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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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温度差は凶器

(ヒルまも)


+ + + + + + + + + +
昼ご飯を食べて、午後一番の授業が世界史だったりして。
さすがにこの時間は起きている人の方が少ないんじゃないか、と思う程まったりした空気が漂っている。
先生も諦め気味で、この時はあんまりきつく注意しない。だって先生だって眠そうだもの。
ようやく一時間の睡魔との戦いが終わって、ため息をついて隣を見れば、アコが突っ伏していた。
「アコー、授業終わったよ」
「んにゃ・・・」
眠そうに顔だけこちらに向けたアコの頬にノートが写ってしまっている。
笑ってそれを指摘すると、アコは慌てて起きあがってそこを腕で拭っていた。
「とれた?」
「もうちょっと左。ほら」
鏡を見せると、うわーと言いながらアコは一生懸命汚れを取っている。そこに咲蘭も来て、察して苦笑した。
「寝るときはノート閉じなきゃ」
「違うわよ、寝ちゃ駄目なの」
「もー、まもってばあのまったり空気に負けずにこんなに綺麗なノートを!」
「あ、もう! 返してよ」
騒ぎながらノートを持つアコの手に触れる。あったかい。
「アコの手、あったかいね」
「眠いからね」
「子供みたい」
「オコサマでーす」
そして次の授業を行う教師がやって来て。私たちは眠気を振り払って机に着いた。
・・・アコはまた負けたみたいだけど。

そういえば、セナも小さいときはあったかい手、してたっけな。
私は冷え性じゃないんだけど、手はどこかひんやりとしている。
「まもり姉ちゃん?」
「セナ」
私がぼんやりと手を見ていたら、セナが顔を出した。汗だくだ。
ランニングが終わって、これからユニフォームに着替えて練習するんだろう。
「セナ、ちょっと手、出して」
「? うん」
差し出したセナの手を両手で包んでみる。思ったより大きく、硬くなってる。
高校に入学した当初のセナの手は、まだ小さくて柔らかかったような気がするのに。
「あ、あの? まもり姉ちゃん?」
走ってきて汗にまみれているせいもあるのか、想像していたような熱さはない。
それ以上に男の子の手をしていて、こんなところまでセナは成長してたんだ、と改めて思う。
セナは瞬きをする間も少しずつ成長しているかのように、勢いよく変わっていく。
私はどこか変わったかな。
「糞チビ! 糞マネ! 何やってんだ、そこ!」
「あ」
二人で首をそちらに向けると、苦虫を噛み潰したような顔のヒル魔くんが立っていた。
「休憩時間にはまだ早ぇぞ! 糞チビ、さっさと着替えて来い!」
「ひぃいい!!」
銃口を向けられて、セナは走ってロッカールームに行ってしまう。
私は手に残った感触を噛みしめるようにぎゅ、と手のひらを握り込み、ヒル魔くんの元に走っていく。
「ちょっと! セナは悪くないわよ、私のせいなの!」
「アァ!? 練習の邪魔するんじゃねぇ、糞マネ!」
ぎゃあぎゃあと言い争う私たちは、セナが戻ってくるまで言い争いを続けていた。

練習が終わって、片づけをして。
部室の掃除をしていたら、ヒル魔くんがこっちを見ていた。
・・・ヒル魔くんも手が熱くなったりすること、あるのかしら。
そもそも体温あるのかしら。
悪魔と呼ばれてても人だからあるのが当然なんだけど、どうにも無機質っぽい気がするのよね。
「手」
「ッ」
唐突に言われて、私はびっくりして箒を取り落としてしまう。
「が、どうかしたか」
「・・・なんでそう思うの」
「糞チビに始まり、一日中誰かしらの手ェばっかり見てやがった」
相変わらずよく見てる。私はむっと眉を寄せる。
ヒル魔くんはパソコンをぱちんと閉じた。もう今日の作業は終わらせるんだろう。
「昔ね、セナの手はあったかかったのよ」
「ア?」
「ちょっと思い出したの」
納得しないような顔で、ヒル魔くんは私を見ていた。
「で、思いあまって練習中に糞チビを拘束したと」
「してません!」
何を言うかと思えば。酷い言い方だわ。
「でも、もうあの時とは全然違うわね。セナ、どんどん大きくなって手も男の子っぽくなってきた」
「ホー」
「私だけ変わってないのかなー・・・」
男と女の身体は違うから、こればかりは仕方ないんだけど。
身体のことばかりじゃなく、色々変わってないかな。変わってたらいいんだけどな。
「帰るぞ」
「あ、うん」
私はエプロンを外して畳み、身支度を調える。
部室を出て駅までの道を歩く。
ヒル魔くんと並んで歩いていて、ふと彼の左手が視界に入る。
セナとは違う、細くて長い指。でも女の私とは根本的に大きさが違うから、細いって言ったって私よりは太い。
じっと眺めていて、触りたくなって。
私は何も考えないでヒル魔くんの手を握った。
「わ」
ヒル魔くんの手は、触ってみると想像以上に大きかった。
アメフトボールを掴んで投げるわけだから、当然よね。
私じゃ掴めても投げるまでには至らないし。
そしてなにより、あったかい。
今日の昼、アコの手に触ったときみたいに。
あんな風なまったりしたあったかさとはちょっと違う気もしたけど。
しげしげと見て触っていて、私は斜め上のヒル魔くんの顔を見てなかった。
ヒル魔くんの呆れたようなため息。
「・・・おい糞痴女」
「って私のこと?! なによそれ、失敬な!」
「突然人の手ェ握ったと思ったら何いじくり回してやがる。糞痴女以外の何モンでもねぇだろうが」
「うっ」
見上げた先でヒル魔くんの顔はごく普通だった。嫌がるとかニヤニヤ笑うとか、そういった感じではなかった。
それがちょっと意外で。
そしてその間も離すことなく握りっぱなしだった手を握り返される。
あ。
もしかして、今、私ってば、ヒル魔くんと手を繋いで帰っているのでしょうか。
気が付いたら一気に私の顔が赤くなる。それを眺めてヒル魔くんは片眉をぴんと跳ね上げた。
「ア? テメェで繋いできておいて何照れてやがる」
「あ、いや、その、あんまり何も考えてなくて、その」
焦る私を離さないで、ヒル魔くんは歩く。
「テメェは本当に無自覚だな」
「? 何が?」
「男相手に軽々しく手ェ出すな」
「う。だって、気になったんだもの」
振り払おうにもヒル魔くんの手は力強くて、逃げられそうにもない。
それになんだか安心してしまって私は思わず相好を崩してしまう。
途端にヒル魔くんが大きくため息をついた。
珍しい。
「・・・ヒル魔くん、手、あったかいのね」
「男だからな」
「へえ? セナはあったかくなかったわよ」
「もう黙れ」
どこか疲れたようにヒル魔くんはそれきり黙ってしまった。これも珍しい。
私は首を傾げつつ、意外に心地よいヒル魔くんの手にすっかりご満悦だった。

数日後の昼休み。
咲蘭が持ってきたファッション誌。お弁当を食べながらあれがかわいい、これがかわいいと騒ぎながらページを捲る。
かわいいワンピースが欲しいなー、なんて考えてた私の前でアコが特集ページを開いた。
「今回は何?」
「『仕草で判る男の本音』だって」
「ふーん」
色々な項目を眺めていくけど、アメフト部にはあんまり縁がないかな。
一年生はみんな裏表のないいい子たちだし、二年生もほぼいい人揃いだし。
若干一名そのカテゴリーに入れられない人がいるけど。
ぼんやりそんな事を考えながらお弁当を食べていたんだけれど。
「あー、男の手が熱いときってヤりたい時なんだって」
その言葉に私は箸を取り落とす。
「どうしたの? まも」
「顔赤いよ?」
「え、う、ううん、なんでも、ない・・・」
どう見てもなんでもなくはないだろう。
アコと咲蘭の二人は鈴音ちゃんみたいにアンテナをぴんと立てて私に詰め寄ったけれど、私は曖昧に笑ってどうにかその場を逃げ切った。
まあ、ヒル魔くんだし。
一般的な男性のカテゴリーに入らないかもしれないし、あれだって疲れて眠かったから手が熱かったとかそういうことかもしれないし。
だから大丈夫なのよ! 多分!
自分に気合いを入れて、私は今日もアメフト部に顔を出す。



そして。
『男だからな』
その一言にかなりいろんな意味が含まれていたのだと私が気づいたのは、結構後のことだった。


***
ヤメピさんとのメールで出来た話です。相変わらずかわいそうなヒル魔さんと天然まもりちゃんでした。 
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