旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
アコが結婚するから是非来てね、と嬉しそうな顔で招待状を渡してくれた。
見るからに幸せそうで、左の薬指には輝く指輪。
付き合っている男の人のことは私も知っている。
所謂お似合いの二人、というやつだ。
私はきらびやかな封筒を持ち上げて蛍光灯に透かして見た。
勿論中身が透けて見えるはずはない。
そういう薄手の代物でもないのは一目見て知れる。
私がやったことはなんの意味もない。
ただ、角度を変えて見たかっただけ。
「なにやってんだ」
コーヒーのカップを片手にヒル魔くんが顔を出した。
私も飲みたくなって、お願いしてみる。
「ヒル魔くん、私もコーヒー飲みたい」
「おー」
あっさりとヒル魔くんは応じてキッチンに姿を消した。
いつからだろう、ヒル魔くんにこんな些細なことをお願いすることに違和感がなくなったのは。
最初は互いに距離感を図りかねることが多かったのに、段々とそれは減っていった。
「マンネリ、っていうのかな、こういうの」
「ア? なんか不満があるのかテメェ」
呟きに言葉が返る。
渡されたカップにはブラックとは程遠い液体が満ちている。
自分は死ぬほど嫌うくせに、私のカップには砂糖とミルクをたっぷりと入れてくれる。
こんなことが当たり前になるなんて、思わなかった。
・・・でも。
「末友アコの結婚式、か」
封筒の表書きを見てそう口にする。
ヒル魔くんの口から私の親友の名前が出てくるのはなんとも不思議な心地だ。
コーヒーに口をつけて、ふと尋ねる。
「そうよ。ヒル魔くんも行く?」
「アホか」
すっぱりと切って捨てられる。まあそうだ。
大体招待されていないのに行けるはずもないし、彼はこういうところを嫌うだろう。
「影響されたか」
それが一瞬、何のことかわからなかった。
探るように視線を向ければ、ヒル魔くんはじっとこちらを伺っている。
そうして私が意味を図りかねているのに気づいて補足する。
「マンネリ」
「あ」
「少し前のテメェの発言くらい覚えてろ」
小馬鹿にしてそう笑う彼に私は口をつぐむ。
いつからだろう、傍らでくつろぐ彼に違和感がなくなったのは。
「そういう意味じゃ、テメェは一言もねぇな」
ちらりと視線を向けられた招待状。
「親友が結婚するとなったら焦るんじゃねぇのか」
それに、私は笑みを浮かべた。
自分で言うのもなんだけど、困ったような顔をしたと思う。
ヒル魔くんのことは好きだけれど。
こうやって共に過ごすことも違和感がなく、幸せだけれど。
その延長上に結婚があるのだと言われても実感がわかない。
ヒル魔くんと夫婦になる、そんなことが実際にあり得るとは思えないのだ。
彼の意識に結婚という認識があるのか疑わしいくらいなのだし。
「なんだその面」
ヒル魔くんはカップをテーブルに置いた。
彼は驚くほど所作に音を立てず、その外見とは裏腹にとても静かだ。
それを知ったのはいつからだろう。
「なんかろくでもねぇこと考えてやがるな」
「そんなことないわよ」
それにヒル魔くんは舌打ちした。
「言いたいことがあるなら言え」
「別にないわ」
会話を打ち切った私にヒル魔くんは眉間に皺を寄せる。
不機嫌そうな顔に、私はカップを手にしてキッチンに退散することを決めた。
少し時間がたてば落ち着くだろう、そう踏んで。
「待て」
立ち上がりかけた私を、ヒル魔くんが引き止める。
「テメェは、それでいいわけか」
「何が?」
声は低く、唸るようだった。
急に鋭さを増した視線に、私は戸惑う。
「前はぽんぽん言いたいこと言ってた癖に、最近じゃ何も言わねぇじゃねぇか」
「そんなこと」
彼との距離感を掴むのが慣れただけで、言いたいことを言わないわけではない。
「ねぇって言えるのか」
ヒル魔くんは、嫌そうに、心底嫌そうに続けた。
「・・・テメェの親から電話が来たぞ」
「!!」
それに、私は息を呑んだ。
すうっと背筋が寒くなる。
「どういう了見だ、と聞かれた」
「・・・そう」
私は俯く。その機嫌の悪さに、どういう会話だったのか想像がつく。
きっと挨拶に来るべきだ、とか身辺を固めろ、とかそういった言葉だろう。
付き合ってもう長い。
一緒に生活するようにもなったし、心配する両親の言いたいこともわかる。
でも、ヒル魔くんとの間には結婚なんて甘ったるい単語はありえないから。
「ごめんね」
「ナニガ」
「気分悪くさせちゃって」
ぱ、と顔を上げて笑みを浮かべる。
殊更明るい声で、気にしないでねと続けて私は今度こそ立ち上がる。
ヒル魔くんの顔を見ていられなかった。
逃げ込んだキッチンでカップを洗っていたらため息が出てしまった。
「だから、ンな黙ってため息つくくらいなら言えっつってるだろ」
イライラと不機嫌な声が背後から飛んでくる。
「なんでもないわよ」
私は振り返ることもせず、ゆっくりとカップを拭う。
「・・・糞ッ」
ぐい、と肩を引かれる。
肩越しに振り返って見たヒル魔くんは、不機嫌さを露に口を開いた。
「テメェがどういうつもりだか全ッ然判らねぇ」
「どういうつもり、って。何も・・・」
「これだけ判りやすく話振ってやってんだろ」
「うちの両親の言うことを気にしてるなら・・・」
「違ぇ」
「じゃあ、何?」
私は疑問符を顔一面に貼り付けて、ヒル魔くんを見上げた。
どうにも理解できない私に、ヒル魔くんは舌打ちした。
「俺と結婚するのがそんなに嫌か」
その一言に、私は目を見開く。
「けっこん?」
思いがけないヒル魔くんの言葉に、私はひどく舌っ足らずになった。
意識がすっ飛んで、私の表情は全部消えた、と思う。
ヒル魔くんの中で『諦める』と同じくらいあり得ない言葉、『結婚』。
今のは空耳か幻聴か、とただただ呆然と立ち尽くす。
私の驚きように、ヒル魔くんは戸惑ったように言葉を重ねた。
「・・・今更したくねぇとか言うなよ」
「え、したいの?」
何も考えず問い返してしまい、今度こそヒル魔くんは絶句した。
言葉を捜すように瞬く眸は冗談など欠片もない。
「俺がテメェの親にどう答えたと思う」
「さあ・・・脅迫でもした?」
「何でそうなる」
ヒル魔くんの額に青筋が浮かんだ。
「俺は一生側に置くつもりもねぇ女と同棲しねぇっつった」
「へえ」
もう驚きすぎて思考がどこかに飛んでいってしまったらしい。
相槌がひどく適当になってしまった。
ヒル魔くんの声が尖る。
「テメェは違うのか」
「というか、ヒル魔くんが私と結婚するつもりがあるとは思ってなかったの」
結婚という単語を知ってるとも思わなかった、と内心で呟く。
さすがに呆けた頭でもそれを言えば彼が逆切れする確率が高いのはわかったから。
「・・・左様デスカ」
ヒル魔くんは疲れたようにこめかみを押さえた。
「次の日曜、テメェの実家行くぞ」
「なんで?」
「テメェは今までの俺の話、聞いてたか?」
「聞いてたけど、・・・なんでそうなるかがよくわからない」
「アアソウデスカ」
ヒル魔くんは投げやりな口調で喋りながら私の左手を取った。
ぐい、と素っ気無い手つきで薬指に指輪がねじ込まれる。
「これならわかりやすいだろ」
銀色のそれはプラチナだろうか。青い石が光を反射して煌く。
意外に身につけるものに煩い彼のことだから、安くはないだろう。
というか、なんでしょうか、これは。
まじまじと一言もなくそれを見ていたら、ヒル魔くんは深々と嘆息した。
「喜ぶか泣くかしろ」
「うん」
頷いてみたけれど、飛んでいった思考は中々戻ってこない。
ぼうっとした様子の私に、ヒル魔くんは舌打ちしつつも、おまけのように彼らしからぬ甘いキスをくれた。
***
『あねこん★サプライズ』提出作品その1でした。
どうにもタイトルが決まらず、唸った挙げ句主催者様に丸投げしてしまったという、ある意味思い出深い作品です(笑)私単独のは二本あったんですが、両方とも丸投げしました。タイトル決めるの苦手なんですよね・・・。いつもSSが書き上がってからタイトルを決めるのですが、物凄く時間が掛かってます。あれでも!(笑)
見るからに幸せそうで、左の薬指には輝く指輪。
付き合っている男の人のことは私も知っている。
所謂お似合いの二人、というやつだ。
私はきらびやかな封筒を持ち上げて蛍光灯に透かして見た。
勿論中身が透けて見えるはずはない。
そういう薄手の代物でもないのは一目見て知れる。
私がやったことはなんの意味もない。
ただ、角度を変えて見たかっただけ。
「なにやってんだ」
コーヒーのカップを片手にヒル魔くんが顔を出した。
私も飲みたくなって、お願いしてみる。
「ヒル魔くん、私もコーヒー飲みたい」
「おー」
あっさりとヒル魔くんは応じてキッチンに姿を消した。
いつからだろう、ヒル魔くんにこんな些細なことをお願いすることに違和感がなくなったのは。
最初は互いに距離感を図りかねることが多かったのに、段々とそれは減っていった。
「マンネリ、っていうのかな、こういうの」
「ア? なんか不満があるのかテメェ」
呟きに言葉が返る。
渡されたカップにはブラックとは程遠い液体が満ちている。
自分は死ぬほど嫌うくせに、私のカップには砂糖とミルクをたっぷりと入れてくれる。
こんなことが当たり前になるなんて、思わなかった。
・・・でも。
「末友アコの結婚式、か」
封筒の表書きを見てそう口にする。
ヒル魔くんの口から私の親友の名前が出てくるのはなんとも不思議な心地だ。
コーヒーに口をつけて、ふと尋ねる。
「そうよ。ヒル魔くんも行く?」
「アホか」
すっぱりと切って捨てられる。まあそうだ。
大体招待されていないのに行けるはずもないし、彼はこういうところを嫌うだろう。
「影響されたか」
それが一瞬、何のことかわからなかった。
探るように視線を向ければ、ヒル魔くんはじっとこちらを伺っている。
そうして私が意味を図りかねているのに気づいて補足する。
「マンネリ」
「あ」
「少し前のテメェの発言くらい覚えてろ」
小馬鹿にしてそう笑う彼に私は口をつぐむ。
いつからだろう、傍らでくつろぐ彼に違和感がなくなったのは。
「そういう意味じゃ、テメェは一言もねぇな」
ちらりと視線を向けられた招待状。
「親友が結婚するとなったら焦るんじゃねぇのか」
それに、私は笑みを浮かべた。
自分で言うのもなんだけど、困ったような顔をしたと思う。
ヒル魔くんのことは好きだけれど。
こうやって共に過ごすことも違和感がなく、幸せだけれど。
その延長上に結婚があるのだと言われても実感がわかない。
ヒル魔くんと夫婦になる、そんなことが実際にあり得るとは思えないのだ。
彼の意識に結婚という認識があるのか疑わしいくらいなのだし。
「なんだその面」
ヒル魔くんはカップをテーブルに置いた。
彼は驚くほど所作に音を立てず、その外見とは裏腹にとても静かだ。
それを知ったのはいつからだろう。
「なんかろくでもねぇこと考えてやがるな」
「そんなことないわよ」
それにヒル魔くんは舌打ちした。
「言いたいことがあるなら言え」
「別にないわ」
会話を打ち切った私にヒル魔くんは眉間に皺を寄せる。
不機嫌そうな顔に、私はカップを手にしてキッチンに退散することを決めた。
少し時間がたてば落ち着くだろう、そう踏んで。
「待て」
立ち上がりかけた私を、ヒル魔くんが引き止める。
「テメェは、それでいいわけか」
「何が?」
声は低く、唸るようだった。
急に鋭さを増した視線に、私は戸惑う。
「前はぽんぽん言いたいこと言ってた癖に、最近じゃ何も言わねぇじゃねぇか」
「そんなこと」
彼との距離感を掴むのが慣れただけで、言いたいことを言わないわけではない。
「ねぇって言えるのか」
ヒル魔くんは、嫌そうに、心底嫌そうに続けた。
「・・・テメェの親から電話が来たぞ」
「!!」
それに、私は息を呑んだ。
すうっと背筋が寒くなる。
「どういう了見だ、と聞かれた」
「・・・そう」
私は俯く。その機嫌の悪さに、どういう会話だったのか想像がつく。
きっと挨拶に来るべきだ、とか身辺を固めろ、とかそういった言葉だろう。
付き合ってもう長い。
一緒に生活するようにもなったし、心配する両親の言いたいこともわかる。
でも、ヒル魔くんとの間には結婚なんて甘ったるい単語はありえないから。
「ごめんね」
「ナニガ」
「気分悪くさせちゃって」
ぱ、と顔を上げて笑みを浮かべる。
殊更明るい声で、気にしないでねと続けて私は今度こそ立ち上がる。
ヒル魔くんの顔を見ていられなかった。
逃げ込んだキッチンでカップを洗っていたらため息が出てしまった。
「だから、ンな黙ってため息つくくらいなら言えっつってるだろ」
イライラと不機嫌な声が背後から飛んでくる。
「なんでもないわよ」
私は振り返ることもせず、ゆっくりとカップを拭う。
「・・・糞ッ」
ぐい、と肩を引かれる。
肩越しに振り返って見たヒル魔くんは、不機嫌さを露に口を開いた。
「テメェがどういうつもりだか全ッ然判らねぇ」
「どういうつもり、って。何も・・・」
「これだけ判りやすく話振ってやってんだろ」
「うちの両親の言うことを気にしてるなら・・・」
「違ぇ」
「じゃあ、何?」
私は疑問符を顔一面に貼り付けて、ヒル魔くんを見上げた。
どうにも理解できない私に、ヒル魔くんは舌打ちした。
「俺と結婚するのがそんなに嫌か」
その一言に、私は目を見開く。
「けっこん?」
思いがけないヒル魔くんの言葉に、私はひどく舌っ足らずになった。
意識がすっ飛んで、私の表情は全部消えた、と思う。
ヒル魔くんの中で『諦める』と同じくらいあり得ない言葉、『結婚』。
今のは空耳か幻聴か、とただただ呆然と立ち尽くす。
私の驚きように、ヒル魔くんは戸惑ったように言葉を重ねた。
「・・・今更したくねぇとか言うなよ」
「え、したいの?」
何も考えず問い返してしまい、今度こそヒル魔くんは絶句した。
言葉を捜すように瞬く眸は冗談など欠片もない。
「俺がテメェの親にどう答えたと思う」
「さあ・・・脅迫でもした?」
「何でそうなる」
ヒル魔くんの額に青筋が浮かんだ。
「俺は一生側に置くつもりもねぇ女と同棲しねぇっつった」
「へえ」
もう驚きすぎて思考がどこかに飛んでいってしまったらしい。
相槌がひどく適当になってしまった。
ヒル魔くんの声が尖る。
「テメェは違うのか」
「というか、ヒル魔くんが私と結婚するつもりがあるとは思ってなかったの」
結婚という単語を知ってるとも思わなかった、と内心で呟く。
さすがに呆けた頭でもそれを言えば彼が逆切れする確率が高いのはわかったから。
「・・・左様デスカ」
ヒル魔くんは疲れたようにこめかみを押さえた。
「次の日曜、テメェの実家行くぞ」
「なんで?」
「テメェは今までの俺の話、聞いてたか?」
「聞いてたけど、・・・なんでそうなるかがよくわからない」
「アアソウデスカ」
ヒル魔くんは投げやりな口調で喋りながら私の左手を取った。
ぐい、と素っ気無い手つきで薬指に指輪がねじ込まれる。
「これならわかりやすいだろ」
銀色のそれはプラチナだろうか。青い石が光を反射して煌く。
意外に身につけるものに煩い彼のことだから、安くはないだろう。
というか、なんでしょうか、これは。
まじまじと一言もなくそれを見ていたら、ヒル魔くんは深々と嘆息した。
「喜ぶか泣くかしろ」
「うん」
頷いてみたけれど、飛んでいった思考は中々戻ってこない。
ぼうっとした様子の私に、ヒル魔くんは舌打ちしつつも、おまけのように彼らしからぬ甘いキスをくれた。
***
『あねこん★サプライズ』提出作品その1でした。
どうにもタイトルが決まらず、唸った挙げ句主催者様に丸投げしてしまったという、ある意味思い出深い作品です(笑)私単独のは二本あったんですが、両方とも丸投げしました。タイトル決めるの苦手なんですよね・・・。いつもSSが書き上がってからタイトルを決めるのですが、物凄く時間が掛かってます。あれでも!(笑)
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プロフィール
HN:
鳥(とり)
HP:
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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