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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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遥かなる庭園

(ヒルまもパロ)
※執事ヒル魔と女主人まもり
※リクエスト作品


+ + + + + + + + + +
日本には石造りの家は向かないと誰もが口にする。
夏は高温多湿で冬は乾燥する場所に洋館など不向きだ、と。
けれどその場所はまるでそんな気候をまるっきり無視して存在していた。
見上げる程の巨大な洋館。
堅牢な石造りの門扉から玄関までの距離は遠く、車での送迎が必要になる。
驚くべき事に、そこに住まうのはたった一人の少女だという。
近所の者たちもしかとは姿を見たことのないその娘は、名を姉崎まもりという。

まもりは片手をハンドレストに預けた状態で悠然と隣に立つ青年を見上げた。
彼の名は蛭魔妖一、姉崎家に使える執事である。
「それで?」
「今晩行われます夜会にお越しになる鳳家の嫡子が最適かと」
「そう。資料を頂戴」
「はい」
金髪をなでつけ、細身の黒服に身を包んだヒル魔はすかさず彼女の前に資料を提示した。
メイドにネイルを塗らせている彼女が書類を持たずともその資料が目に入るように。
「ふうん」
姉崎家はまもり以外の主立った親族が全て絶えている。
莫大な資産は彼女一人のものとなり、彼女を手に入れた者はすなわち姉崎家の財産も全て手に入れることになる。見た目は麗しい青年の写真を、彼女は侮蔑の眼差しで見つめて顎で下げるように示した。
「家柄も良く、文武両道に秀でておられます。お生まれは二番目、長子が鳳家を継がれますので相手側の家督相続の争いはございません」
「そう。・・・ご苦労様、下がりなさい」
ネイルが塗り終わり、メイドが道具を手に頭を下げて立ち去る。
「で、裏は」
「女関係がだらしなく、相当数遊んでおります。堕胎させた女の数は数知れず。財産の食いつぶしも目立ちます」
先ほど褒めた男を、ヒル魔は容赦なく切って捨てる。
「想定内だわ」
ネイルを塗っていたメイドが間者だと知って彼女らは泳がせている。
報告を受けてほいほいとやって来た男には相応の対応をするつもりだった。
「鳳家は厄介者の引取先を探しておいでです」
「自分の家で責任持って八つ裂きにして犬にでも喰わせればいいわ」
くだらない、と彼女は美しく整えられた爪を眺めながら彼に命じた。
「靴を履かせなさい」
「かしこまりました」
ヒル魔は深々と頭を下げた。

姉崎家の財産は彼女一人の手腕で全て管理されている。
当初家を継いだときには年端もいかない少女だった彼女に後見人を付けさせようと。
そしてあわよくば自らがその立場になり、甘い蜜を吸おうと。
どこまで辿れば繋がるのか不明なほどの遠縁が口出しした時、彼女は嫣然と笑って言った。
「私は姉崎家を継いだ者。私は私にのみ従い、後見人なぞ不要です」
たかが少女になにが出来る、といきり立った男達の前に立ちはだかったのはヒル魔だった。
執事風情が、と口汚く罵る男達にも彼は引かなかった。
「私は姉崎家に使える執事。私がまもり様をお守りします」
そして彼が名義上の後見人となり、実質は全く変わることなくまもりが管理することとなった。
まもりは波のように現れては消える金の亡者達を前にしても始終冷徹な笑みを浮かべて応対した。
「私は私の身の丈にあった財産の管理をしているだけです」
幼い彼女はその時もう既に、桁外れな屋敷においても、どんなきらびやかな場所に存在しても、誰もが無条件に平伏したくなる程の威圧感を身につけていた。
当初アリのように群がった遠縁の者たちも、彼女が不動産などの固定資産の他にある流動資産を巧みに操り、市場を席巻するのを目の当たりにして自分の身可愛さに何も言わず遠巻きにするようになった。
彼女こそ姉崎家の象徴であり、財産を有するに値する女性である。
誰一人その評価を覆すことは出来ず、彼女はつい先日後見人を必要としなくなる年齢へと達し、誰もが認める主となったのだった。

まもりは執務室に山積みになった書類をチェックし、印を押した。
傍らにはヒル魔。
「お茶のお時間です」
手早く纏められた書類の束と引き替えに、ティーカップが置かれる。
音も立てず現れたそれを躊躇いなく持ち上げ、カップに口を付ける。
香り高い、綺麗な水色の紅茶にふっとまもりは笑みを零した。
「新しい茶葉ね」
「昨日、初摘みが入りました」
「そう」
気に入ったようで穏やかな顔で紅茶を味わう彼女に、ヒル魔は静かな笑みを浮かべてその場を後にした。

まもりとヒル魔は一回り年が離れている。
ヒル魔はまもりの先代に仕え、仕事の全てをたたき込まれ、そうして主が変わった今も変わらず仕事をこなしている。
まだ先代が存命だった頃、まもりは彼と共によく遊びに出掛けたものだった。
広々とした敷地は遊ぶには事欠かなかったし、彼はまもりの我が儘も嫌な顔一つせず付き従っていた。
まもりは彼が側にいるのが当たり前だと思っていたし、彼もそうだと思っていた。
けれど。
まもりは聞いてしまったのだ。
先代が息を引き取る前に、彼と交わした会話を。
まもりはベッドの傍らで突っ伏して瞳を閉じていた。
眠っているのだと思ったのだろう。
頭を撫でる先代の声は潜められていたが、まもりの耳にはハッキリと届いた。
(どうかまもりのことを、この家を、守って欲しい)
(それがご命令なら、執事として側におりましょう)
命令。
まもりは聡い子供だった。悲しい程に。
彼がまもりの側にいるのは先代の命令に過ぎないのだと、その会話だけですぐ理解した。
年が離れた少女の面倒を見る理由はそれ以外にないだろう。
その時になって、まもりは彼を好きなのだと理解したが、口に出せるはずもない。
先代が亡くなった後、後見人の問題が出たとき、あまりに膨大な財産を管理するなんて幼い自分には無理だと思った。
だが、同時にこの財産を失えば、彼と離れることになるのだとも気づいた。
ヒル魔がまもりの側にいるのは先代の命令に他ならないのだ。
この家がなければ、まもりを守る理由は失われる。
無理でもなんでも、主の座を失わず彼の主であり続けなければならない。
・・・絶対に。

近頃数多く舞い込むようになった見合い話。
あからさまなものもあれば、偶然を装うようなものまで。
多種多様な仕掛けでもって、まもりの興味を引こうと躍起になっている。
無駄なことを、とまもりは内心で嘲笑する。
彼以外の男となど心を通わせることなどありえないのに。
けれど一方で、自分の面倒ばかりで彼自身の幸せはどこにあるのだろうか、とも思うのだ。
彼の幸せを思えば、彼自身を解雇することも必要なのかも知れない。
まもりは立ち上がり、窓の側に立つ。
よく手入れされた緑の芝生を眺め、思いを馳せる。
かつてあの上ではしゃぎ回ったのが遥か彼方にある夢のようだ。
羨むようにそれを眺めたまもりは、頭を振って再び自席に戻る。
まだ仕事は山のようにある。
今は仕事に没頭していたかった。
全てを忘れ、全てから目を覆うために。


程なく室内に戻ったヒル魔は、黙々と仕事をこなす彼女の姿を怜悧な表情で見守っていた。

***
1/10メルフォにて匿名希望様にリクエストいただいた『執事ヒル魔とあくまでもご主人様のまもりさん』でした。黒/執/事/風にしてもいいかな~とは思ったのですが、まんますぎてつまらないのでフツーに執事にしてみました。そしたらヒル魔さんがヒル魔さんらしくなくてもうどうしたら。
リクエストありがとうございましたー!!

該当者の方のみお持ち帰り可。
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