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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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トリックスター(上)

(ヒルまも)


+ + + + + + + + + +
まもりの目の前で、アイシールド21という名前だった選手が、セナになった。
その衝撃に、まもりはぼろぼろと涙をこぼした。
傍目から見て、それは彼の正体に気づかなかった事へのふがいなさのみの涙にしか見えなかっただろう。
けれど違った。
その涙は、もっと違う意味を含んでいた。
それに気づいたのは多分、彼一人。

「糞マネ、なんのつもりだ」
明かりが付けられ、まもりはそのままの姿勢で固まった。
見上げるドアにはヒル魔。
まもりは自分の数少ない私物を纏めようと、試合明けで練習がない早朝に部室へと顔を出していた。
「・・・部活、辞めるわ」
「ホー? 理由を言って貰おうか」
「一身上の都合よ」
「そんなのは建前だろうが。本音を言え」
「もうアメフト部にいる意味がないわ」
正直に言うと、ヒル魔の片眉がぴんと上がった。
言わんとすることを察しただろうヒル魔を置いて、荷物が入った紙袋を持って出ようとする。
「テメェの心情がどうだろうが知らねぇが、マネージャー兼主務が抜けると困る」
「誰か他を当たって。理由も言ったし、いいでしょ」
「理由を言えば辞めてもいいとは言ってねぇ」
本当に、ああ言えばこう言う。思わず舌打ちしたくなる。
「テメェが辞めれば、糞チビは気に病むぞ」
「そんなことはないわよ。せいせいするんじゃないの」
「そうやって告白もせず逃げる気か」
「――――・・・」
知られてた。やっぱり、という気持ちと、だったら、という気持ちとが綯い交ぜになる。
そう。
まもりはセナのことが好きだった。
ずっとずっと、幼い頃から、彼はまもりにとって歴とした恋愛対象だったのだ。
それがどうだ、彼がなりすましていたアイシールド21との関連性を、あれほど近くにいながら気付けなかった。
そうして自分が知ったときには、正部員全員が彼の正体を知っていた。
当然だろう、あれほどの試合をしながらどこの誰とも判らない、なんて間抜けはまもりだけだったのだ。
「もういいの」
「何が」
「セナは鈴音ちゃんが気になるみたいだし、年上の口うるさい幼なじみのことなんてどうでもいいのよ」
言いながら段々情けなくなってきた。
もうこれ以上自分を貶める会話したくなくて、まもりはヒル魔を振り切ろうと横をすり抜けようとする。
けれど。
がっちりとその腕が彼女を捕らえた。
「離して」
「そうやってすぐ諦めるような根性なしは責任持って直さねぇとなあ」
「なんでヒル魔くんが責任持つのよ」
「最初に隠させたのが俺だからな」
「・・・そんなの。それこそヒル魔くんが責任感じることじゃないでしょ。今だから判るけど、あの時の私が知ったら絶対反対したもの」
掴まれた腕は、ただ熱い。見上げたヒル魔は至って真面目な顔をしていた。
「糞チビがなんでテメェにだけ最後まで黙ってたか、その理由を誰に聞いても同じだ」
「・・・だから、邪魔だから・・・」
「テメェに心配掛けたくねぇっつーのが口癖だったぞ」
「!」
「糞チビに取っちゃなんでも基準がテメェなんだろ」
ゆるりと腕が放される。まもりはその場に立ちつくしたままだ。ヒル魔が重ねて尋ねる。
「諦めていいのか?」
「・・・なんでそんなに世話焼きなの?」
「ア? テメェに比べりゃ大したことねぇよ」
「まるで・・・諦めるなって言ってるみたいよ」
「言ってんだよ」
まるで目の前にいるのがヒル魔じゃないかのような錯覚まで覚える。
「だが、今のままじゃテメェは世話焼きの幼なじみポジションからは抜けられねぇだろうな」
「うん・・・」
「協力してやろう」
「え」
ヒル魔はにやりと笑った。そういえば今日になって初めて彼の笑顔を見た。
それまで至極真面目な顔ばかりだったと思い至る。
「俺と付き合え」
「意味がわからない!!」
なんでそんな話になるの、というまもりの声に、ヒル魔は声を上げて笑った。予想通り、という感じで。
「まあ聞け。テメェは今までセナセナ言って世話焼きまくってた」
「うん」
「そこで正体バラされて、テメェは糞チビの世話を焼かなくてもいいと気が付いた」
「ええ」
「だから世話焼きはお役御免で俺とつきあい始めた、と言えば、糞チビは拍子抜けするだろう」
ヒル魔はにやりと笑ってセナの声マネをする。
「『なんだ、まもり姉ちゃんは僕がいなくても平気なんだ』ってな」
「その喋り方も声も、凄く似てるから嫌だわ。・・・それはともかく、そうなると逆効果じゃないの」
まもりの行く末を案じなくてもいいと知れば、セナは遠慮せず鈴音とくっつきそうなものだが。
「重要なのはその先だ」
「はあ」
「付き合いは一見順調に進んでいるように見えたが、ある日糞チビの前で俺と大喧嘩する」
「いつ、どうやって?」
「期間は様子を見ながらだな。喧嘩についてはいいだろ。俺たちが喧嘩しねぇ日があったか」
「ないわよね」
「そこで俺がテメェを派手に振って、テメェが糞チビに泣き付けばいい」
筋書きは酷くシンプルだ。二重三重に策を弄する彼にしては単純過ぎやしないだろうか。
「そうすりゃ『やっぱりまもり姉ちゃんを守るのは僕しかいない!』とか勝手に使命感に燃えるだろ」
「だから喋り方も声も似すぎてて怖いってば!」
ヒル魔は口角を上げた。
「糞チビにはこれくらいでいいんだよ。下手に小難しくしてテメェがテメェの足で転んじゃ意味がねぇ」
「んもう!」
「やるか?」
差し出されるのはプレイカード。選手たちにしか出されなかったそれが、まもりの目の前にある。
選手たちに差し出され続けたプレイカード。
どんな時も、セナはそれを一度たりとも拒まず受け取った。
だったらまもりだって、デビルバッツの一員なのだ。
「・・・やるわ」
「よし」
にやりと笑うヒル魔の手からカードを引き抜く。
勝つためなら悪魔の手だって借りよう、とまもりは内心呟いた。


明日は関東大会の組み合わせ抽選会が行われる。
今日の練習は通常通りで、皆部室でヒル魔からの連絡事項を聞き、解散した。
部員がどやどやと帰り支度をする中、ヒル魔がまもりを呼んだ。
「姉崎」
「なに?」
「明日、迎えに行く」
「そう。何時?」
「9時」
「うん」
その会話が済むと、二人は何事もなかったかのようにそれぞれの仕事に戻る。
ところが周囲はそれでは納得しない。
特に一年生たちは目を見開いて硬直していた。
まもりを糞マネではなく姉崎と呼んだ。
更に明日、抽選会場まで行くのにわざわざ家まで迎えに行くと言っている。
あのヒル魔が! むしろ下僕を呼びつけて送らせるんだろう、と思っていたのに!
「ハァアアア?! なんだよ、二人は付き合ってるのか?!」
その中で最も早く硬直が解けたのはゴシップ好きな黒木で。その後皆が一斉に口を開く。
「ハァ?! 二人、付き合い始めたんスか?!」
「アハーハー! キャプテンとマネージャーなんて最高の組み合わせじゃないか!」
「フッ・・フゴ!!」
「ムッキャアアアア!!」
「お前ら人の言葉話せよ・・・」
阿鼻叫喚の最中、セナが苦笑している。
「ま、まさか・・・」
「冗談、よね?」
セナの後を鈴音が拾い上げた。否定を望むその表情の前で、ヒル魔はにたあ、と笑った。
あ、単なる悪巧みだ。思わずそうセナは判断し安心しかけたが。
「なにがだ?」
「え・・・」
悪巧みとしか思えない笑みのまま、ヒル魔はなおもニヤニヤしている。
「うん、私たち、付き合ってるのよ」
ちょっと頬を染めて笑うまもりの言葉に、皆は再び硬直した。
一年生たちが一向に出てこないので不思議に思って戻ってきていた二年生もそれを聞いて目を丸くしている。
ヒル魔がちらりとまもりに視線をやり、片手で何かを示した。
まもりは黙って頷く。更に顔を赤くして、ちょっと気まずそうに。
誰が見てもヒル魔はともかくまもりが嘘を言っている様子はない。
一体全体どうして、と呆然とする皆の前で二人はいつもと同じように残務処理を続けていた。


「なんであんな場所で言ったの」
「周知させる必要があったからだ。当人たちが言った方が確実だしな」
帰り道、二人並んで帰宅する。
これは以前から二人で帰るときには当たり前のようにされていたことだけれど、いつもより距離が近く感じる。
居心地が悪くて、まもりは離れようとするが、ヒル魔がそれを許さない。
「あんまり、近くに寄らないでよ」
「人の目っつーのはどこにあるか判らねぇからな」
演技だと知られてはならないのだと彼は言う。その効果がいかほどか未だ半信半疑とはいえ、付き合っていると言ったときのセナの顔は少なからず衝撃を受けていたように見えた。
「大体テメェには演技力がねぇ」
「うう」
「それをフォローするには噂が要る」
「噂?」
「基本は今日の付き合ってる宣言だな。それに―――」
不意にヒル魔の手がまもりの肩を抱き寄せた。その隣を車が走り去る。
「あ・・・ありがとう」
「ドウイタシマシテ」
肩を引いた手は一旦そこから離れたが、そのまま手を繋がれる。
「この様子を見た第三者の噂を足す」
「どうして?」
「部室の宣言じゃまだ冗談じゃないか、とか嘘じゃないか、とか半信半疑なヤツが多いだろう」
実際セナを筆頭として、聡いムサシやら雪光やらは疑り深い視線を向けていた。
「学校外でも人目を気にせずくっついてる、となれば冗談じゃないと奴らは思うわけだ」
「はあ」
そんなものだろうか。まもりは繋いだ手をまじまじと見てしまう。
まもりの手はとりたてて華奢という訳でもなく、普通の手だ。
それがヒル魔の手に包まれたらとても小さく感じる。
セナの手だったらまもりが包み込む側だった。同じ男でもこんなに色々と違うものなのか。
不可思議な気持ちになりながら、まもりは手を繋いだまま家路を歩いた。

ヒル魔がまもりに迎えに行くのは集合時間よりも大分早い時間帯だった。
朝、時間きっちりに扉を開くと、そこには既に白い服を着たヒル魔が立っていた。
その普段は見たことのない色彩にまもりはぱちぱちと瞬きを繰り返してしまう。
「・・・おはよう」
「おー」
「白い服、持ってたんだ」
「ア?」
思いの外白が似合うという事実に動揺しながら、まもりは昨日どさくさに紛れて聞き忘れたことを思い出す。
「ねえ、ヒル魔くん。なんでこんなに早い時間に出掛けるの?」
場所取りでも必要なのかしら。そう思って尋ねると、ヒル魔はふんと鼻を鳴らした。
「テメェの代わり映えしない格好をどうにかしねぇとな」
「それってどういうこと?!」
聞き捨てならないことを言われた気がして、眉をきりりとつり上げる。
するとヒル魔はにやりと笑った。
「小学校からずっと変わらないそのヘアスタイル、いい加減卒業してもいいだろ」
「・・・え」
サイドで揺れる髪の毛。そういえばずっとずっとこの長さだった。
それが当たり前で、伸ばすことも切ることもしなかった。
いきなり言われたことにまもりは戸惑う。
「いつも自分の隣では変化無く過ごしていた幼なじみが、突然ヘアスタイルを変えた。その切っ掛けが男となれば糞チビは気にする」
「そう・・・かな」
「それともなにか。テメェは願掛けでもしてるとか言いやがるか」
「いや、それはないけど・・・」
「じゃあ行くぞ」
ヒル魔がスタスタと歩いていく。いつもこの行動力に驚かされる。
まもりは連れて行かれた美容院であれよあれよと重ったるく弛んだ毛先をそぎ落とされ、すっきりとしたヘアスタイルへと変貌した。
「まあまあか」
さっぱりとした毛先に慣れず、指先で弄ぶまもりを一瞥し、ヒル魔は歩く。
が、ふと思いついたようにまもりの隣にならんだ。
「何?」
「隣にいた方が色々と都合がいいかと思ってな」
「なにそれ?」
「いいんだよ、テメェはとりあえず俺の隣に立ってろ」
詳しい説明も何もなしに、まもりはとりあえずヒル魔の隣を歩く。
これってカップルがデートで歩いているみたいね、とまもりは思う。
真実周囲にはカップルとして通すのだから、それはそれで間違いないのだけれど。
どこかそれを他人事のように考えるまもりにヒル魔はちらりと視線を寄越しただけでその後は特に無駄口も叩かなかった。 

<続>
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鳥さんに質問です
貴女はエスパーか何かであらせられますか?


違うとしたら、どうして知っておられるのでしょう?
私が
「実はセナ君が好きだったマモリちゃん。実はマモリちゃんが好きだったセナ君」
「しかしそれをヒル魔君略奪愛!!」
設定が大好物!!

だという事を・・・・

他には、嫉妬ヒル魔さんが好きです
誰かとマモリちゃんめぐってVSするのも大好きです
でも!!
すっごい好きなんですヒルまも前提のセナまも!!
上中下巻・・・うわぁ~~~楽しみだ!!
頑張ってください!!

あ、今回も返信は不要です。
作品作り頑張ってください(^^)
ヒルネ 2008/06/29(Sun)21:37 編集
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