忍者ブログ
旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

* admin *  * write *  * res *
[638]  [639]  [637]  [635]  [636]  [634]  [632]  [633]  [629]  [631]  [630
<<08 * 09/1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30  *  10>>
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ドルフィン・セラピー(上)

(ヒルまも)
※『トリックスター』の続きです
※リクエスト作品


+ + + + + + + + + +
アメリカから日本まで、場所にも寄るけどおおまかに十時間ちょっと。
たいした距離じゃない。
いまや交通手段は発達し、通信手段もデジタルであれば即時に、アナログであっても数日で手元に届く。

それでも、遠く離れてしまうのは。


三ヶ月間という休学期間をいっぱいに使って、ヒル魔は帰国した。
悠然と現れた彼に、空港で今か今かと待っていた面々がぱあっと顔を明るくした。
「ヒル魔! おかえりー!!」
ひときわ大きな声で出迎える栗田を筆頭に、泥門デビルバッツの面々が勢ぞろいしている。
頼まれなくても彼の荷物を手にするのはどこまでもパシリ根性が抜けきらないセナで。
そんなことしなくても、と苦笑するまもりに言われてもこれくらいは、と荷物を譲らない。
素直に出迎えず憎まれ口を叩くライン組にはかつてと同じく銃口が突きつけられ。
はしゃぐ鈴音にもどこか皮肉めいた笑みを浮かべる彼は。
「おかえりなさい」
「おー」
笑顔で出迎えたまもりに対してもそっけない一言で応じ、ふいと視線をはずす。
「・・・?」
それに漠然とした不安を抱えながらも、今は帰国したばかりで疲れているのだろうと、まもりは自分に言い聞かせた。


クリスマスボウルが終って、いくつか変化した事。
ヒル魔を筆頭とした新三年生が引退し、部活に出なくなった。
それに伴い、新たなる部長が決まり、新生デビルバッツとしてスタートした。
そうなれば当然、まもりもマネージャー業から手を引く事となる。
とはいえ、ヒル魔がいない間に彼女も大まかな引継ぎを終えており、引継書も作成しておいたのでさして問題は生じていない。
アメフト部にはもう、新二年生と新一年生しかいないのだ。
「寂しい?」
当然朝練もなく、一般の生徒と同じ時刻に登校して来たヒル魔にそう問いかけてみても。
「ベツニ」
ヒル魔はひどくそっけない。
「・・・私、何かした?」
「そう思うのか?」
質問を質問で返され、まもりは首を振る。
それをちらりと見てヒル魔は、なら違うんだろ、とだけ答えた。

関東大会から、クリスマスボウルまでの短い間だけ、二人は並んで帰っていた。
偽装の恋人同士だと騙りあっていたけれど、あの手のぬくもりは本物で。
そうして、文字通り体一つでぶつかったクリスマスボウルの翌日に、思いは通じ合ったと思ったのに。
違ったのだろうか。
まもりは携帯を取り出し、開く。
友達とも、他のアメフト部の面々とも違うフォルダに、大切に分けてあるメール。
ヒル魔とやり取りをしたメールだ。
彼がアメリカに行っている間は、所在が知れなかったのでメールだけが頼りだった。
新たなる部長が決まったこと、アメフト部に受験前から新入予定の生徒がたくさん見学に来たこと、セナと鈴音が付き合い始めたこと。
まもりは意味の無いメールはわずらわしいだけだろうと、何くれと無く情報を仕入れては彼に連絡していた。
そうであれば一言、二言ではあったが、彼は必ず返事をくれたから。
メールは彼がアメリカをこれから出立するという連絡を最後に、途切れている。
今、このアドレスにメールを打ったら、返事が来るだろうか。
けれど生身で目の前に、アメリカと日本ほど隔たってもいない現状で、言葉を投げかけても返って来ないのに、メールでだけ返事が来ても
、・・・虚しいだけだ。
あのコート越しに触れた体温も、あの言葉も、全部あの場限りの気まぐれだったのだろうか。
それ以前からの恋人同士を騙りあったあのときから、すべてはただの同情で、それがまだ尾を引いているだけだったりしないだろうか。
ヒル魔の考えている事がわからない。
まもりは一人携帯を握り締め、空を仰ぐ。
春の穏やかな空気に夕闇も朧で、穏やかでない彼女の心と反比例するようだ。
まもりは嘆息し、足早に家路を急ぐ。
一人きりで。

久しぶりにレモンのはちみつ漬けを手土産に、まもりはアメフト部の扉を叩いた。
新しいマネージャーがいる以上、あまり顔を出す事はよくないだろうとわかっているが、セナの顔が見たかったのだ。
部活がある彼との接点は、学校内にほとんどないから、こうでもしないと顔をあわせられない。
「お、マネージャー! どもっす!」
「こんにちは、姉崎先輩!」
部活が始まる前のひと時だったらしく、ほとんどの部員が揃っている。
思わぬ大人数に思わずまもりはたたらを踏んだが、おくびにも出さず手にした包みを持ち上げる。
「こんにちは。久しぶりに作ったの。少しだけど、差し入れよ」
「わーやったー! はちみつレモンだー!」
「あざっす!!」
「こらいきなり大量に食うな!」
目を輝かせてレモンを奪い合う面々に対し、鈴音はきょろりとそれを微笑んで見守っているまもりを見つめ、それからセナに歩み寄ってな
にやら耳打ちする。
セナは鈴音といくつか会話した後、まもりを伴い、そっと部室を抜け出した。
「・・・ごめんね、ミーティング中だったんでしょ?」
「ううん。今は雑談。ほら、グラウンド調整とかで今日は使用開始が一時間遅いんだ」
「あ、そうなのね」
部活から遠ざかった今は、何曜日にいつどこがグラウンドを使用するのかさえよくわからない。
まもりは懐かしむようにグラウンドを眺める。
「・・・ヒル魔さんの、こと?」
「っ」
ためらいがちでありながら、的確なセナの言葉にまもりは僅かに肩を振るわせた。
「わかっちゃった?」
「うん。・・・とはいっても、鈴音が気付いたんだけどね」
笑みを浮かべるセナに、まもりも笑みを浮かべる。
かつて思いを寄せた相手が幸せだと知れる表情にそれだけで満たされるような気がする。
「ヒル魔さんとは、あれから話してないの?」
「うーん・・・完全無視とまではいかないんだけど・・・」
言葉の切れが悪いまもりに、セナは眉を寄せる。
「あんまりね、話しかけてもそっけないし、あっちから声をかけてくることもないの」
「そうなの?」
「だからもしかして、うまくいったと思ってたの、私だけなのかなあ、って思ったら・・・」
不意にまもりの視界がにじむ。慌ててまもりはハンカチで目元を拭った。
「ごめんね、勝手に愚痴りに来て勝手に泣いてて」
「ううん。僕でよかったらいくらでも聞くよ」
「鈴音ちゃんに疑われちゃうわよ。・・・なんてね。こうやって二人にしてくれてる時点でそんな風には思わないわよね」
「そうだね。僕より鈴音の方がずっと人の気持ちがわかるから」
「あら、早速惚気?」
「ちょ、まもり姉ちゃん!」
冗談よ、と笑って、まもりはここに来たときよりは格段にすっきりした気持ちでセナに笑いかけた。
その背後で、音も立てずヒル魔が歩み去った事には二人とも気付かないままに。

まもりがそれから何度となく話をしようとしても、意を決してメールを送ってみても、ヒル魔は相変わらずそっけないままで。
日ごとにまもりが憔悴していく様を見たセナは、何かを思い決めたようだった。


<続>
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

管理人のみ閲覧可能にする    
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
08 2024/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
カウンター
プロフィール
HN:
鳥(とり)
性別:
女性
趣味:
旅行と読書
自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。

【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
最新コメント
[01/05 鳥]
[01/05 NONAME]
[10/21 NONAME]
[10/11 坂上]
[10/02 坂上]
最新トラックバック
バーコード
ブログ内検索
アクセス解析
フリーエリア
powered by NINJA TOOLS // appeal: 忍者ブログ / [PR]

template by ゆきぱんだ  //  Copyright: hoboniti*kotori All Rights Reserved