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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ピエタ

(ヒルまも)

+ + + + + + + + + +
関東大会を目前に控え、日ごと厳しさを増す練習後。
ヒル魔はロッカールームに鍵を掛け、もう誰もいないだろうと部室をちらりと見た。
そこにはまだ明かりがついている。
他の部員たちは確かに皆帰ったはずだから、今残っているとするならそれは糞マネこと姉崎まもり以外に他ならない。
「おい、まだいるのか」
声を掛けて扉を開くと、そこにはうたた寝をしているまもりがいた。
部誌を書いている途中に寝てしまったらしい。机に突っ伏して軽く寝息を立てている。
当然そこで優しく揺り起こしたりなどはせず、ヒル魔はまもりの椅子を怒号と共に蹴飛ばした。
「オラッ、起きろ糞マネ!」
「・・・・・・」
がくん、と身体が揺れる振動にまもりがぱちりと目を開く。
けれど想定していた悲鳴も、眠ってしまっていた事への羞恥からくる赤面も、小さな謝罪の声もなかった。
「?」
彼女はゆっくりと身体を起こし、無言のまま立ち上がった。そのまま歩いて数歩のヒル魔の元へやって来て、じっとこちらを見上げている。
「糞マネ?」
その目は開かれているけれど、どこか惚けたように潤んだ色で。
普段はきらきらとした意志の光が彩っている、快晴の空のような青なのに、それはまるでたゆたう海のような静かな青だった。
その顔が不意に笑み崩れる。
「ねぇ、よかったわね」
とろんと溶けたような声。柔らかなそれには含みも何もなくて、ただ純粋な喜びだけが感じ取れる。
それが判ったからヒル魔は困惑し喉元までせり上がった詰問をどうにか飲み下し、一言口にする。
「なにが」
「みんなそろったわ。みんな同じ夢を見て、同じ所へ向かって行くの」
それは普段ヒル魔に向けるものとは違うゆったりとした口調。
まるで母親が子供に言い聞かせるような甘さが滲んでいる。
ますます訳がわからない、と思った次の瞬間には、その身体がするりとヒル魔の胸元にすり寄る。
照度の低い部室の明かりの中でも白い腕が、ヒル魔の首に絡んだ。
呆気にとられたヒル魔はやすやすとその腕に捕まってしまう。
「お、い」
問いかけの言葉が途切れる。それに漏れた舌打ちも頼りなく小さい。
「だからね」
触れたのは一瞬。ふわりと甘ったるい香りが唇から侵入してくる。
あまりの事にヒル魔も二の句が継げない。
柔らかくそして滑らかに暖かい身体を預けたまま、まもりは微笑んだ。
「怖がらないで、あなたらしく戦ってね」
にっこりと笑うその顔は、普段の顔よりもずっと大人びて優しい。
まるで慈母のように。
「ずっとよ。ずっとクリスマスボウルまで・・・」
不意に言葉尻が不明瞭になる。その身体の重みが増して、ヒル魔は咄嗟にその身体に腕を回して支えてやる。
「・・・・・・また・・・その時に教えてね・・・・・・」
最後はもはや寝息だった。
がくりと力を完全に失った身体を抱えて、ヒル魔はしばし呆然と立ちつくす。
「・・・糞マネ」
返事はない。がくりと仰け反る身体を慎重に椅子に座らせ、先ほどのように部誌に覆い被さるように体勢を戻す。
そしておもむろに足を振り上げた。
今度はいらだちを多分に上乗せして椅子を足蹴にしてやる。
「オラッ、起きろ糞マネ!!」
「きゃあっ!! な、ななな何?! 地震?!」
想定通りの悲鳴。
「何うたた寝してんだ! さっさと支度しろ!」
「えっ!? え、あ~もうこんな時間~~!!」
想定通りの赤面。
「お前が帰らねぇと鍵掛けらんねぇだろ」
「あ…ご、ごめんなさい・・・・・・」
想定通りの謝罪。
そう。
これこそがヒル魔が先ほど想定した内容だった。寸分違わずまもりはその通りの反応を返した。
では先ほどのは何だったのか。
「寝言も凄かったなぁ~」
「え?! 私、寝言まで言ってた!? やだ、夢なんて見たのかしら・・・全然覚えてないわ!」
「ホー」
寝ぼけていたというのとはまた違うようだ。
あの口調、まるで予言者のように何もかもを知ったような感じだった。
唇に触れた甘さも、身体に巻き付いた柔らかい熱も、全てが夢のようで夢ではなかった。
目の前の存在がそういう対象になり得るのだと考えたことはあった。
だが優先事項じゃないので放っておいたのだが。
クリスマスボウルを契機にしてもいいかもしれない。
「・・・どうしたのヒル魔くん、何か悩み?」
一瞬考え込んでしまったヒル魔に、身支度を終えたまもりが声を掛ける。
「先ほどの糞マネの寝言の有効活用について考えてマシタ」
「やだーっ!! ちょっと、忘れて! 何言ったか覚えてないけどっ!」
「ケケケどうしよっかなぁ~」
「もう!」


そしてクリスマスボウルまでヒル魔はヒル魔らしく戦い抜き。
まもりの『寝言』を有効活用したのは言うまでもなく。


そして更に数年後。
今も変わらずブラックコーヒーを好むヒル魔に、まもりはカップを二つ持って来た。
一つは自分用のホットミルクだ。
「ねえ、夢を見たわ」
「あ?」
「私はあのカジノの部室で貴方に蹴り起こされるの」
「・・・あ?」
「ふふ、もう秋だったと思うわ。高校二年生の貴方に会った」
「あー」
「今もなんだか変わったような気がしないんだけど、今あの時の貴方を見たら、やっぱり若いしかわいいわ、なんて思っちゃった」
「あ」
「え?」
「いたいけな青少年の唇を奪った感想はいかがでしたか」
「え?! な、なんで知って・・・あら」
「ケケケ」
あの時の中身がこいつだったなら、あの時感じた違和感は間違いなかったわけだ。 
あいつは『また』と言った。また教えて欲しい、と。
それは既にこの状況を知った状態だったのだと今やっと腑に落ちた。
内心そう思ったが教えてやる気は毛頭無い。
答える気がないのを察して、軽く肩をすくめたまもりはぽっこりと膨らんだ腹をゆっくり撫でる。
「変なお父さんですねー」
「欲求不満なお母さんですネー」
「もう! やめてよね、そういうこと言うの!」
「胎教に悪いデスヨ」
「どっちがよ!」
ケケケ、と笑いながら同じようにその腹を撫でる。
この腹の中に自分と血を分ける生き物が入っている、というのが実感として伴わなかったが、今日になってやっと自覚できた気がする。
「ねえ」
「あ?」
「もしかしたら、この子が連れて行ってくれたのかな」
それに答えず、ヒル魔はもう一度ゆっくりとまもりの腹を撫でた。

存在するためなら出来ることは何でもする、か。お前は間違いなく俺の子だな。

そう思ったのが聞こえたかのように、腹の内側からぽこんと音がした。


***
ヒル魔さん家の家族話(捏造)も書いてみたいなーと思いながら書いてました。子供まだ胎児ですがな。
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