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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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「生きるべきか、死すべきか」(下)



+ + + + + + + + + +
シェイクスピア原作の【ハムレット】は言わずもがな悲劇である。

父である王の急死、そして母の早すぎる再婚。
母の再婚相手である王の弟、クローディアスが父の敵であることを父の亡霊から聞かされた王子ハムレットは復讐のために狂気を装う。
彼の狂気の理由を報われぬ恋だとした宰相ボローニアスは彼の娘でありハムレットの恋人であったオフィーリアに探りを入れさせるが、結果としてこの二人も死に追いやってしまう。父と妹を殺されたボローニアスの息子レアティーズはハムレットに危惧を抱く現王クローディアスと結託し毒剣と毒酒で彼を殺そうとするが、王妃が毒酒と知らず誤って杯を空け、レアティーズも毒剣で死に至る。同じように毒剣で傷ついたハムレットは死にゆくレアティーズから事の真相を聞き出し、現王を殺した後、親友に事の顛末を語り伝えるよう願い、自らも死を迎えるのだ―――

パンフレットを見た雪光がひそりと囁く。
「全部をやると長いから、前半は端折るみたいだね」
「一体、誰がハムレットをやるんですか?」
「さあ・・・」
アメフト部から他に誰かが出たという話もない。
部員達は皆揃って顔を見合わせたが、見当は付かなかった。

噂話をする街の人々が会話を交わし、ハムレットが狂気に至るまでの状況説明を兼ねて表現していた。
「ああ、おかわいそうな王子様!」
その台詞と共に照明が落ち、場面転換する。
薄暗い室内、そこに佇む人影。
そこにまもり扮するオフィーリアが、豪奢なドレスに身を包んで現れた。
客席でどよめきが起こる中、彼女は緊張した面持ちで室内にいる男に声を掛ける。
「ハムレット様。お加減はいかがですか?」
「加減がいい日など、父が死んだあの時からあろうはずがない」
滑らかに低く、通る声。
薄闇の男にスポットライトが当たる。
その瞬間、誰もが見慣れない男に目を瞬かせた。
さらりと流れる金髪、怜悧な表情。
長い台詞も滑らかに口にし、堂々とした立ち振る舞いに演劇部の誰かかと考えるが、それとも違うようだ。
それにしても、あの細いシルエット、どこかで見たことがあるような・・・?
それでも舞台が進むうちに、金髪の隙間から尖った耳が見えた瞬間、誰もが息を呑んだ。
(あ!!)
(あれ、まさか!?)
(ヒル魔!?)
ステージではハムレットから怒号をまともに食らい、オフィーリアは涙を零してその場を立ち去る。
彼女の姿を冷徹に見つめ、彼が視線を外し嘆息したところで再び照明が落ちた。

場面転換のため暗転した瞬間、観客席は一斉にどよめいた。
「い、今の、ヒル魔さん?!」
「ななななんで?! なんで妖兄が舞台にいるの?!」
なんでヒル魔が、どうして主役で、と生徒のどよめきは次第に大きくなる。
そりゃ十文字は病気だから出られないのは仕方ないのだけれど。
いや似合ってたけど! 台詞も間違えてる様子もなく、堂々としてたけれど!
客席は混乱を続けるが、目立ったフォローも放送もなく、ステージは再び進行していった。

宰相ボローニアスは毒殺された。その娘オフィーリアは気が触れ、小川へと身を投げる。
次第に登場人物が死に至るクライマックス、復讐を誓ったレアティーズとハムレットが剣を交える剣術試合の観覧席。
王妃が毒酒の杯を手にした、その時。
「いかん! 王妃よ、それは・・・」
王の制止の前に、白く繊細な手が、その杯を取り上げた。
思わぬ人物の登場に、ハムレットは声を上げる。
「オフィーリア?!」
彼女の兄であるレアティーズも声を上げた。
「馬鹿な、妹は死んだはず・・・あれはまさか、亡霊か?!」
王や王妃は勿論のこと、剣を交えていた二人も手を止め、全員がオフィーリアを見つめてしまう。
(展開、違うんですね?)
(原作通りだと、この辺で主要人物がほとんど死んじゃうって・・・)
(どうなっちゃうなんだろう?)
「まさか」
にっこりと、彼女は笑ってスカートの裾を捲った。
「ちゃんと生きております。足もございますわよ」
ほら、と足を見せた彼女は、切なげな視線を戦う兄と恋人に向ける。
「お兄様、目を覚まして下さいませ。元はといえば、元凶はただ一人ではございませんか」
「元凶・・・」
繰り返す兄の前で、彼女は優美に手を上げた。
「力を欲するが故に、実の兄を毒殺し、今も悲劇を繰り返そうとする者がおります」
その指先が指し示したのは、現王クローディアス。
彼は怒りも露わに立ち上がる。
「なっ、何を根拠に! 王を侮辱するなどと・・・」
「ならば、この杯を飲み干して下さいませ」
だが、ずい、とオフィーリアが杯を差し出してたたらを踏んだ。
「さあ!」
「・・・くっ!!」
先ほど王妃が飲み干そうとしたそれを前に、王は青ざめ、マントの裾を翻して逃げ出す。
すなわち、毒の酒であると明言したも同じ。
「逃すな! 引っ捕らえろ!!」
『おおっ!!』
近衛兵に指示し、レアティーズは剣を投げ捨てその後を追った。
「この酒をお調べなさい」
「はっ」
オフィーリアは傍らの侍従に杯を渡すと、一人呆然とこちらを見上げているハムレットの側へと段を下り、歩み寄った。
「・・・最初から、全て正気だったというのか」
それに微笑みを浮かべ、オフィーリアは彼を見上げる。
「父の死はいわば自業自得。その程度で気が触れるような柔には出来ておりません」
「そうか・・・あなたは私の心の内も全てお見通しだったというわけか」
「ええ。ずっとお側におりましたから」
そしてオフィーリアはすっと俯いて、言葉を続ける。
「貴方様の悲しみも努力も、私はずっと間近で見ておりました。私はずっと、貴方様の助けとなりたかったのです」
ハムレットの片眉が僅かに上がった。
「これで全てが解決する・・・感謝しております、ハムレット様」
笑みを浮かべるオフィーリアを、ハムレットは不意に引き寄せる。
「オフィーリア・・・」
「え」
抱きしめられる格好になったオフィーリアは、彼の腕の中で驚いた表情で顔を上げる。
「我が愛しき恋人よ、私のこれまでの愚行を知った上でお許し下さるのか」
慈しむように髪を梳く手つきに、オフィーリアはどこか躊躇いがちではあるが、頷いた。
「ならば誓いましょう」
ハムレットは笑みを浮かべる。
「この五体在る限り、私は貴方の忠実なる恋人でありつづけることを」
そうして彼は、オフィーリアの唇に優しい誓いのキスを贈ったのだった。

ところで。
ここは、泥門高校文化祭の演劇が催されている、ステージの上な訳で。
当然、衆人観衆の目の前な訳で。

あまりの出来事に硬直するまもりを抱え、ヒル魔はさっさと舞台袖に姿を消す。


―――その数分後。
割れんばかりの悲鳴や絶叫、事態を収拾しようとする文化祭実行委員の音声や怒号などで、体育館は阿鼻叫喚の地獄へと化した。



ふわりと頬に触れた風に、まもりははっと我に返った。
彼女は今、ヒル魔にお姫様よろしく抱えられていた。
彼は軽やかな足取りで外の廊下を歩いている。
「なっ・・・ひ、ヒル魔、くん?! 一体何、なんなのよ、何あの展開!?」
「自然な流れだったろ」
けろりとそんな風に言われて、まもりは真っ赤になって手足をばたつかせる。
「流れで、そんな、キ、キ、キ・・・!!」
「暴れると落とすぞ。ケケケ、コンクリートで腰打ったらさぞ痛いだろうナァ」
「っ」
ぴたりとまもりは動きを止めた。
それを見てまた楽しそうにヒル魔は笑う。
「最初にアドリブ入れたのはテメェだろ」
オフィーリアとして俯いたあたりからは全て二人のアドリブだったのだ。
「そ、そうだけど!」
「あれだけ熱烈に告白かましておいて何照れてるんデスカネー」
「こ、告白じゃないわよ! あれはその、日頃の、っていうか、今までのお礼っていうか、あんまりね、面と向かって言えなくて・・・」
しどろもどろになるまもりに、ヒル魔はにやにやと笑みを絶やさない。
今回の劇、ラストを大幅変更してハッピーエンドに収めることを条件に彼がハムレットを演じたのだ。
彼は意外なことに、その他に何を要求されるのか、と戦々恐々とする相手側にそれ以上の条件を求めなかった。
「部活引退して結構経っちゃったし、改めて言うのもおかしいかと思ってて、でも今回助けてくれたし、その、色々と思うところが!」
だからまもりは感謝して、ああいう台詞を織り交ぜたのに。
「随分俺って愛されてマスネー」
「違うっ! 違うからぁああ!!」
「ケケケ照れるな」
「照れてなーい!」
意を決してアドリブに混ぜた感謝の言葉を都合良くねじ曲げて解釈するヒル魔に、まもりは違うと否定をするものの、全く効き目はなくて。


翌日には、既に二人は両想いで出来ているのだと、全校生徒の理解するところとなり。
まもりの否定も空しく皆に祝福されるはめになった。

そして最早その存在さえ忘れられていた賞金は、ヒル魔の目論見通り部費として満額アメフト部へと振り込まれたのだった。


***
ハナコアラ様リクエスト「文化祭で演劇をやるヒルまも」でした。「ロミジュリ風で!」とご希望頂いたので「じゃあそれ以外でいこう!」としっかりひねくれさせて頂きました♪タイトルはハムレットの名台詞より。ヒル魔さんを格好イイキャラとして考えて書いたことがないので、王子様的な扱いがすごく違和感ありました(大笑)演技だけは演劇部も真っ青な実力があると信じます、ハイ。リクエストありがとうございました!

ハナコアラ様のみお持ち帰り可。

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