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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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合わせ鏡(下)



+ + + + + + + + + +
「今更な事聞きやがるなァ」
「そう? 俺が小夏と喧嘩したときのために聞いておきたいじゃない?」
ヒル魔はそれにぴんと片眉を上げると、飲み干したコーヒーの缶をゴミ箱に向かって投げた。
全盛期の鋭さはないにしても、まあまあの速度でそれは飛んで、ゴミ箱の縁にぶつかりながらもどうにか中に落ちた。
忌々しそうにヒル魔は舌打ちする。
「テメェはそんな風にはならねぇよ」
「その根拠は?」
ヒル魔は口角を上げた。
「置いて行かれる子供の気持ちを知ってるからな」
「・・・」
どれほどに悪影響かを、身を以て知っている以上はそんな愚を犯さないだろうと。
そうして、そんな事態に陥る前に動くだろうと。
「テメェは俺じゃねぇし、むしろ姉崎の方に近ぇんだ。そんな奴がほいほい喧嘩するわけねぇだろ」
「まあ、そうだけど」
争いごとは極力回避したい性格だと自他共に認める妖介。
それがたとえ些細な夫婦間の諍いであっても、頭を下げることも謝ることも厭わないだろう。
小夏もあまり我を通すことのない穏やかな性質だ。これから色々あるだろうが、根底は変わらないだろう。
妖介は飲み終えたミルクティの缶を投げた。が、縁に弾かれて缶は落ちた。
力だけはあるため、かなり手前まで戻ってくるのにため息をつく。
「あーあ。やっぱり精度じゃアヤに敵わないや」
ぼやきながら缶を拾いに向かう妖介の背に、ヒル魔の静かな声が掛かった。
「鏡」
振り返ると、そこにヒル魔はまっすぐに立っている。
夜よりもなお暗い闇のように、うち沈んで静かに。
その言葉の意味を考え、先ほどの問いの答えなのだと思い至る。
「母さんが、鏡・・・ねえ」
妖介は視線を外してゆっくりと缶を拾い上げ、今度は投げずにゴミ箱へと捨てる。
カランと乾いた音を立てるそれを遠くで聞きながら、ヒル魔に視線を戻した。
「どうして?」
「悪魔は鏡に映らないんだとよ」
そう言って、ヒル魔は公園の出口へと歩いて行く。
会話は終わりと言うことだろう。
その後を追いながら、妖介はその言葉の意味を考える。
それは、悪魔の影響を受けない存在だということか。
それとも、彼の弱点ということだろうか。
はたまた、鏡のように似ている部分があるとでも言うのか。
首を捻りながらの帰路も無言のままで、結局二人は会話らしい会話もないまま家に帰り着く。
よほど母に聞き直そうかと思ったが、わざわざ公園まで行ってした話だ。
ここで蒸し返すのはまずい気がしたし、もう教えて貰えないだろうという確信もあった。
けれど、去り際。
「ああ」
思い出したようににやりと口角を上げて。
「姉崎にとっての俺もそうらしいな」
「ええ?!」
ヒル魔はそう呟いて更に妖介の中に謎を残した。


互いは互いにとっての、鏡。
悪魔や天使は映し出せない、ただの人を映し出す鏡。
互いが『人』であると気づかせ、客観的な視点を持って自らを己たらしめることができる唯一の存在。
それは、彼が渇望していたと同時に忌み嫌っていた存在。
悪魔を装った外見だけではなく、平等平穏を望み優等生という仮面だけでなく。
互いの視線の先には素の自分をさらけ出すことができる。
むき出しのままの自らを晒すことはとても恐ろしいことなのだと知っていた二人が、それでも求めた存在。


『それなら』
歌うように。
『互いが互いを映し合ったのなら』
幸せに酔うように。頬を笑みに綻ばせて。
『その先は、無限に広がるわ』
まるで合わせ鏡みたいよね、とあの時まもりは呟いたのだ。

限りのない世界の扉を手に入れたのね、とも。


***
『輝かしき標』でヒル魔さんはまもりちゃんを何と表したのかというのを今更のように書いてみました。ヒル魔さんはまもりちゃんが傍らに来る前は悪魔として振る舞っていればよかったけれど、彼女が身近になってより『人』になっていったから、こういう風に考えていそうだなあと思った訳で。
本当は酒でも飲みながら、という場面にしたかったのですが妖介が酒癖悪いので止めました。
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