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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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わすれごと

(鈴音+ヒルまも)

+ + + + + + + + + +
あともう少しで夏休みにはいるという週末、糞風紀委員から俺が呼び出しを受けた。
最初は何の冗談かと思ったが、待ち合わせ場所に着いて納得。
そこには満面の笑みを浮かべる糞チアと糞風紀委員が雁首揃えて生クリームの山をつつき崩していた。
その場で一瞬躊躇ってしまった。
すぐ帰っておけばよかったのだが、それを予想していたらしい糞風紀委員にシャツの裾を掴まれてしまった。
糞!
「なんで俺まで呼び出した」
「やー! だって、二人には聞いて欲しいじゃない!?」
きゃー! と顔を赤くしながらも嬉しそうな糞チアは俺と、隣に並んでいる糞風紀委員に笑顔で言いはなった。
「あのね、セナと付き合いだしたの!」
「え?!」
「ア!?」
「やー! いい反応ありがとう!!」
座ったままなのに、弾けるように笑って飛び上がりそうな糞チアは、悪戯が成功したと言わんばかりに交互に俺たちの顔を見た。
言っておくが俺の驚きは『なんだこいつらまだ付き合ってなかったのか』の反応であって、この隣の糞風紀委員と同じ物では断じて、ない。
「・・・い、いつから?」
「えっとねー、先週! やー、ひっどいのよセナったら!」
「そ、そうなの?」
繰り返される吃音まじりの返答に、糞チアは怒濤のようにしゃべり出す。
衝撃に未だ立ち直れない様子の糞風紀委員の隣で、俺はコーヒーを啜っていた。
この二人の話では脅迫ネタにもなりはしない。
今度糞チビに会ったときにちょっとからかってやろう、その程度にしか思わなかった。
けれどわざわざ、部活も引退した俺たちを、二人セットで呼び出した理由がわからない。
しばらく女二人の会話が続き、どうにか落ち着きを取り戻してきた糞風紀委員は糞チアが語る糞チビの言葉を感慨深げに聞いていた。
「そっかー・・・セナがねぇ・・・」
それについても俺には特に驚きがない。
あいつも今や結構な闘志を持った、アメリカンフットボールプレーヤーだ。その前から多少頼りないとはいえ、男らしい台詞も口にしていた。
女二人でも充分姦しいな、と思いながら俺はここに呼ばれた理由を聞いていたのに忘れていた。
「妖兄はどうやって告白したの?」
名前を出されたが、質問の先は糞風紀委員だった。
「え?」
「あ、じゃあまも姐から?」
「え、え? 鈴音ちゃん、何言ってるの?」
「やー、だって二人は付き合ってるんでしょ」
それは、文末に疑問符が付かない完全なる断定だった。

その後の惨劇は推して知るべし、だ。
俺は糞チアがあれほどに蒼白になって黙りこくったのを初めて見たし、俺は俺で隣を見られないという状況だった。
こっちの方がよっぽど脅迫ネタになりそうだったが、至近距離であの威圧感は凄まじかった。
その殺気が出るならお前はアメフトやった方がいい。
糞シュークリーム食い過ぎてラインにでもなればいい。
そんな無駄口すら叩けなかった。
仕事帰りの会社員たちでごった返す人混みの中を歩いているはずなのに、二人の回りには人影はない。
半分は俺も影響しているだろうが、半分は隣の糞不機嫌のせいだ。
「・・・なんで」
呟きはひどく低かった。
うつむき加減で黄昏時なのもあって、表情が伺えない。
「なんで、ずっと黙ってるの?」
「口を挟む隙がねぇ」
そう正直に口にしたら、糞不機嫌は顔を上げてこちらに向いてにっこりと笑った。
おお、般若ってこういう顔だよな、という感想を抱かせる程に。
そしてその感想を口に出せない程に。
俺は顔をそちらに向けることもせず、真っ直ぐ前を向いていた。
「挟むも何も今は二人だけだし、私、ずっと喋ってなかったじゃない?」
「とりあえずその顔はやめろ」
「あら、普通でしょ?」
ありえねぇ。
普段大人しいヤツが怒ると手に負えないっていうが、それを地でいってるな。
「あっちに行きましょう」
指し示されたのは、繁華街の裏手にある公園。鬱蒼と茂った緑の影に誰がいるのか判らない、そんな場所。
それでも俺たちは逆らわず、さくさくとその公園に入っていった。
ベンチに一人分の隙間を空けて座る。
「誤解されてるとは知ってたんだけど」
「ホー」
「まさか面と向かって断言されるとは思わなかったわ」
がっくりと肩を落とす様を、俺はただ眺めた。
「どうしてあの場所で否定しなかったの?」
「あの顔で全部片づいてただろ」
「人に押しつけて!」
「俺が言われたわけじゃねぇ」
け、と笑ってやると、糞不機嫌は更に不機嫌さを増して口を開いた。
「言われてたでしょ!! なんで私たちが付き合ってるっていうのを否定しないのよ!!」
「あの場所で俺が否定したとして」
俺はガムを取り出して口に放り込んだ。
そういえばいつも咬んでいるこれすらも忘れてた。
「糞チアがそれを信じるか?」
「だって、黙ってたら肯定してるみたいじゃない!」
「それに不都合があるのか」
「ふ・・・」
絶句した糞不機嫌の顔を、今日初めてまじまじと見てやる。
夏の部活に出なくなったせいで、白い肌は更に抜けるように白くなった。
強烈な日差しに晒されて砂埃にまみれて荒れ放題だったくせに滑らかだった髪の毛は、更に艶を増して柔らかく肩まで伸びている。
怒りで強ばっていた顔は薄く化粧までされていて、着ているのはギンガムチェックのキャミワンピース。
隣にあるのは財布と携帯くらいしか入らないだろう小さな小さな駕籠のバック。
白いローヒールのサンダルを履くつま先にはワンピースと同じ色のマニキュア。
さっきまでこちらを掴みかからんばかりに握りしめていた指の先にもある同じ色まで、俺はちゃんと見ていた。
「姉崎」
そう呼ぶと、糞不機嫌が瞬いた。
マスカラで強調された睫がばさばさと音を立てるようだ。
「否定は最初からしなきゃ意味がねぇよ」
ガムを膨らませ、ぱちんと割るまでの間に糞不機嫌の顔が真っ赤に染まっていく。
「今更だ」
とどめのように呟くと、糞不機嫌はずるい、と小さく呟いた。
「ずるいよ、ヒル魔くん」
「ア、何が」
「どこから始まってたの?」
「サアネ」
これも正直な感想だ。
「それならそうと言えばいいのに」
「アー、もうご存じなのかと思ってマシタ」
長いこと、それこそ部活に引き込んでからずっと、他の誰も見ていないところを散々見せていて、それでただのマネージャーだと思いこめたこいつの天然ぶりには本当に恐れ入る。
今日だって、なんで俺が大人しく呼び出しされたのか考えてみればいいものを。
「ねえ」
「ア」
「ちょっとは、見とれてくれた?」
・・・前言撤回。こいつは質の悪い確信犯だ。
スカートの裾をつまんで、小首を傾げる顔はもう不機嫌じゃない。
「行くぞ」
立ち上がって声を掛けると、姉崎は不服そうに頬を膨らませた。
「どこに?」
「なんで上着の一枚も持ってきてねぇんだよ」
「だって、昼間暑かったし」
空は夜の帳を下ろし、繁華街は喧噪が増し始める時刻。
そんな時間にそんな場所を肩をむき出しで歩くなんて、お前は良識ある風紀委員様じゃなかったのか。
とりあえずそこを覆うなにかを求めて俺たちは公園を後にする。
最悪腕を絡めて貰えればいいな、なんて安い挑発には乗らねえぞ。


この俺に忘れごとをさせるのはお前くらいだ。
ああ本当に、質が悪い。

***
部活引退後の次の夏の二人。久しぶりに逢うのだからと気合いを入れたまもりちゃんにうっかり見とれたヒル魔さん。最近になってウチのヒル魔さんはまもりちゃんのことが好きなんだなーとご指摘を受けて自覚しました。かわいいじゃないか(笑)実は手も繋げない純情さんだとなおよろしい(大笑)
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