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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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ドルフィン・セラピー(下)

(ヒルまも)



+ + + + + + + + + +
「・・・この俺を呼び出すたぁ、随分出世したもんだナァ、糞チビ」
にやにやと質の悪い笑みを浮かべたヒル魔を前に、それでもセナは怯むことなく彼を見つめていた。
今日はテスト前で部活が休みなのだ。部室には彼ら以外の人影はない。
「聞きたいことがあります」
「ア?」
「まもり姉ちゃんの事で」
ヒル魔の片眉がぴんと上がった。彼の視線が一気にきつくなる。
かつてのセナであれば、この視線だけで竦みあがり、訳もわからず謝り倒しただろう。
「こないだ、ここに来たときに姉ちゃんは泣いてました」
「で?」
「・・・ヒル魔さんは、姉ちゃんの事をどう思ってるんですか?」
「どうって?」
飄々とした彼に、セナは一歩彼との距離を狭める。
「ヒル魔さんは!」
そこにいるのは、かつてのパシリと揶揄され見下されていた少年ではない。
「まもり姉ちゃんのことを好きだと思っていたけど、違ったんですか」
眼光鋭く、敵とみなす相手には牙を剥く。
「本当に姉ちゃんを便利に利用するだけ利用して、気まぐれに受け入れたフリをしただけなんですか」
語尾に低く熱く怒りを込めたようなセナの声に、ヒル魔はにやりと笑って見せた。
「テメェには関係ねぇ」
それはその通りだとも、どうとでも取ればいいとも判断できるような、不確定な笑みで。
真面目に話をする気がないのだと判断して、セナは一息に彼との距離を詰めた。
今まで一度だってそんな距離まで、彼に敵意を向けて狭めた事などなかったけれど。
息がかかりそうなほどに近い距離で、セナは苛烈な視線をヒル魔に向けた。
「なら、まもり姉ちゃんは僕がもらいます」
アイシールドを挟まず、遮る物がない視界で互いの視線が音を立ててぶつかる気がした。
けれどそれは一瞬。
セナはすっと体を離すと、軽やかに部室を走り去った。
そうして残ったのはヒル魔一人。
「・・・―――糞!!」
手近にあったパイプ椅子を勢い良く蹴り上げる。
それは天井近くまで上がって、派手な音を立てて床に落下する。
無様な光景に、彼は唇を歪めた。

―――本当に無様なのは、誰かはよくわかっている。

テスト期間も終盤に近づいてきている。
いい加減体がなまっちゃうよ、とぼやくセナと、久しぶりに一緒に下校しながらもまもりの顔は晴れない。
「ヒル魔さんのこと、考えてる?」
「・・・ええ」
消沈するまもりがかわいそうで、セナは何か慰められないかと思案する。
この一つ年上の、きれいでやさしい幼馴染を、あの彼が、誰よりも笑顔にしてくれるのだと信じていたのに。
「おい」
不意にかけられた声に、二人はぴたりと足を止めた。
足音も立てず近づいてきたのは今、二人の心に去来していたヒル魔その人で。
目を見開き固まったまもりの腕を掴むと、彼は強引に彼女を連れ去る。
後に残されたセナはしばし呆然と立ち尽くしていたが、ふうと細く嘆息すると、自宅へと再び歩き始めた。
気持ちちょっと軽い足取りで。

「ちょっと!? どこ、行くの!?」
「その辺」
「なっ、ちょ、もう! ・・・いい加減にして!!」
あくまでも真面目に取り合わない様子のヒル魔に、まもりは腕を強引に取り戻す。
気付けば黒美嵯川の土手まで出てきていた。
春先、昼下がりでうららかな日差しの下、穏やかな空気が漂うそこにはそぐわない二人。
「アメリカから帰ってきて今まで全然私のことなんて気にしてなかったのに、一体何よ!」
きつく睨みつけるまもりを見下ろし、ヒル魔は小さく息をついた。
「気にしてなかった訳じゃねぇ」
「じゃあ、何で?!」
「糞チビとテメェを空港で見た時に、思った」
楽しげに会話をする二人。
もちろん他にも部員達もいたけれど、仲睦まじく寄り添うような二人を遠目に見て、果たして自分はあの隣にいていいものかと思った、という、密やかな告白。
「テメェが本当に笑っていられるのはそっちなんじゃねぇか、とな」
「・・・な・・・」
まもりは絶句し、まじまじと目の前の男を見る。
この男、本当にヒル魔だろうか。
あれほど傲岸不遜で我が道を行く人だったはずなのに。
驚愕に硬直していた喉が、漸く一言目を音にする。
「・・・もう逃がさない、ってあの日、ヒル魔くんは言ったじゃない・・・」
その声が震えているのを自覚した瞬間、堰を切ったように言葉があふれ出した。
「帰ってくるの楽しみにしてたのに! 出発前ああ言ってくれて嬉しかったのに! 寂しかったのに! 最初から全部同情かと思って怖かったのに! 最初は、そりゃセナが好きだったけど、もう今は、そうじゃないって言ったのに・・・!!」
声は次第にヒステリックじみた音を孕み、涙に滲み、怒りに割れる。
聞き取りづらいそれを発しながら、相当にひどい様子なのだろうとどこか冷静になってしまう部分でまもりはそう自覚する。
こんな状態で喚き立てれば、面倒だと彼は立ち去ってしまうだろう、とも。
けれど。
どこか安堵したように、ヒル魔はまもりを抱き寄せた。
少ないとはいえ人目にさらされる土手、彼の思いがけない行動にまもりは驚き黙り込む。
まもりの額に己のそれを押し当てて、ヒル魔は囁いた。
「俺はまたアメリカに行く」
それにまもりは息を呑むが、彼女が口を開く前にヒル魔が続ける。
「そのときはテメェも一緒に連れて行くから、安心しろ」
「なによ、それ・・・私の意志は関係ないの?」
額を離したヒル魔を見上げてみれば、彼は見慣れた笑みを浮かべて言い切った。
「テメェの希望どおり、だろ?」
それにまもりはかわいらしい平手を彼の背にお見舞いする事で応えたのだった。



数日後。
部活の練習中、新たに入った一年生マネージャーが青ざめながらセナの元へ歩み寄ってきた。
「小早川先輩、ちょっと、いいですか?」
「なに? どうかした?」
「ちょっと・・・あの、あそこにいる男の人が、小早川先輩を呼べ、と・・・」
歯切れの悪い後輩の声に、セナは視線をそちらに向け。
そして青くなって慌てて彼に駆け寄る。
「ヒ、ヒル魔さん?! どうかしました?!」
「おー」
のんびりした口調で応じる彼の手にはマシンガン。格好がなぜかジャージなのが気にかかる。
「テメェには礼をしねぇといけねぇと思ってナァ」
「れ、礼・・・?」
「よくもまあ、あそこまで俺に言ったモンだナァ?」
「・・・ああ!」
あの事か、と自らの手を打ち合わせた彼に、ヒル魔の冷たい視線が向かう。
「いや、ええと、本気でそう思ったわけじゃなくて、その・・・」
「大方、糞チアの入れ知恵だろうが」
「あ、そうです」
ほっと息をつくセナにヒル魔の口角が上がる。
「女の入れ知恵で俺に楯突くとはナァ・・・」
ジャキン、と音を立てて銃口が彼に向かう。
「ひ、ひいいいい?!」
「俺が不在の三ヶ月で腑抜けた根性、叩きなおしてやる!!」
ダパラララララ、と聞きなれた銃声を響かせながら追うヒル魔と、泡を食って逃げるセナ。
「ちょっと、何やってるの、ヒル魔くん!!」
そしてその二人の間に飛び込んできたモップ片手の元マネージャーの姿。

「やー、元通りに戻ったみたいで何よりだね!」
彼らの姿を見て、満足げに鈴音は笑ったのだった。

***
昂様リクエスト『トリックスターの続き』でした。細かく指示を頂きましたが拾い切れてますか!? 環境が違う所で書くのは難しかったです(苦笑)この場合のドルフィンは鈴音ちゃんですね。一番弱った人の所に行くのだという話を聞いたことがあったので。楽しくかけました♪リクエストありがとうございましたー!!

昂様のみお持ち帰り可。
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