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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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この手に極彩色の夢を

(ヒルまも)


+ + + + + + + + + +
時々思うのだ。
あの高校二年生の一年間、それだけがまるで嘘のような出来事の連続で。
あれはもしかして、夢だったのではないのかと。
「本当に、あのときのまもってば部活部活で全然ヒマなかったわよね~」
「そうそう。それでいてすごく楽しそうで、羨ましいようなそうでもないような・・・」
「それ、褒めてるの?」
「今となっては、ね」
休日の午後。久しぶりに逢った高校からの親友二人を前にして、私はこの喫茶店オススメ季節限定のローズティーなるものを飲みつつ笑う。
今思い返しても、むちゃくちゃな一年だった。
普通に考えてあり得ないでしょ、と何度思ったことか。
その都度言われたのは『普通ってなんだ』だった。
自分の常識が世間の非常識、なんてよく聞くけれど、彼に関しては自分が絶対常識だ、と言い切れるだけの素地があったので散々言い争ったものだった。
「でもね、不思議なのよ」
「なにが?」
「ヒル魔の顔、覚えてる?」
「は? 何当たり前のこと・・・―――――」
咲蘭に尋ねられたアコは後の言葉を失った。
そう。
アメフト部の部員たちはいざ知らず、単なるクラスメイト、程度の面々は誰も彼の顔を思い出せないのだ。
「な、なんで・・・? あんなに怖くて絶対忘れない、って顔してたのに」
アコの声が震える。
「そうなんだよね。私も同じクラスだった子にふと聞かれてね、思い出そうとしたんだけど」
咲蘭がため息をついた。
「ま、覚えてなくても全然問題はないんだけどね」
「そう・・・だよね」
そう。同級生程度ではよほどのことがない限り今後接点など持たない相手だ。むしろ持ちたくない、という人の方が多いだろう。
「目を、ね」
「え?」
「目を見てないと、人の顔って覚えにくいのよ」
私は部員以外がほとんど彼の顔を覚えていない、ということに高校の時から気が付いていた。
彼は普段の生活で、意図的に人の目を直視しないようなのだ。
四六時中一緒にいて免疫があった部員たち以外は、その存在に近寄りすらしなかった。その顔がどんなだったかを知らないで生活していた。
蛭魔妖一の名前だけが一人歩きして、彼は素顔を晒すことなく生活していた。
だからその存在から離れた瞬間から、彼のことを忘れてしまう。
地味、と言われた石丸君よりももっと希薄な存在と成り果ててしまう。
高校で接点の切れた人たちにとって、彼の存在は極彩色の夢のようだった。
派手派手しい割に記憶に残らない。
ただ恐ろしかった、その印象ばかりだけが強烈。
「ヒル魔ってどんな顔だったか、まもは覚えてるの?」
「モチロン。とはいっても、私の絵じゃ伝えられないけど」
「ああ・・・」
二人に苦笑いされて、私も苦笑する。何をどうしても絵が上手に描けないのはもう仕方のないことだ。
「そういえばヒル魔、あの後どうなったの?」
「どっかの大学に行った、って聞いたけど」
「その後就職したのか会社作ったのか奴隷集めて私腹肥やしてるのか・・・」
咲蘭とアコの二人の会話に私は肩をすくめる。
「さあね、私も知らないわ」
大学には行ってたわよ、と補足して、私はそろそろ本題に入ろうか、と口を開こうとした。
と、私の前に座っていた二人の顔色がすーっと白くなっていく。
そういえば周囲の喧噪がいつの間にかぴたりと止んでいた。
「?」
どうしたの、と言おうとして。
後ろから伸びてきたのは尖った指を備えた長い腕。
「遅ェ」
二人がぱくぱくとこちらを指さし、口を開閉させている。目をこれ以上ないってくらい見開いて、これぞ絶句と言うべきか。
「やっぱり女が三人集まると姦しいな。話も進まねぇし」
呆れたような声が頭上から降ってくる。私の胸元で交差された腕は細いけれど今も弛まず鍛えられているとよく知っている。
「ちょっとヒル魔くん、威嚇するのやめてよ。二人は私の親友よ」
押さえられていて背後を振り返られない私の頭に彼の顎が当たる。
「威嚇だなんてソンナコトシテマセンヨ」
「嘘おっしゃい!」
目の前の二人の顔色を見る限り、どう見たって威嚇だろう。
「さっさと本題に入らねぇからだ」
「ほ、ほん、だい?」
「な、なにが、おこってる、の?」
二人がガクガクと震えながら私を見た。
ああ、こんな様子で言ってもいいかしら。
そう思った私の気持ちを違わず読み取って、ヒル魔くんはふふんと笑った。
「この後も予定があるので早くしちゃくれませんカネ、姉崎サン?」
もうこの状態を見られて言い訳もあるまい、という風情にまもりはため息をつく。
「も、もしかして、ふたり、つきあったり、してる、の?」
「え、そ、そう、なの?」
泣きそうな顔なのに、二人とも私とヒル魔くんを交互に見る。興味半分恐怖半分、というところか。
「好奇心は猫も殺す、って知ってるか」
「「ヒィイイイイ!!!」」
「だーかーらっ、威嚇しないでっ!」
もう! とちょっと怒って見せてから、私は意を決して本題を言う。
ちゃんと二人の目を見て、にっこり笑って。
「あのね、私たち結婚するの」
 
 
 
私たちは二人して揃いの指輪を見せたのだけれど、それでもなおも信じがたいと呻く友人たちを置いて店を出た。
これから結婚式のドレスを選びに行くのだ。
小さなパーティーみたいでいいと私は思ってたのだけれど、派手好きな隣の男はそうは問屋が卸さない、らしい。
こういうの嫌いそうなのに、意外だと思う。
「アコも咲蘭もすっごく驚いてたわねぇ」
おめでとう、ってすぐ言ってくれたのアメフト部のみんなだけよ、と思わずぼやく。
ちらりと横目でこちらを見て、ヒル魔くんは呆れたように言った。
「万人に祝福されたいならやめるか」
「やめてもいいの?」
にっこり笑って見上げると、ヒル魔くんはケ、と短く笑ってガムを膨らませる。
「それはこっちの台詞だな」
そう嘯きながら結局放されることのない、繋いだ手。
「素直じゃないんだから」
「どっちが」
私は極彩色の夢をしっかりとこの手で捕まえて、雑踏へと足を踏み入れた。


***
ウチのヒル魔さんは普段は足音がしません。背後に立っていても気配を殺されると全然判らない。
石丸さんより稀薄、なんて言い方してしまって石丸ファンの皆様すみません。
ヒル魔さんの収入源が何かはまもりちゃんも知らないこと。どうやって彼女の両親説き伏せたのかしら。
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