「オイ!」
「なに?」
尖った声に、まもりはようやくヒル魔を見上げて小首を傾げた。
その腕にはしっかりとケルベロスがいて、ふんふんと鼻を鳴らし彼女の腕を堪能している。
「いい加減離せ」
「いいじゃない、最近あんまりケルちゃんと遊んでなかったし、寂しいのよきっと」
「コイツは寂しがるなんてタマじゃねぇ」
じろりと睨め付け、まもりの腕を掴む。
「あん! ちょっと、いきなり危ないじゃない!」
バランスを崩したまもりは、彼に引き上げられるがままに立ち上がる。
と。
キュウン、という切ない声が足下から響いた。
見ればきちんとお座りして切ない顔をしたケルベロスが、まもりを見て甘えるように鳴いているのだ。
うるうると潤んだ眸、控えめに振られる尾、情けなく下がった耳。
そうして、いつの間に用意したのか足下に散歩用のリードが置かれている。
「あ! そっか、お散歩に行きたかったのね!」
だから甘えたさんだったのね、とまもりは謎が解けたと言わんばかりに声を上げた。
「ッオイ!?」
まもりはヒル魔の手を振り払ってケルベロスを再び抱きしめる。
「そうよね、こっちに来てからお散歩もまだそんなに行ってないもんね。じゃあ行こうか!」
途端にケルベロスの尾がぱたぱたと嬉しげに振られた。
「テメェ・・」
おとなしくリードをつけられて、まもりの隣に立ったケルベロスは苛立つヒル魔を牽制するように低く唸った。
「ケルちゃんは頼もしいわね。どこかの誰かさんとは大違い」
「アァ?!」
声を上げるヒル魔に、まもりはぴんと片眉を上げる。
ヒル魔がいつもやるのと同じように。
「あら、ヒル魔くんとは言ってないけど、お心当たりでもあるのかしら?」
ねえ? と尋ねるとケルベロスははやし立てるように一声鳴く。
今度は派手に舌打ちした彼に、まもりはじゃあね、と手を振ってケルベロスを伴いさっさと散歩へと行ってしまった。
「・・・糞ッ!!」
毒づき地面を蹴っても、砂埃が舞い上がるだけで気分が収まるはずもない。
ただでさえ鈍感この上ないまもりを、手を尽くして最京大まで引き込むことに成功したのに、蓋を開けてみれば周囲は癖のある男ばかり。
せめて纏わり付く羽虫程度の害虫駆除にでもなれば、とケルベロスを伴ったが、よもや手を取り合って反抗されるとは、とヒル魔は苦々しい顔になる。
募る焦燥感に、ヒル魔はあえて深く息をついて頭を切り換える。
大学生活は始まったばかり、まだまだ時間はある。
今後の動き方次第だ。焦る必要はまだないのだ。今は、まだ。
そう、自らを納得させる。
けれど。
理性が納得しても感情が伴わず、彼はこの憤りを発散させるべく、アメフト部へと向かう。
その後まもりが散歩から帰ってくる頃には、ヒル魔の八つ当たりを受け、デス・マーチ後さながらに転がる部員達の姿があったのだった。
***
fumika様リクエスト『焦燥』『包む腕のあたたかさ』『瞼にキス』でした。
あえての! このわかりやすいリクエストを下さったのに! ひねくれてる鳥!!(笑)
本当はなんだか切ないような話になるかな~と思ったのに、なんだかケルベロスが混ぜろとごり押ししてきました。
いつもありがとうございます!
fumika様も役員で大変だと思われますが、是非無理されませんよう!
ちなみに鳥は仕事で庶務やってます。伝票とデータ整理と備品管理とそんなんばっかりです。
natural right:当然の権利
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同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。