旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
霞がかった空。
曖昧な水平線、薄いグレーを重ねた景色。
全てが曖昧になる景色の中で、同じように曖昧な空気を纏って、姉崎まもりがそこにいた。
全てが芽吹き、生命の喜びを謳う時。
意味もなく晴れやかで誇らしげに見える世界を隣に、まもりはぽつねんと立ち尽くす。
破天荒だった高校時代。
その元凶と同じ大学に進学し、部活に勉強にアルバイトにと目が回りそうなくらい動き回った。
それが楽しかった。
一日自分の限界まで目一杯頑張ると、翌日はその限界だと思ったところから少し広がるのが楽しくて仕方なくて。
一日一日を、それこそくたくたになるまで頑張るのが幸せだった。
けれど。
社会に出て、その一員として働いて。
仕事に慣れたあたりから、それは始まった。
限界まで頑張ることが当たり前だったのに、それ以上を求められない生活は優しくても怠惰に感じられて。
仕事でも、生活でも、何かが足りない。
極限まで求める何か。
当たり前のように、昨日までの自分を更新していけない日々に次第に息苦しくなっていく。
思い立って夜行バスに乗り、ふらりと遠方まで旅してみたり。
はたまた、一日部屋に閉じこもって延々と編み物をし続けてみたり。
限界まで本を読み続けてみたり。
何かを求めて、藻掻いて、足掻いて。
けれど、足りないまま。
代わり映えのない仕事、生活。
曖昧で優しいだけの、怠惰で温いこの世界。
「何が足りないんだろう」
ぽつりと呟いて、まもりはおもむろに靴を脱いだ。
丁寧に揃えて置いて、砂浜を歩く。
日差しも曖昧なこの季節、砂浜は肌を焼くほど熱くない。
むしろ足が沈み込む度にじわりとわき上がる冷たい感触。
それが背筋を震わせようとする。
さくさくと音を立てて歩き、白く泡立つ波打ち際へ。
ぺたりと足を踏み出せば、まだまだ冷たい海水がざああと押し寄せた。
くるぶしまで踏み入れてしまえば、最初冷たいと思った海も随分と温かく感じる。
ざわざわと足の下でえぐれていく砂の感触を感じながら、まもりはぼうっと水平線を見つめる。
海に来たのに意味はなかった。
ただ、足りない何かを探そうと足が向くままに動いていたらたどり着いたのだ。
日はまだ高い。空は曖昧だが明るく、夜は遠い。
きっと夜になれば星が見えることだろう。遮る物のない景色の中で、星はきっと鮮烈に見えるに違いない。
この曖昧さを振り払うだけの力強さで。
世界の温さを知らしめるように。
そこまで考えてまもりは緩く頭を振って、俯いた。
大学生の頃から何となく伸ばしたままの髪の毛がさらさらと流れる。
知っているのだ。
本当は、足りないと思っているのが何か、なんて。
けれど認めてしまえば、じわじわと浸食されて影響されたのだと告白すること。
そうしてそれは、負けなのだ。
まもりは再び顔を上げる。
曖昧な水平線は変わらず、長閑な空気はそのまま。
足は相変わらず温い水に包まれ、けれど足下の砂は着実に削られている。
このままでは崩れる。
足を動かさなければならない。
温い世界にいつづけるか、そこから抜け出して冷たい外気を得るか。
まもりは身じろぎ、動こうとして。
「何、やってやがる!」
背後から突然掛けられた声に、まもりはびくりと肩を震わせ、振り返ろうとして、不意に。
「あ!」
一際引きの強い波に足下を浚われた。
普段ならなんてことのない強さでも、ぼんやりと立ち尽くして足下が脆くなっていたまもりには強烈すぎる波。
回る世界、響く水音、曖昧になる音。
全身を包む温さに、突き刺さるのは―――黒い、熱。
<続>
曖昧な水平線、薄いグレーを重ねた景色。
全てが曖昧になる景色の中で、同じように曖昧な空気を纏って、姉崎まもりがそこにいた。
全てが芽吹き、生命の喜びを謳う時。
意味もなく晴れやかで誇らしげに見える世界を隣に、まもりはぽつねんと立ち尽くす。
破天荒だった高校時代。
その元凶と同じ大学に進学し、部活に勉強にアルバイトにと目が回りそうなくらい動き回った。
それが楽しかった。
一日自分の限界まで目一杯頑張ると、翌日はその限界だと思ったところから少し広がるのが楽しくて仕方なくて。
一日一日を、それこそくたくたになるまで頑張るのが幸せだった。
けれど。
社会に出て、その一員として働いて。
仕事に慣れたあたりから、それは始まった。
限界まで頑張ることが当たり前だったのに、それ以上を求められない生活は優しくても怠惰に感じられて。
仕事でも、生活でも、何かが足りない。
極限まで求める何か。
当たり前のように、昨日までの自分を更新していけない日々に次第に息苦しくなっていく。
思い立って夜行バスに乗り、ふらりと遠方まで旅してみたり。
はたまた、一日部屋に閉じこもって延々と編み物をし続けてみたり。
限界まで本を読み続けてみたり。
何かを求めて、藻掻いて、足掻いて。
けれど、足りないまま。
代わり映えのない仕事、生活。
曖昧で優しいだけの、怠惰で温いこの世界。
「何が足りないんだろう」
ぽつりと呟いて、まもりはおもむろに靴を脱いだ。
丁寧に揃えて置いて、砂浜を歩く。
日差しも曖昧なこの季節、砂浜は肌を焼くほど熱くない。
むしろ足が沈み込む度にじわりとわき上がる冷たい感触。
それが背筋を震わせようとする。
さくさくと音を立てて歩き、白く泡立つ波打ち際へ。
ぺたりと足を踏み出せば、まだまだ冷たい海水がざああと押し寄せた。
くるぶしまで踏み入れてしまえば、最初冷たいと思った海も随分と温かく感じる。
ざわざわと足の下でえぐれていく砂の感触を感じながら、まもりはぼうっと水平線を見つめる。
海に来たのに意味はなかった。
ただ、足りない何かを探そうと足が向くままに動いていたらたどり着いたのだ。
日はまだ高い。空は曖昧だが明るく、夜は遠い。
きっと夜になれば星が見えることだろう。遮る物のない景色の中で、星はきっと鮮烈に見えるに違いない。
この曖昧さを振り払うだけの力強さで。
世界の温さを知らしめるように。
そこまで考えてまもりは緩く頭を振って、俯いた。
大学生の頃から何となく伸ばしたままの髪の毛がさらさらと流れる。
知っているのだ。
本当は、足りないと思っているのが何か、なんて。
けれど認めてしまえば、じわじわと浸食されて影響されたのだと告白すること。
そうしてそれは、負けなのだ。
まもりは再び顔を上げる。
曖昧な水平線は変わらず、長閑な空気はそのまま。
足は相変わらず温い水に包まれ、けれど足下の砂は着実に削られている。
このままでは崩れる。
足を動かさなければならない。
温い世界にいつづけるか、そこから抜け出して冷たい外気を得るか。
まもりは身じろぎ、動こうとして。
「何、やってやがる!」
背後から突然掛けられた声に、まもりはびくりと肩を震わせ、振り返ろうとして、不意に。
「あ!」
一際引きの強い波に足下を浚われた。
普段ならなんてことのない強さでも、ぼんやりと立ち尽くして足下が脆くなっていたまもりには強烈すぎる波。
回る世界、響く水音、曖昧になる音。
全身を包む温さに、突き刺さるのは―――黒い、熱。
<続>
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プロフィール
HN:
鳥(とり)
HP:
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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