかだ。
疲労感で辛い身体を引きずって、僕たちはばらばらと散っていく。
今は誰もが一人になりたがっていた。
どんな痛苦でも共にしてきた親友のモン太であっても、今は顔を合わせたくなかった。
苦しくて切なくて、今もみっともないくらい泣きわめきたいのに、どこかでボタンが掛け違ったように違和感がある。
きっとあの二人が泣かなかったからだ。
あの二人は僕たちの知らないところで泣くのだろうか。
優しいあの二人を泣かせる場所すら与えることができなくて、僕はもどかしさに歯がみする。
「・・・セナ」
その声がふわふわと頼りなげだったので、僕は一瞬空耳かと思った。
背後からなおも声が掛かる。
「隣、行ってもいい?」
鈴音だ。
僕は少し逡巡したけれど、頷いた。
いつもならローラーブレードが軽やかな音を立ててあっという間に近寄ってくるのに、今日は猫のように足音さえ潜めて僕の隣にやって来た。
「・・・セナ、今日、格好良かったよ。ううん、ずっと前から、ずっと、ずっと」
すん、と鼻を啜る音と共に鈴音は隣を歩く。お互いに顔を見られなかった。
「ごめんね」
「やー? 何が?」
「応援してくれてたのに、・・・勝てなかった」
声をからして、必死になって応援してくれていた声はこちらにもちゃんと届いていた。ヘルメットに籠もる自分の呼気、圧倒的な力の差に絶望しかける度に現実に引き戻してくれたのは鈴音の声だった。
「ねえ、セナ。あたしいい物持ってるんだ」
くい、と上着の袖を引かれる。そちらに視線を向けると、そこにははれぼったい目元も痛々しい鈴音の笑顔。
その手にある物を見て、僕は純粋に驚く。
「線香花火? こんな時期に?」
「うん。こないだ家の大掃除してね、出てきたの」
湿気っちゃってるかもしれないけど、やってみたくて。
このまま真っ直ぐ家に帰る気もしなくて、かといってどこかに寄り道する気もなかった僕は、鈴音の誘うがままに公園へと足を向けた。
空はどんよりと重い雲が立ちこめている。
「雪、降るかな」
「どうかな」
雪よりも雨の方がいい、と思った。
もし雨なら、濡れて帰って、泣いたとしてもきっと判らない。
身を切る程に冷たい雨を願っても、今ばかりは誰も怒らない気がした。
「ライターも持ってきたんだ」
鈴音が慣れない手つきでライターをいじる。なかなか火がつかなくて、僕が代わったけれど、僕も手間取った。
シュボ、と音を立てて火がつく。
花火の先を掠めると、不安とは裏腹に花火は勢いよく燃え上がった。
先端が赤く丸くなり、細くきれいな火花が散る。
火花が閃く幽かな音がよく聞こえる程、公園には人がいなくて、僕たちは沈黙していた。
「・・・ねぇ」
鈴音が花火から視線を逸らさずに口を開いた。
「妖兄ね。最後、帰るときの目が」
それは。
僕だけが見たと思っていたヒル魔さんの。
弾かれたように鈴音を見た僕の視線に気が付かないまま、鈴音は言葉を探す。
「フィールドを振り返ったときの、目にね、」
「鈴音」
その感情の名が聞きたくなくて、僕は鈴音の名前を呼んだ。
鈴音の目がようやく僕を見る。
「・・・僕たちが言う事じゃないし、きっと見てなくてもまもり姉ちゃんは知ってると思う」
「・・・うん」
そう言うのが精一杯だった。
そしてそれだけで十分だと思えた。
 
僕たちはそう数のない線香花火に次々と火を付ける。
冷え切った地面に焼けこげと、それ以外の染みをいくつか作った。

夏にやった派手な花火とは違い、それは静かな、静かなものだった。
 
***
前作『くらくてさびしい』の他の面子はどうだったのかな、というのを書いてみました。いつも底抜けに明るい子の悲しむ姿はひどくかわいそうに見えますね。タイトルもそれとなく似せてみました。
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