旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。
ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。
いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。
+ + + + + + + + + +
関東大会も終盤に近づき、次は白秋戦。
王城を僅差で下し、どうにか栄光の階へ残ってあとは頂点まで駆け上がるだけ。
その『だけ』がいかほどに難しいかは重々承知している。
でも春には、夢のまた夢だと思ったその場所が扉一枚まで迫っている。
もうすぐ。
もうすぐだ。
どれほどに汗を、涙を、血を流しても諦めないその場所にたどり着くにはあともう少し。
狂おしい程の渇望を抱え、目指す。
―――クリスマスボウルへの道のりはもう夢じゃない。
ヒル魔は部室でパソコンを開くこともせず、カジノテーブルに足を載せ、投げ出された模型を眺めていた。
脳裏に浮かぶのは峨王の圧倒的な破壊力。
今も栗田が特訓を受けているとはいえ、自分が破壊される立場になるのは想像に難くない。
おそらくはそれを狙ってくる相手に、どう対処するか。
怪我は恐ろしいものではない。今までも何度も怪我を負ってここまで来た。
今回は怪我を免れないと想定して、その後どうやって試合に復帰するか、そこまで考えなければならない。
ふと息苦しくなって息をつく。柄にもなく息を詰めていたのだとそれで知る。
怖くない、と殊更に思うのは怖いと思っていることの裏返しだ。
現状の戦力を考えたときに、自らに降りかかる災厄の可能性を全て含んで想定することはヒル魔の頭脳を持ってすれば容易い。
ただそれと感情は別問題なのだと、同時にヒル魔は気が付いてもいた。
利き腕を折られた場合の状況を考えれば、そこで全てが終わってもおかしくない。
勿論そうさせないためにあらゆる手段を講じるつもりだが、被害が自分一人で留まらない場合はもう無理だ。
瞼を閉じる。
照明を付けることなくただ脳裏でシミュレーションを繰り返していて、脳がオーバーヒート気味だ。
純粋に疲労を感じた。
常に気を張って、疲労など微塵も見せないというスタイルを貫いていたから。
人目のない現状で少々気が緩んだらしい。
ふと扉が開く気配。
「・・・やっぱり」
視線を向ければ、そこにはまもりが立っていた。
一度帰宅した後ここにやってきたヒル魔とは違い、どうしたものか彼女は制服のままだった。
「何しに来やがった」
「なんとなく、ヒル魔くんがここにいるかと思って」
何を感じ取ったのか。ただの勘だと囁いてまもりはするりと部室に滑り込んだ。
照明を付けるかと思ったが、そうせずにゆっくりとヒル魔の傍らまで歩み寄る。
ひんやりと冷たい外気の残滓が彼女にまとわりついていた。
「何、してたの?」
「指示練ってた」
「なんの?」
ヒル魔の手元には筆記用具はおろか、パソコンもない。
「後でな」
散らばった模型をちらりと見て、まもりは嘆息する。
聡い彼女はヒル魔が照明も付けずに延々と何について考え事をしていたか、既に気が付いていた。
だがそれを口に出して言うことが出来ない。
まもりとて不安なのだ。
彼が悪魔などではなく人なのだと知っているから。
どれほどに努力をしてここまで来たのかを知っているから。
ゆるく瞬きをするヒル魔の様子に、まもりはしばしの沈黙の後、ようやく口を開く。
「・・・眠いんじゃない? ヒル魔くん」
寝てるの? そう重ねて問えば、当然と返される。
でも熟睡は出来ていないのだろうか。精彩を欠くヒル魔の様子には疲労が見え隠れしている。
こんな彼は珍しかった。
やはり次の試合、格段に怪我の心配が上がるだけに考えすぎて眠れない日があるのかもしれない。
これが春だったら、あなたにそんな繊細な神経なんてないでしょう、と一笑に付しただろうけれど。
・・・今はそんなこと、到底できない。
「足、下ろして」
「ア?」
片眉をぴんと上げただけで取り合わないヒル魔の足を、無理矢理引っ張って下ろす。
何をする気だと傍らに立っているまもりを見上げる視線に構わず、まもりはヒル魔の前に座った。
すなわち、テーブルの上に。
「オヤオヤ、糞風紀委員様がお行儀悪い」
ふざけた口調に構わず、まもりはヒル魔を手招いた。
「ちょっとこっちに来て」
「ヤダネ」
「いいから!」
じっとヒル魔を見つめる目に、彼は身体を起こした。大して距離がある場所じゃない。
「手、貸して」
面倒になったのか、ヒル魔は無言で手を出した。
「両手よ」
「ア?」
それでも言葉に従い緩慢に上げられた手を、まもりは掴んだ。
火照ったように熱い手。
疲労が蓄積し、眠気を抱えた手だ。
まもりは一瞬眉を寄せると、そのままヒル魔を自分の方に抱き寄せた。
「・・・何のつもりだ」
こんな体勢で言うのも間抜けだと思ってはいるのだろう、力のない声でヒル魔は呟くように言った。
これも膝枕と言うべきだろうか。
揃えられた太ももにヒル魔の頭を抱え、まもりは背を丸める。
「人の体温とか心音とかって安心するでしょ」
柔らかい女の身体。一瞬目を閉じて、ヒル魔は投げ出していた腕をまもりの腰に回した。
まもりはその後何も言わず、ヒル魔の頭をそっと撫でる。
端から見たら、どれほどに滑稽な光景だろうか。
子供のように甘えるヒル魔と、母のように甘やかすまもりと。
男と女で薄暗い部室で二人きり、というシチュエーションを考えたら、これがかなりヤバい体勢だという自覚はヒル魔にはある。
けれど今触れる人肌に確かに癒やされている。促されるように眸を閉じる。
ささくれた精神をあたたかく宥めるそれに、ヒル魔は心を決めた。
***
眠くて手が熱いときにまもりに甘えるヒル魔さん。29巻16頁の下一コマだけで妄想を膨らませてみました。
王城を僅差で下し、どうにか栄光の階へ残ってあとは頂点まで駆け上がるだけ。
その『だけ』がいかほどに難しいかは重々承知している。
でも春には、夢のまた夢だと思ったその場所が扉一枚まで迫っている。
もうすぐ。
もうすぐだ。
どれほどに汗を、涙を、血を流しても諦めないその場所にたどり着くにはあともう少し。
狂おしい程の渇望を抱え、目指す。
―――クリスマスボウルへの道のりはもう夢じゃない。
ヒル魔は部室でパソコンを開くこともせず、カジノテーブルに足を載せ、投げ出された模型を眺めていた。
脳裏に浮かぶのは峨王の圧倒的な破壊力。
今も栗田が特訓を受けているとはいえ、自分が破壊される立場になるのは想像に難くない。
おそらくはそれを狙ってくる相手に、どう対処するか。
怪我は恐ろしいものではない。今までも何度も怪我を負ってここまで来た。
今回は怪我を免れないと想定して、その後どうやって試合に復帰するか、そこまで考えなければならない。
ふと息苦しくなって息をつく。柄にもなく息を詰めていたのだとそれで知る。
怖くない、と殊更に思うのは怖いと思っていることの裏返しだ。
現状の戦力を考えたときに、自らに降りかかる災厄の可能性を全て含んで想定することはヒル魔の頭脳を持ってすれば容易い。
ただそれと感情は別問題なのだと、同時にヒル魔は気が付いてもいた。
利き腕を折られた場合の状況を考えれば、そこで全てが終わってもおかしくない。
勿論そうさせないためにあらゆる手段を講じるつもりだが、被害が自分一人で留まらない場合はもう無理だ。
瞼を閉じる。
照明を付けることなくただ脳裏でシミュレーションを繰り返していて、脳がオーバーヒート気味だ。
純粋に疲労を感じた。
常に気を張って、疲労など微塵も見せないというスタイルを貫いていたから。
人目のない現状で少々気が緩んだらしい。
ふと扉が開く気配。
「・・・やっぱり」
視線を向ければ、そこにはまもりが立っていた。
一度帰宅した後ここにやってきたヒル魔とは違い、どうしたものか彼女は制服のままだった。
「何しに来やがった」
「なんとなく、ヒル魔くんがここにいるかと思って」
何を感じ取ったのか。ただの勘だと囁いてまもりはするりと部室に滑り込んだ。
照明を付けるかと思ったが、そうせずにゆっくりとヒル魔の傍らまで歩み寄る。
ひんやりと冷たい外気の残滓が彼女にまとわりついていた。
「何、してたの?」
「指示練ってた」
「なんの?」
ヒル魔の手元には筆記用具はおろか、パソコンもない。
「後でな」
散らばった模型をちらりと見て、まもりは嘆息する。
聡い彼女はヒル魔が照明も付けずに延々と何について考え事をしていたか、既に気が付いていた。
だがそれを口に出して言うことが出来ない。
まもりとて不安なのだ。
彼が悪魔などではなく人なのだと知っているから。
どれほどに努力をしてここまで来たのかを知っているから。
ゆるく瞬きをするヒル魔の様子に、まもりはしばしの沈黙の後、ようやく口を開く。
「・・・眠いんじゃない? ヒル魔くん」
寝てるの? そう重ねて問えば、当然と返される。
でも熟睡は出来ていないのだろうか。精彩を欠くヒル魔の様子には疲労が見え隠れしている。
こんな彼は珍しかった。
やはり次の試合、格段に怪我の心配が上がるだけに考えすぎて眠れない日があるのかもしれない。
これが春だったら、あなたにそんな繊細な神経なんてないでしょう、と一笑に付しただろうけれど。
・・・今はそんなこと、到底できない。
「足、下ろして」
「ア?」
片眉をぴんと上げただけで取り合わないヒル魔の足を、無理矢理引っ張って下ろす。
何をする気だと傍らに立っているまもりを見上げる視線に構わず、まもりはヒル魔の前に座った。
すなわち、テーブルの上に。
「オヤオヤ、糞風紀委員様がお行儀悪い」
ふざけた口調に構わず、まもりはヒル魔を手招いた。
「ちょっとこっちに来て」
「ヤダネ」
「いいから!」
じっとヒル魔を見つめる目に、彼は身体を起こした。大して距離がある場所じゃない。
「手、貸して」
面倒になったのか、ヒル魔は無言で手を出した。
「両手よ」
「ア?」
それでも言葉に従い緩慢に上げられた手を、まもりは掴んだ。
火照ったように熱い手。
疲労が蓄積し、眠気を抱えた手だ。
まもりは一瞬眉を寄せると、そのままヒル魔を自分の方に抱き寄せた。
「・・・何のつもりだ」
こんな体勢で言うのも間抜けだと思ってはいるのだろう、力のない声でヒル魔は呟くように言った。
これも膝枕と言うべきだろうか。
揃えられた太ももにヒル魔の頭を抱え、まもりは背を丸める。
「人の体温とか心音とかって安心するでしょ」
柔らかい女の身体。一瞬目を閉じて、ヒル魔は投げ出していた腕をまもりの腰に回した。
まもりはその後何も言わず、ヒル魔の頭をそっと撫でる。
端から見たら、どれほどに滑稽な光景だろうか。
子供のように甘えるヒル魔と、母のように甘やかすまもりと。
男と女で薄暗い部室で二人きり、というシチュエーションを考えたら、これがかなりヤバい体勢だという自覚はヒル魔にはある。
けれど今触れる人肌に確かに癒やされている。促されるように眸を閉じる。
ささくれた精神をあたたかく宥めるそれに、ヒル魔は心を決めた。
***
眠くて手が熱いときにまもりに甘えるヒル魔さん。29巻16頁の下一コマだけで妄想を膨らませてみました。
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鳥(とり)
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性別:
女性
趣味:
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自己紹介:
ついうっかりブログ作成。
同人歴は読み専門も含めると二桁は楽勝。
よろしくお願いいたします。
【裏について】
閉鎖しました。
現在のところ復活の予定はありません。
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