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旧『そ れ は 突 然 の 嵐 の よ う に』です。 ア イ シ ー ル ド 21 ヒ ル ま も ss 中心。 いらっしゃらないとは思いますが、禁無断転載でお願いします。

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アイソレーション・タンク(4)



+ + + + + + + + + +
ヒル魔はちらりとまもりを伺った。
相変わらず黙々と作業している。手元は淀みなく、的確に動いている。
自らもタイピングを止めることなく、考えるのは別のことだ。
東京大会を勝ち進む間は、データ整理していても掃除していても、まもりは何かしら話をしていた気がする。
それは大抵彼女から他愛ない日常のことを口にしたり、見たテレビ番組だとか読んだ本だとかの話題を持ち出してきていた。
ほとんど聞き流すだけだったが、それがBGMのような扱いにもなっていた。
労せず脅迫手帳の中身が埋まる、とからかうとしばらくは黙るが翌日には同じように喋っていた。
それが今はどうだ。
しんと冷えた空気は寒さばかりのせいではない、とヒル魔は内心舌打ちする。
「おい」
声を掛けただけでまもりは手を止め、立ち上がろうとする。
コーヒーを所望したわけではない。
けれど、このところ声を掛けるといってもそれ以外で声を掛けることがなかった、と気づいてますます苦々しい気分になる。
「テメェこのところDVDばっか見てんだってなァ」
それにヒル魔の隣を通り過ぎようとしたまもりは目を丸くした。
「・・・そうよ」
何で、と口にしようとして、結局まもりは言わなかった。
見上げてくるヒル魔と視線がぶつかったが、ふいと反らしてカウンターの後ろへと向かう。
聞くまでもない。彼の情報網はまもりの予想もしない範囲まで広がっているのだと知っている。
何でも知っている彼に何故と尋ねるだけ無駄だ。
「何見てんだ」
「色々よ」
「色々? 随分と偏ってるみてぇだが?」
「知ってるなら聞かないで」
コーヒーメーカーの音、香しいコーヒーの匂い、カップを用意する音。
当たり前のようで、まだ一年にも満たない期間でしか味わっていない空間。
ヒル魔は静かに問うた。
「なんで泣く?」
その声に、まもりは咄嗟に自らの頬に触れた。
知らぬ間に泣いたかと思ったのだ。けれど、頬は乾いていて眦にも涙の気配はない。
「・・・そういう気分だからよ」
声が僅かに震えたが、コーヒーメーカーが一際大きく音を立ててそれをかき消した。
「どんな気分だか」
呆れたようなヒル魔の声に、まもりはぎゅっと奥歯を噛みしめた。


ヒル魔がいつもの通りマシンガンを片手に歩いている。
声を掛けようとして、隣を駆け抜けていく小さな影に気づく。
鈴音がくるくるとよく変わる表情のまま彼の元へ駆け寄り、何かをまくし立てる。
それを煩そうに聞きながらも、決して嫌そうではない様子を見て、まもりの胸がひどく痛んだ。
いつの間にか目の前には頑強な鉄格子が壁となって現れ、その先に進めない。
自らが縋り付く鉄格子は冷たいだけで、幸せそうに見える二人までの距離を如実に感じさせる。
ああ。
彼が恋愛などに現を抜かす暇などないと、誰が決めた?

耳障りな音に目を開くと、テレビの砂嵐がその元だと気づく。
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようだった。
のろのろとリモコンを手に電源を落とすと、改めてベッドの中に入る。
泣き疲れてだるい身体は睡眠を欲している。
頬が冷たく濡れているのを枕に押しつけて。
先ほど見た夢を忘れたくて、まもりはきつく瞼を閉じた。

<続>
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