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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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トリックスター(中)

(ヒルまも)


+ + + + + + + + + +
当たり前のようにヒル魔がまもりを隣に置くようになって。
いや、いままでも同じように隣に置いていたのだけれど、戦力や労働力という枠組みを超えてまもりの存在を隣に置くようになって。周囲の見方が変に温度を持った物になったな、とまもりは嘆息する。
「どうした?」
気遣うような声に、まもりは顔を上げる。
ヒル魔がパソコンを叩く手を止めてこちらを伺っている。
諸悪の根元はこの男なのだけれど、そんなことは気にしてはいけない。
そもそも二人は付き合っているのだから、彼女の不調を気遣うのはなんらおかしくないのだ。
この頃には周囲もすっかりヒル魔とまもりが恋人同士だという認識を持っていて、実際互いの力を認めて頼りにする、そんな場面をしばしば見せつけられて否定する気もないようだった。演技をしているという自覚のあるまもりには大変心苦しい場面も多々あったが、ヒル魔は相変わらず飄々としている。
だからこそ不思議なのだ。
「・・・なんで、ヒル魔くんはこんなに私によくするのかな、って」
「ア? 恋人同士なら当たり前だろ」
甘ったるい関係ならば、という言葉にまもりは眉を寄せる。本当に心通わせた恋人同士ならあり得るかも知れないが、ヒル魔はまもりのことなどどうとも思っていないのだ。そもそもがまもりの恋心を叶えるために始まったことで。
ヒル魔にとってはお遊びの延長に近い。
その考えに、まもりは自分で思う以上に動揺した。
今更の事実だ。動揺する謂われなどどこにもないのに。
そんなまもりの心情をどう思ったか、ヒル魔はぴんと片眉を上げた。
「テメェ目的をはき違えるんじゃねぇぞ。テメェの好きな奴は誰だ」
「セナ」
「だろ」
あっさりとした会話の後、また沈黙が広がる。
そう、私はセナが好きで。ヒル魔くんはそれを知って、助けてくれる。
罪滅ぼしのために、好きでもない女と恋人同士だと嘯いている。
・・・なんの罪滅ぼし? 誰のために?
幾度考えても、まもりにばかり利点があって、ヒル魔にはなんの得もないように思える。穿った考えだろうか。 
違う。ヒル魔が何か物事を成すときは、それがどんなに迂遠なやり方であっても、無駄なことは一つとしてなかったのだ。だからこれにも何か意味があるはずなのに、まもりには到底掴みきれない。
「コーヒー淹れろ」
「はーい」
堂々巡りのまもりの心を読んだかのように、命令が飛んでくる。
単純作業はありがたい。
まもりは間延びした返事をしながら、それでもヒル魔のためにコーヒーを淹れようと席を立った。

「やー・・・まも姐、なんか、綺麗になった?」
「え?」
不意に鈴音に言われたことに、まもりは瞬きする。
特に化粧をしたわけでも、特別手入れをしたわけでもない姿のどこに変化があったのだろうか。
鈴音が見惚れたとその面に書いて、まもりを見上げている。
「やっぱり恋人がいると違うのかな~。すごく綺麗・・・」
うっとりと夢見心地の鈴音の声に、そんなことはないわと返す。
そんなことはないの、と心の内でもう一度。
恋をすると女は美しくなる、というのなら、まもりはもうずっと美しいままである。
だって物心着いてセナを好きになってからずっと、恋をしている状態なのだから。
だからこの数ヶ月で一気に美しくなるなんてあり得ないのだ。
なのに。
ふと目で追うのがセナではない。
勢いよく駆け抜ける疾風を、楽しげに見守る悪魔に視線が行く。
それを見てヒル魔はごく楽しげに唇の端を持ち上げる。
どう見てもそれは、恋人同士の甘い視線を交わすという仕草で。
誰もがそう思っていたし、まもりも一瞬そう思ってしまった。
でも違う。違うのだ。
ヒル魔がまもりの方を見て笑ったのは、視線の向ける先を誤らなかったに違いない。
『糞チビの方を極力見るんじゃねぇ。糞チビからの視線を感じても、見るなら俺を見ろ』
そうヒル魔は言った。そういう風に言われ、まもりはそれを忠実に守った。
そうすると、セナがまもりを意識して見ていると視界の端で知れることがしばしばあった。
それにまもりは素直に喜びを感じる。
彼の興味は傍らの鈴音ではなく、まもりに向いていると確かに感じられた。
なのに。
ヒル魔に笑いかけられて、まもりの心臓は確かに意志を持って跳ねた。
怯えでも驚きでもない、今まで何度もセナからの笑顔に感じたそれよりももっと激しい動悸を覚える。
それが何か判っていても、まもりはそれから目を逸らし続けた。
何も判らないわ、私には。私はセナが好きなの。ただそれだけなの。
そう言い聞かせること自体、もうどこかの歯車が狂い始めているのだと、誰もそれをまもりに言うことはなかったし、誰も気づくことはなかった。

もがき、あがき、やれることは全てやる、と豪語した悪魔のもくろみ通り、彼らは勝ち抜いた。
どれほどに危うかろうと、勝てばこちらのもの。
試合中に卑怯なやり口などはなかったし、まもりは粛々とヒル魔の作戦に従った。
さすがに骨折したときには諫めたけれど、それ以外は彼女として多少目くじらを立てる程度で済ませた。
それを周囲は肩をすくめて見守る。
確かにキャプテンとマネージャーのカップルが言い争いをしていてもただのノロケにしか聞こえないことも多々あるだろう。
それ以上にどれほどに無茶だと思ってもやらなければならないことは山のようにあったし、それを咎める権限はまもりにはなかったのだ。
まもりは、本当の彼女ではないから。
本当に付き合っているわけではなく、ただヒル魔の協力の下付き合っているという状況を作り出しているに過ぎないのだから。
まもりはその事実を思い知らされる度に疼く心を治めようと何度も手を握り胸に当てた。
「それ、癖だな」
「え?」
データ整理をして、何気ない会話をしている時だった。ヒル魔が心臓の上で握られる手のひらを見て、そんなことを言った。
「それもここ最近だ」
「・・・そう、だった?」
心が疼くのは確かに最近のことだった。まもりが思う以上に、ヒル魔はまもりのことをよく見ていた。
「だがそれは都合がいい」
「え?」
ヒル魔はすっかり回復した腕でパソコンのキーボードを叩いている。
クリスマスボウル決戦が始まるまでは骨折したフリを続けるというが、現状ではもう回復しているので、こうやって練習後二人きりになると酸素カプセルから出てきてデータ整理などを行っている。
「テメェは俺の骨折後から情緒不安定になり、俺のことを疑っている」
「いつも疑ってるけど」
「俺は相変わらずテメェのことを便利に使う。さて周囲は思う、俺は姉崎をなんだと思っているのか、と」
まもりの嫌味を聞き流し、ヒル魔は続ける。
「クリスマスボウルが終わる。祝勝会、その時にテメェは真剣な顔で俺に詰め寄る」
勝率は限りなく低いはずだが、勝率がある限りは諦めないヒル魔のこと、勝つことは確定であるらしい。
横目で見るまもりのことなど気にせず、ヒル魔は鼻歌まで混ぜて言った。
「そこで俺とテメェは大喧嘩だ。周囲はめでたい雰囲気なのに一体なんだと水を打ったように静かになる」
目に浮かぶようだ。
「そこでテメェのことを糞チビが浚う。それで大団円だ」
「ちょっと! 今、肝心のところが全部省略したでしょ!」
「喧嘩内容まで今決めてどうする。テメェが思った通りに言えば、普通に喧嘩するだろ」
「最近喧嘩してないじゃない」
「そういう設定だからな」
「設定・・・」
まもりはその言葉を噛みしめる。そうだ、設定だった。
なのになんで、こんなに動揺しなければならないのだろう。
まもりに構わず、ヒル魔はキーボードを叩き続ける。
「おら、帰れ。俺はもうしばらく掛かる」
「あ、うん」
ヒル魔が骨折してからこっち、二人で帰ることはなくなった。
そもそもセグウェイと歩く速度はうまく調節できず、隣を歩きづらいのだ。
つい最近まで送ってくれていたのに。
その素っ気なさに息苦しささえ覚えて、まもりは頭を振る。
誰のことを好きなの、姉崎まもり。
当たり前のはずの問いが、まもりの心を押しつぶす。
また心臓の上で握られた拳は、細かく震えてまもりの動揺を如実に示した。

ヒル魔は予言者なのだろうか。
まもりはそう重いながら、目の前ではしゃげ転げ回る部員たちを呆然と眺めていた。
辛勝、と表現されても勝利は勝利。
未だかつて誰も成し得なかった関東勢勝利の様子に、誰もが浮き足立っている。
だが、これが一人の男によって描かれたプランそのままだとまもりは知っている。
勿論途中にはいくつもハプニングが起きて、簡単とは遠く隔たった内容だったとも判っている。
なんにせよ、泥門デビルバッツは勝利を収めた。
そしてヒル魔が言っていたあの筋書きが履行されるのも間もなくなのだ。
まもりは戦慄する。
怯えることもない。今、ヒーローとして咆哮を上げたあの幼なじみのセナを、胸を張って好きだと言えればいいのだ。それでいいのに。
告白をする日をずっと、あの覆面ヒーローが彼だと知った後、ヒル魔にプレイブックを突きつけられたあの時からずっと待ち望んでいたのではなかったか。
まもりは不意に腕を引かれる。
「マネージャーも胴上げだー!」
「え!? きゃー!?」
今までは周囲から喜びの声を上げるだけだったまもりが、フィールドに招かれ部員たちの無骨な手によって宙を舞う。
「うわー軽いっすねー、マネージャー!」
「まもりサンのおかげで勝てました!!」
「まもり姉ちゃんありがとう!!」
「フゴー!!」
「今までありがとうございましたー!!」
わあわあと口々に叫ばれる声に、セナの声も混じる。けれどヒル魔の声はない。
彼は先ほどいつかの宣言通り胴上げされて、そのまま輪を外れてにやついていたはずだ。
どこに行ったのか。
数回宙を舞って、まもりは地面へと足をつけた。喜びに誰もが笑い、泣きながら立っている。
そうしてセナがこちらを伺っていた。
まもりの心臓が跳ねる。
と。
「おい糞マネ」
「その呼び方やめてよ!」
いつもの調子でヒル魔から声を掛けられて、まもりは振り返る。
「契約は終わりだ」
囁くのではなく、指でサインを送るのでもなく、ごく普通の声で彼は言った。
「・・・え?」
「恋人ゴッコなんつー不毛なことは終わりだ、っつったんだ」
予想外に早い言葉に、まもりは絶句する。
確かにクリスマスボウル後に喧嘩する、とは言っていた。聞いていたしつい先ほどもそれについて考えた。
勝利を祝う前から、実はそのことばかり考えていたと言ってもいい。
でも。
唐突すぎやしませんか。あなた、祝勝会の時と言いませんでしたか。
「何、言って・・・」
まもりが近寄ろうとする。ごく当たり前にあった、彼の隣に。
だが、ヒル魔はついと一歩下がった。判りやすい拒絶。
「テメェのうざってぇ話に付き合う義理はもうねぇよ」
冷徹な声。眸。今まで感じた優しい気配が微塵もない。
「ヒル魔さん」
咎める声がある。後ろにいつの間にか立っていたセナだ。
「まもり姉ちゃんをなんだと思ってるんですか」
詰問に、まもりはびくりと肩を震わせる。セナはこんな風に喋る子だっただろうか。
ヒル魔に楯突くところなんて見たことなかったのに。
「アァ? テメェには関係ないだろ」
にやりと悪人面で笑って、ヒル魔はふんと鼻を鳴らした。
「糞労働力が必要だったのはついさっきまでの話だ」
「労働力って、ヒル魔さん、そんな!」
「それ以上の意味はねぇナァ。付き合ってりゃイロイロ便利だったしな」
「ヒル魔さん!!」
セナと言い合いながらヒル魔がつとまもりを見る。その視線がなにより雄弁に語っていた。
怒れ、と。
怒って俺を詰れ、と。
まもりは口を開こうとする。
ひどいわ、とか。私のことをやっぱりそれ以上に思ってなかったのね、とか。
いくつもヒル魔に怒鳴る言葉を考える。それに手酷く返すのが目に見えるようだ。
それが目的だった。ずっとそう言われていた。
けれど。
まもりの震える唇から漏れたのはそのどれでもなかった。
「・・・好きよ」
ヒル魔の眉が僅かに動いた。あからさまではないが、まもりには判った。
何を言う、それは俺に言う台詞ではない、と。
「好きなの、ヒル魔くん」
「それは聞こえた」
淡々と、周囲の喧噪など耳に入らないように彼は言った。
「判らない?」
問いかけ首を傾げると、ヒル魔は酷く憎々しげに嘲笑った。
まもりを蔑む目で。
「誰がテメェなんか」
はっきりと。
冷たく、その一言はまもりの心を貫いた。まもりの足が震え、崩れ落ちそうになる。
それを支えたのはセナだった。
疲労を抱えているはずの腕は、まもりの身体をしっかりと抱えた。
それに足りる力を彼はもう持っている。
しっかりとヒル魔を見据える視線は厳しいもので、まもりは息を呑む。
「酷い・・・あんまりです、ヒル魔さん!!」
「煩ェ」
面白くなさそうにヒル魔は瞳を眇め、踵を返す。
その指先がちらりと閃いた。こんな時でもまもりはその暗号を読み解く。
まもりは俯いた。今は誰もが歓喜の涙に暮れるとき、だからまもりが泣いても不自然ではない。
その意味は大分違ったけれど。
「まもり姉ちゃん、大丈夫?」
ややあって、まもりが口を開く。
「―――ごめんね、セナ」
色々な意味が含まれた言葉だった。セナは躊躇いがちにまもりの身体を支えている。
優しいその腕が欲しかった。こうやって抱きしめて欲しかった。
それは嘘ではなかった。
「セナが、好きだったの」
「・・・うん」
「凄く凄く好きだった。幼なじみだったし、大切な弟みたいで、でももっと」
「まもり姉ちゃん」
再度セナがまもりを呼んだ。しっかりとした声で。遮られて、まもりは再び涙をこぼした。
「・・・好きだったの」
「うん」
全てが過去形の言葉に、セナはただ相槌を打った。
もう判っているのだ。
「僕もね、まもり姉ちゃんが好きだったよ。今も好きだけど、その、もっと違う意味で」
少し慌てたようにフォローする言葉は、それでも迷い無くまもりの耳朶を打った。
「多分、まもり姉ちゃんと同じ意味で、ずっと」
互いの思いは、確かに近かった。
けれどすれ違った以上、もう交わることはないのだ。
今は互いに手を伸ばしたい相手がいる。
まもりは顔を上げた。
涙の跡が残っているその顔を、セナが眩しそうに見つめて、それから言った。
「頑張ってね」
「ええ」
背後からまた騒がしい面々がやってくる。
また同じようにもみくちゃにされて、今度はまもりもセナも素直に笑って泣いた。
その後は祝勝会。
当たり前のように騒ぐ中で、キャプテンとマネージャーの雰囲気がおかしいと周囲は気づいているようだった。
けれど一時のことだろうと誰も気にも留めない。聡い連中は何となく察したようだが、必要以上に接点を持たない二人に口を挟む者はいなかった。
今年はもう年末と言うこともあり、練習はない。来年は新学期が始まると同時に部活も開始する、という連絡を受けて、それでもしばらくぶりの長い休暇に誰もが笑顔を浮かべた。勝利後であるから尚更に。怪我が著しく多かった最終決戦、身体を休めて来年に備えるのも一年生たちの大切な仕事なのだ。
ヒル魔は笑っていた。いつものようににやにやと。
そしてまもりも穏やかに笑っていた。
二人の心中はともかく。 

<続>
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