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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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プロフィトロール(上)

(軍人シリーズ)
※リクエスト作品






+ + + + + + + + + +
まもりはちらりと壁に掛けてある時計を見て、それから手元を見た。
いつも帰宅する時間はとっくに過ぎていて、用意しておいた夕食もすっかり冷めてしまった。
保存が利く物はいいけれど、いい刺身があったのに、と残念で仕方ない。
明日の鍋の具材にでもしてしまおう。
まもりは結婚してから料理をするようになった。
それまでは一人暮らし、料理はせずその場にある食べられるものをそのまま食べるだけだったので、かなり栄養状態は悪かった。
顔色の悪さと原因に気づいたヒル魔に指摘されてからそれは随分と改善され、今では料理が趣味と言える程に成長した。
それも食べてくれる人がいての話なので、一人のままだったらきっと料理はしなかっただろう。
それはさておき。
ヒル魔が連絡もなく遅いのは珍しいことだ。
というか、今回が初めてではないだろうか。
行軍中なら予定変更があるだろうし、自分も同じように随行するから問題はない。
けれど今は幸いさほど忙しくないため、デスクワークと鍛錬に明け暮れる日々が続いているはずだった。
まさか急な出陣が、とも考えたが、それなら立場上は上司であるまもりの方に連絡が来ないのはおかしいことだ。
食事の支度があるから、と先に出たのは不味かっただろうか。
まもりは悶々と悩み始めた。
今日はさて何の日だろうかと考えてみれば、結婚してから三ヶ月目だと気づく。
俗世間的には3の数字がつく期間というのは危険なのだという。
この頃から中だるみが出たり、理想と現実の境目が如実になったり、相手のアラが見えて幻滅したりするのだという。
まもりは今までの彼のことを思い浮かべてみるが、当初の印象が悪すぎたのでその後は良いところばかりが目に付くという、人が聞いたら随分な惚気状態だ。
彼女側としては今更の不平不満はないということになる。
では彼は?
まもりはこのところの彼の行動を思い返す。
○仕事の事務処理は普通にこなしていた。
○鍛錬はときどきいきすぎてるので注意をした。
○イレギュラーな戦争の話は聞いていない。
○つまりヒマ。
○私生活では、昨日シュークリームについて聞かれたので語ったら心底嫌そうな顔をされた。
○悔しかったのでコーヒーに砂糖を入れて出してやった。
○その後オシオキと称して遅くまでのし掛かられた。
思わずまもりは見事なまでに顰めっ面になった。
その頬が僅かに赤くなければ、思い出し怒りか、と周囲が戦々恐々とするだろう表情。
実際は照れているだけなのだけれど。
倦怠期とはまだほど遠いし、身体の繋がりが途絶えているわけでもない。
それでも、とまもりはしんと冷えた室内を振り返る。
彼一人がいないだけで室内が薄暗く感じる。
照明の数や明度の話ではなく、彼の存在感の有無によるものとでも言うのだろうか。
彼は悪魔のようで実際悪魔じみたことをやってのける悪魔だけれども。
その魅力は味方の部隊隊員たちだけに留まらず、様々な女性との華やかな噂で彩られている。
本質的に悪魔というところだけであればあれほどに女性は騒がないだろう。
妻であるまもりがいても尚、噂は後を絶たない。
つい先日も書庫付きの才色兼備な女性と連れ立って歩いていたと聞かされたばかり。
自分が、ヒル魔が吹聴出来るほどの出来た妻であったり、魅力があったりすればそういった噂もないのだろうけれど、とまもりは静かに落ち込む。
自分の外見についても内面についてもヒル魔が自分を選んだ要素が相変わらず見いだせないままなのだ。
彼のことを物好きだな、と思う程に。

ヒル魔がいないのに一人ぬくぬくとしているのも何となく嫌で、まもりはソファに毛布を被って座り、本を手に取る。
とりあえず今は本の世界に没頭し、彼を待っていようと決めた。


「帰ったぞ」
声を掛けてもまもりの応答はない。
当然か、とヒル魔は腕時計を見る。既に日付が越えて結構経ってしまっていた。
思ったより時間が掛かったな、と自らに染みつく甘い香りに渋い顔をする。
とりあえずこのままシャワーを浴びて眠り、明日の朝になったら何喰わぬ顔で土産を差し出せばいい。
どんな顔をするだろうか、と鼻歌交じりでリビングの扉を開いた彼は。
ソファで毛布にくるまって寝息を立てるまもりの姿に固まった。
「・・・ア?」
見れば床には本が落ちている。
ああ、待ち疲れて眠ったのか・・・と思う反面、なぜ蓑虫みたいな有様なのかと訝しむ。
この家はそれなりに新しくしっかりとした造りなので、一度暖房を入れて暖まれば毛布などなくても過ごせるはずなのに。
最初から眠る気なら寝室に下がっているだろうに。
ひんやりとした空気に暖房も付けず一人待っていたらしい彼女に眉を寄せ、ヒル魔は土産をテーブルに置いてそっと彼女を抱き上げる。
ふわりと漂う甘い香り。
まもりはそれに気づき、ゆるりと意識を取り戻す。
「・・・妖一?」
「起きたか。テメェなんで暖房も付けねぇで待ってるんだ」
「一人で暖房なんて勿体ない・・・」
「そんなにウチは貧乏じゃねぇだろ!」
「だって・・・」
噛みつく彼にまもりは更に言いつのろうとして、先ほど感じた甘い香りの出所が彼の身体なのだと気づく。
甘い物が大ッッッッッ嫌いだと公言する彼から、甘い香り。
まもりは目を見開いて硬直した。
まもりの様子がおかしいことに気づいたヒル魔が声を上げるより前に。
ぼろぼろとまもりの瞳から涙があふれ出した。
見開いたままの青い瞳が溶けて流れてしまうのでは、と危惧する程に勢いよく、とめどなく涙がこぼれる。
「な・・・」
ヒル魔も驚き固まる。
彼が本来嫌っているはずのものも厭わず傍らに、匂いが染みつく程に側においていられる人がいる。
彼から一番遠いと思われる匂いが、こんなに染みつく程に、彼は何をしていたのだろうか。
まもりが一人で待っていると知っているのに、何も言わないでこんなに遅くまで帰ってこないままで。

わたしは、寂しかったのに。
あなたは、誰と、いたの?

「おい、まもり、泣くな」
困惑した声に、まもりはようやく視線を彼に向けた。
そして何かに気づいたようにゆるりと手を上げて自分の頬に触れる。
「あら・・・」
「あら、じゃねぇ! 何泣いてやがる!」
怒鳴る声に、まもりは微笑もうとして、けれどぴくりとも表情が動かないまま、緩慢に小首を傾げる。
「さあ・・・?」
「さあ、って」
一体何なんだ、と言おうとしたヒル魔の腕からまもりはするりと抜け出した。
ひんやりと冷たい床にぺたりと立つ。
「もう寝ます。おやすみなさい」
その冷たい床よりも冷たい顔と声音で、まもりは静かに寝室へと向かう。
どことなく悄然としたその肩を、ヒル魔の強靱な手が掴んだ。
「ンなツラしておいて何が『さあ』だ! 思ったことがあるならちゃんと言え!」
けれどまもりはただ首を振って俯くだけだ。
ぽたぽたと床に涙の染みが出来る。
「何もないです」
「テメッ」
ヒル魔の怒りを帯びた声にも、まもりは顔を上げない。
みっともないという自覚はある。
こんな、いい年をした大人が子供のように泣いているなんて。
ふう、とため息。
「泣くな」
そうして宥めるように優しく頭を撫でる手。
けれどそこに染みつく甘い香りに、まもりは嫌がって一歩引く。
「っこの・・・!」
ヒル魔は舌打ちするとまもりを強引にその胸に抱き込んだ。
「嫌・・・ッ!」
悲痛な声を上げ、まもりは必死に逃げ出そうと藻掻く。
それが照れや恥じらいからではなく本気で嫌がっているのだと判って、ヒル魔の眉が寄った。

<続>
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